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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
おでかけと再会

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おにぎり作りとおでかけ

 次の週末、私はアリサと外出することになった。

 頭を悩ませたのは、どういうプランで彼女に東京を楽しんでもらうかということだった。


 ニナ曰く、仮家は地球とレムガルドの時空の狭間では、かなり地球寄りにあるらしい。

 つまり物を持ち運びするのも、滞在するのも地球の方が遥かに好条件だ。


 それでも、ニナから言い渡されたアリサの地球滞在時間はたったの六時間だった。


「往復の時間を考えると、結構キツいなぁ……」


 自宅でスマホを弄りながら、日帰り観光スポットをチェックしては消していた。

 遊園地、美術館、動物園と。


 どれも定番だけど、アリサのレムガルドでの応対を見ると、並大抵のことでは驚きそうにない。

 モンスターや美術品なんか、大抵のものは見飽きてそうだ。


「あ……でも、これなら!」


 いい案が浮かんだ。適度にエキサイティングで、レムガルドには多分ないだろう娯楽。


 一つは決まりだ。でもあともう一つ、やらなければならないことがあった。


「……お弁当、何作ろうかな」


 もちろん、せっかく出かけるのだから外食にするという手もある。


 東京にはおいしいお店がいっぱいだ。

 ミシュランガイドで最多星獲得の街でもある。


 でも、私も料理人のはしくれだ。

 外食でも手作りでもいいのなら、手作りをする。


 それが私なのだった。




 ◇




 土曜日の朝、アリサとの外出日が来た。


 夏が近いので、かなり寝苦しい日だった。

 時刻は午前七時、私はもそっと起きだし、お弁当を作り始めるのだった。


 結局、私はお弁当の代表格、おにぎりを作ることにした。

 おにぎりは平安時代より前に生まれた、非常に歴史ある料理だろう。


 携帯によく、具材を外気にさらさずにすみ、手軽に作れる。

 まさにお弁当にうってつけの定番料理だ。


 前日に炊いたお米を用意し、まず私は手を氷水にしっかりと浸けた。

 熱いお米をそのまま握るためだ。


 その後、手の水分をほどよくふき取った。

 水分があり過ぎるとお米が手に張りついて、うまく形にならないのだ。


 逆になさすぎると、肝心の塩が手に乗らなくなってしまう。


 炊飯器からお米をばさっとまな板に移し、いよいよ握り始める。


 塩は指三本と少しがちょうどいい。

 熱々のお米を両手で包み込めるくらい取り、まず形をざっと作る。


 そして一回、二回。これで、塩むすぎの出来上がりだった。

 コツはあまり力を入れ過ぎず、また握る回数を多くしないことだ。


 具材のない塩むすびだけれど、私はこの簡素な料理を気に入っていた。

 シンプルイズベスト、でも極めようとすると、とても奥深いのだ。


 同じ要領で、自分用にもうひとつ塩むすびを作った。


 ただ、塩むすびだけにするつもりはない。

 次のおにぎりには作っておいた具材を入れる。梅干しとおかかだ。


 梅干しは、はちみつ漬けの甘みがあるものを使う。

 梅干しの種は丁寧に抜き、醤油と煮こんだかつお節のおかかと絡ませる。


 手間はかかるけれど、しょっぱさと甘辛さが組み合わさり、とてもおにぎりに合う具材なのだ。


 握る工程は塩の場合とさして変わらない。

 具材の分お米の量を減らすだけだ。熱々のお米の中に梅おかかを入れて、閉じ込める。


 一瞬だけれども、醤油の匂いがふわりと鼻をつく。


 最後の具材は、辛子明太子だ。

 歴史的には明治以後の食べ物になるけれど、お米との相性は抜群の一品でもある。


 福岡から取り寄せた高級品を、おにぎりへと贅沢に使っていく。

 このくらいの品になると、身がでっぷりしてつまんだ弾力だけでも違いがわかるのだ。


 これは少し大きめにお米を取り、具材を入れてぎゅぎゅっと握る。


 おにぎりを二個ずつ握り、しっかりとお弁当箱に入れれば、準備は終わり!




 ◇




 アリサは時間通り、九時半に私の玄関に現れた。

 青と白のチェックのパーカー、ほどほどに長いスカートと、高級感ある茶色の靴が眩しい。


 ちなみに犬耳と尻尾はみごとに見えなくなっており、文字通り消えていた。

 きっと、魔法で隠してるんだろう。

 アリサの耳と尻尾はリアルすぎるので、その方がありがたかった。


「お、おまたせ…………彼方」


 アリサの声は、緊張のせいか少し上擦っていた。

 なんだか後輩成分が増しており、さらに可愛らしい。


「ま、待ってないですよ。さぁ行きましょう!」


 最初の移動には、家からタクシーを使わせてもらった。

 経費は二人から貰っているし、これなら邪魔が入ることはない。


 二人に渡した暇潰しアイテムの中には、当然本や音楽、DVDの類いもある。

 知識としては相当日本のことは知っているのだ。


 それでも、タクシーは驚きだったようだ。

 運転手に聞こえないよう、普段よりもさらに小さく低く、アリサが話しかけてくる。


「これが車……全然揺れない」


「すごいでしょ?」


「…………でも、爆発はする」


 しまった、アクション映画ばかり買って見せたせいか!

 妙な誤解が生まれていた。

 アリサの中で、日本が大爆発危険地帯になってしまう。


「冗談……だよ」


 私の顔に出ていたのか、アリサはふっとちょっとだけ愉快そうに、そう言ったのだった。


 ううむ、からかわれてしまった。

 でも、そんな顔を見ることができたのも、こちらならではかも知れなかった。



 ◇



 楽しいお喋りの時間はすぐ終わり、目的地に到着した。

 時間通りだ。通りには人がもうすでにたくさん歩いている。


 コンクリートから上がる熱気が恨めしい。

 いくつか海外を旅した私でも、日本の蒸すような夏はいつも厳しい。

 

 私たちが目指すのは、ビル街の中でもひときわ目立つ、あの建物だ。


「ここは……?」


 建物自体は、他とほとんど変わらない。

 ただ、でかでかと看板が掛けてあるのだけが違った。


「これが映画館です、アリサ!」


 もしアリサの尻尾が見えていたなら、ぴこっと動くだろう。

 私にはそんな風に思えたのだった。


「アリサのよく見ていた映画の最新作、観にいこう」


「…………ゾンビワールド?」


「いや、違います」


 前にこの映画だけは、何回でも見るって言ってたじゃん!


「じゃあ……デスシャーク……違う? 他には………ギャラクシードライバー?」

「そう、それ!」


 ギャラクシードライバーはちょっとニヒルで、あらゆる乗物で銀河一という主人公のSF超大作だ。


 大きなスクリーンで見るには最適の映画のはずだった。

 席も前もって予約したので、いい位置に座れるだろう。


 あっと、忘れてはいけないのは、ポップコーンとコーラだ!


 映画をみるなら、この菓子を欠かすわけにはいかない。

 実はポップコーン用のトウモロコシを買ってくれば簡単にできるんだけど、こんな機会は逃せない。


 頼むのは、もちろん定番の塩味ポップコーンだ。

 一人分を二人で分ければ、昼食にも差し支えないだろう。


「何これ……」


 アリサは今、左手にコーラを持ちながら、ポップコーンを人差し指と親指でおっかなびっくりつまんでいた。


 ぐにっと指に力を入れたり緩めたりしているようで、完全に食べ物と認識してない持ち方だった。


「トウモロコシを炒った食べ物です、ほら」


 私はそのまま、がさっと一すくいして食べはじめる。

 う~ん、確かな塩味と、熱々のコーン、さくさくの触感、それとぱりっとした皮の部分!


 調子に乗って、私はもう一口分食べてしまう。食べるとついつい、やめられないのがポップコーンだ。


 さらに、コーラをぐっと飲む。瞬間、口の中ではじける炭酸が心地いい。

 私の食べる姿を見て、アリサもつまんだポップコーンをすっと口に入れる。


「……塩の味、ぱりっと変わった食感」


 そして、そのまま手の平にすくって、一回二回と食べていく。


「コーラを合間に飲むと、さらにいいよ」


 左手にあるコーラを指さして、アリサにアドバイスする。

 ポップコーン、コーラ、ポップコーン、この流れはまさにアメリカンスタイルだ。


 ◇



 映画自体は、期待通りの出来映えだった。

 ちなみに4DXという座席が動いたり、風や蒸気がふりかかかるタイプだ。


 アクション映画なので、当然かなり激しく動いた。

 ぐわんぐわん揺れながらも、アリサの表情は変わらない。


 だけども、映画のエンドロールまで終わり、劇場内が明るくなってもアリサは席から立ち上がらなかった。

 どうしたんだろう。


「立てない……」


「へ……?」


「……膝ががくがくする」


 どうやら刺激が強すぎたらしい。

 申し訳ない気持ちになりながら、小さく暖かい手を掴んでアリサをゆっくりと立たせた。


「ごめんなさい、初めての映画だったのに」


「ううん……すごい映像だった。あれが、全部作り物……」


 頭の中で消化しているのか、ちょっとぼんやり気味のアリサだった。


 その後、映画の感想を話し合いながら、私たちは劇場を出た。

 このあとはちょっとショッピングをして、お弁当タイムになる。


 休日なのもあって、街は人で溢れかえっていた。しかも、肌がじりじりするほど日差しが強い。


 アリサは全く汗をかいていないようだが、私はすでにじわりと汗をかいていた。

 こういう時、魔法使いはすごい便利だなぁと思うのだった。



 ◇



 少し歩いて喉が渇いた私は、自販機で新商品のお茶を買う。

 新しい飲料品をチェックするのは、もはや習慣だった。


 覗きこみながら取り出し口からペットボトルを取る時、デニムパンツを着た女性が側にいるのに気がついた。

 いつの間にか、近寄ってきていたのだ。


 そのまま、視線を上にあげ――私は驚愕した。


「久しぶりだな、カナ。年始休み以来だな」


 スポーツをしているのが一目でわかる、やや筋肉質ながら均整な体型な女性だ。

 鋭い声と瞳。流れるような腰までの黒髪と、硬そうだが非常に整った顔立ち。


 見間違えるわけがない。

 私の従姉、佐々木巴(ささき ともえ)だった。


「……隣にいるのがアリサ殿だな。はじめまして、彼方の従姉、佐々木巴だ」


  現在、彼女は外務省勤務――つまり、政府のお役人のはずだった。

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