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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
貝殻の国、料理対決

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フライ&トマトソース

 フライドポテトとトマトソースが、審査員に配られる。

 二度揚げのため、色は濃い肌色だ。

 塩こしょうの粒が浮いていて、パセリとバジルがちょっとした緑をつけている。


 ちなみに審査に影響しないよう、魔法で暖め直したらしい。

 こういうところの便利さは、魔法ならではだった。


 一歩前へ出て、審査員の方に向き直る。


「まず、揚げたじゃがいもから食べてみてくださいっ」


 ポテトの基本は、塩味だ。

 さくさく食感のためにも、そのまま食べてほしかった。


 審査員は、フォークでポテトを刺して口に運ぶ。

 こしょうのスパイシーな香りが最初に訪れるはずだ。


 暑い季節では、食欲増進に香辛料が必要になる。

 じゃがいもの素朴な味は、塩やこしょうとぴったりだ。


 二度揚げでぱりっとした小麦粉の音が、小さく聞こえる。

 手間をかけると、揚げ物はぐっと食感が良くなる。


 さく、さく、さく。

 外はからっとしているけれど、中はしっとりだ。


 じゃがいものほくほく感が、さくっとした歯応えと共鳴しあう。

 アンバランスな中に、塩味が効いてくる。


 揚げる技術は、コンロのような温度調整が楽な機材がないと難しい。

 あとは、油だ。

 質の悪い油では、決して美味しくはならない。


 審査員もいささか驚いたようだ。


 料理としては易しいけど、手が止まらなくなる魅力がポテトにはある。

 日本でも大人気の料理だ。


 審査員もいくつか食べ進める中で、虜になっていく。

 特にアリサは、かなりのハイペースで食べていた。


 いや、まだソースが残ってる。

 ポテトはソースによって、がらりと印象が変わるのだ。


「赤いソースも、つけて食べてみてくださいね……!」


 トマトベースのソースは、酸味をもたらしてくれる。

 じゃがいもにない第三の味わいなのだ。


 しかも、ソースにも香辛料を混ぜている。

 ぴりっとした辛みは、さらにポテトをかきたてる。


 色合いも重要だ。

 暖色の赤は、食べる気を起させる。


 トマトを手作業ですりつぶしたソースだ。

 かなりのとろみとぱりさく感が、飽きない体験を与えてくれる。


 唐辛子の刺激は、じゃがいもに紛れていく。

 口の中でトマトの甘味と酸味が、じゃがいもと組み合わさる。


 真逆の味わいが、ポテトを更なる次元に引き上げる。

 まさに大衆料理の完成点だ。


 青い服をきた審査員のお兄さんが、ソースの器を手に持ち、匂いを確かめる。


「トマトがここまで有用な野菜だとは……驚きです」


「貝殻の国でも、最近見つかった野菜だな。物好きが食べるものだと思ったが……」


 地球でもトマトが高い地位を得たのは、ここ三百年くらいだ。

 とうもろこしやじゃがいもと違い、トマトは主食の作物にならない。

 ソースが洗練されるまで、トマトは広がることはなかったのだ。


「酸味が、とてもいいですね。肉料理にも合いそうです」


 天山の王様が、この前の盾の会を念頭に発言する。

 あの時は、レモンとガーリック、グレイビーソースが出てきたのだ。


「はい、肉にも良く合いますよ。今回の衣みたいに小麦粉にも合います」


 パンやパスタにも、トマトは多く使われる。

 ハンバーガーに切ったそのままが入るくらいなのだ。


 じゃがいもが題材だけれど、引き立て役は必要だ。

 この場合、ソースが大きな役割を果たしている。


 アリサは相変わらず、もふっと表情を変えずぱくついている。

 周りの人が考え込んだり、隣の人と話すのには無関心だ。


「揚げ物はわが国にもあるが、こちらの方が遥かに良い。理由はなんだろうか?」


 羽飾りのお兄さんは、調理法に関心があるようだ。

 巴姉さんの肉じゃがでもそうだった。


「じゃがいもは水によく漬けないと、べちゃりとします。あとは二回揚げるとかなり違うんです」


「二回? ふむ、それでこうも変わるものなのか」


 小首を傾げ、お兄さんは思案する。


 二度同じことする、というのは一見無駄だけど、料理ではそうではない。

 味を閉じ込めるのに二度行うのは、重要なテクニックなのだ。


「彼方の故郷では、この料理はどういうときに食べるんだ?」


 イシュム大公がポテトをソースにつけないで食べながら、聞いてくる。

 彼は塩味の方が好きなようだ。


 この質問は、慎重に答えないといけない。

 時にジャンクフード扱いされてる、と感じ取られては駄目だろう。


「え~と、気軽に食べますね……大量に作れる料理ですし」


「……まあ、うまく切って揚げるだけだからか。その揚げ具合を見極めるのが、技だろうが」


 うう、言えない。温度計と時計があれば、子どもでもできるって。

 完成度では差があるけれど、下ごしらえは簡単だ。

 フライドポテトが普及する理由の一つに、作りやすさがあるのだ。


「神祖様から……何か一言?」


 イシュム大公は、アリサに軽く一言を求める。

 畏まっても無駄だと思ったのだろう。


 大公の聞き方に、王様と羽飾りの人がぎくりとする。

 しかし、アリサは当然気にするわけはない。


「……審査にうつる。ちょっと待って」


 そう言うと、審査員席からの音が急に遠ざかる。

 何重ものカーテンが、かけられたみたいだ。


 私からはわからないけど、これも魔法だろう。

 内緒話にうってつけの魔法だ。


 審査員の声が聞こえないのと反比例して、胸が早鐘を打つ。

 心臓のどきどきが、うるさいくらいだ。


 不思議な静けさはほんの十分くらいだったろうか。

 音が、戻ってくる。


 審査員席の魔法が解除されたようだ。

 つまり、結果が出たということだった。

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