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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
貝殻の国、料理対決

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海辺風肉じゃが

 先に出来た巴姉さんから、審査員は実食にうつっていく。

 私にも小皿に肉じゃがが用意された。


 フライドポテトも、出来上がっている。

 振りかけた塩こしょうが、あたりに漂っていた。


 係員が運んできた肉じゃがは、変わったタイプだった。

 しらたきやにんじんはなく、じゃがいもとたまねぎと豚肉だけなのだ。

 具材をしぼって、じゃがいもを主役にしたようだ。


 しょうゆではなく、酒と砂糖の甘辛い匂いが立ち上る。

 そう、しょうゆは用意されてはいなかったのだ。


 箸でつつくと、じゃがいもはほどよく崩れた。

 すごく上手く煮込んでいる。


 審査員と同時に、私も肉じゃがを食べ始める。

 イベントごとはみんなで堪能するのが、好きな私なのだった。


 味が染み込んだ豚肉と、じゃがいもとを一緒に頬張る。

 豚肉はかなり小さく切り落としされている。


 まず濃厚な昆布と魚の風味が、しっとりと絡んでくる。

 巴姉さんの得意な、海産系で味が調えられている。


 日本風というよりは、東南アジアの色合いがある。

 貝や魚の出汁を使っているのだ。


 豚肉は軽く煮込んであるだけなので、かなり柔らかい。

 最後にいれることで、固くなるのを防いでいる。


 品種改良されていないので、肉質は日本のよりもかなり固い。

 細かくするのと、思いっ切り濃い目にすることで解決しているのだ。


 海を思わせる出汁が、肉とじゃがいもを包み込んでいる。

 汗をかいてしまうけど小腹の空いた私は、かきこみように食べてしまう。


 さらに、一度冷ましてから温め直す技法も使っている。

 機材が限られてるからこそ、引き立つ技だった。

 こうすることで、煮物はより染み込んでおいしくなる。


 加減のうまさは、私ではまだ及ばない。

 もぐもぐ……流石だなぁ……もぐっ。


 審査員も、一様に驚いているようだ。


「漁師風スープなのに、豚肉とじゃがいもが調和している」


「この調理なら、大量に作れるのではないか?」


「……おいしい」


 他の具材はたまねぎだけだ。

 この理由は、食感を変えるためだろう。


 たまねぎは出汁づくりにも使える野菜だ。

 にんじんやしらたきはソースにならないが、たまねぎはなる。

 香味野菜として、ソースになるだけはある。


 箸でつまむと、かなり柔らかく煮込んでいた。

 噛むと、じゅわと甘辛い出汁が出てくる。

 舌に感じるのは、磯の旨みだ。


 炒めて煮込んでるので、くたっとはなっていない。

 一つの具材には、出来ることを仕込んでいる。


 手抜きゼロ、容赦なしの出来栄えだった。

 当然、巴姉さんも勝つつもりで来ているのだ。


 一通り食べ終わったようで、審査員は巴姉さんに質問を投げかけた。

 口火を切ったのはイシュム大公だった。


「美味しい料理だった。これは、トモエの故郷の料理なのか?」


「そうです、大公様」


「ふむ……我々のスープに似ているが、味の深みが違う。調味料は持ち込み可能としたが、使っているのか?」


「いいえ。用意された食材、調味料だけを使いました」


 アリサを除く審査員は、顔を見合わせる。

 ニナとアリサに聞いた話では、地球側はレムガルドにデザート類しか渡していない。


 贈答品で煮物を送る人はいないし、日本の家庭料理は知らないのだろう。

 この野外キッチンと食材に大金が必要なら、調理する場もない。


 次に発言したのは、羽飾りのお兄さんだった。


「……かなりの手間がかかったようだが、もう少し簡単につくれるのか?」


「はい、えー……醤油とみりんという故郷の調味料があれば。大豆から作れます」


 さりげに巴姉さんも、日本を売り込んでいく。

 イベントごとにおける、宣伝の重要性が分かる一幕だ。


 その後もいくつかの質問がきたが、巴姉さんは如才なく回答する。

 私はそこで、巴姉さんが地球出身ということを隠していることに気がついた。


 巴姉さんだけじゃない、イシュム大公も異世界の地球に触れていない。

 私も何か聞かれても、気をつけた方が良さそうだ。


 最後に、アリサが総評するらしい。


 空気が一気に張りつめる。

 観客も、びっくりするぐらいに静かに見守っている。


 でも、私が見る限りはアリサは居心地悪そうにしていた。

 注目されることが好きではないのだ。

 イシュム大公も食べてる時との落差が大きいと思ったらしい。


 アリサに話をさせるのが得策でないと判断したようだ。

 そのあたりの感覚はやっぱり鋭い。


 イシュム大公はアリサに行儀よく耳打ちする。

 多分一言でいいから! みたいな感じだろう。


「美味しい料理だった。また食べたい……じゃ、次」


 うおっ、なんというコメントだ。


 天山の王様も、身じろぎして若干困惑している。

 イシュム大公も一瞬固まったが、すぐに気を取り直し大声を上げた。


「よし――続いて神祖の料理人、彼方の料理だ!」


 きた、私の番だ。

 やれることはもうない。

 色合いとしてバジルやパセリも盛りつけたのだ。


 後は、食べてもらうだけだった。

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