対決の料理は
じゃがいも料理といえば、もっともよく見かけるのはフライドポテトだろう。
ハンバーガーやステーキの付け合わせとしても、なくてはならない。
他にも肉じゃが、ポテトサラダ、コロッケ、スープ、カレーでもメインの具材になれるのだ。
使う人によって様々な顔をみせる食材、それがじゃがいもだった。
ただ、多彩な面が活かせるのも日本で調理するならだ。
レムガルドのじゃがいもは明らかに、質としては日本産よりも劣っている。
品種改良、肥料、農薬の数百年の差が出てしまっているのだ。
果たして、このじゃがいもで日本と同じ調理をしていいものだろうか。
一番良さそうなのは、やはりフライドポテトだ。料理法もさほど難しくない。
基本は小麦粉をかけて揚げるだけだ。
じゃがいもの拡販という予想が当たりなら、フライドポテトはぴったりのはずだ。
なにせ世界中で売られている料理なのだから。
巴姉さんも同じ発想に行きついてるかもしれないけれど、構わない。
自分が正解だと思った料理をするだけだ。
よし――やろう!
運がいいことに、小麦粉と油は用意があった。
これも日本の市販品とは違うけれど、なんとかなるだろう。
まず、じゃがいもの皮をむいていく。
不揃いなのでやり辛いけど、皮が残ってると食感が台無しだ。
丁寧にむいていくしかない。
イシュム大公が、私たちの一挙手一投足を会場に実況している。
大声で調理過程を明らかにされるのは、結構恥かしい。
じゃがいもの皮をむいたら、くし切りにしていく。
もうお馴染みのポテト型だ。
べちゃっとした食感にしないためには、でんぷんを抜く必要がある。
器に水をたっぷりと入れて、ポテトを入れていく。
出来るだけ長くつけた方がいいので、しばらく放置しよう。
その間にソース作りをしてしまうのだ。
夏で野外、食欲が落ちる季節でもある。
こういう時は辛めのトマトソースが一番だ。
オリーブオイルとにんにくのみじん切りを、弱火にかける。
香ばしいにんにくの香りがしてきたら、玉ねぎのみじん切りも加えて炒めるのだ。
その間に、トマトをペースト状にしておく。
缶詰があれば便利だけど、今回は手作業で全て作るしかない。
玉ねぎが柔らかくなったら、トマトと水を入れて中火にする。
沸騰次第、弱火にしてあくをとり、味を調える。
濃い目の味がいいので、塩を大さじ二杯くらい入れる。
黒コショウも小さじ一杯必要だ。
あとはチリパワダーがあれば良かったんだけど、流石になかった。
しかたない、唐辛子をすりつぶそう。
う~ん、刺激はあるけど味は粗削りかもしれない。
パプリカも投じて、穏やかだけどスパイシーにしよう。
ソースはこれでいい。煮込んで完成だ。
悪戦苦闘している間に、じゃがいもの水付けは終わっていた。
よく水を切るだけじゃなく、布で水気を吸い取っていく。
ちゃんとやらないと、かりかりにはなってくれない。
小麦粉も薄力粉と強力粉があったので、両方をブレンドしてポテトにかけていく。
心持ち、薄力粉を多めにしておくのがコツだ。
この割合だとかなりざくっとした食感にはなるはずだった。
フライパンに菜種油をたっぷり入れて、ポテトを沈めていく。
ちょうど、沈むくらいだ。
強火で一気に、ポテトを揚げていく。じゅわあとした音が、気持ちいい。
菜箸から少し泡がでるくらいで、数分揚げていく。
ここで、一度ポテトを全て取り出す。
今回は二度揚げでよりよいフライドポテトを作るのだ。
油を二百度まで熱したら、ポテトを再びフライパンに戻す。
これで数分、素晴らしい仕上がりになるはずだ。
その時である、巴姉さんの方から声が上がる。
上気して、はりつめている顔をしている。
やっぱり普段よりも神経を使うのだ。
「出来たッ!」
はやいっ、私もあとちょっとでできるけど!
イシュム大公は実況に集中していたようだけど、私に向きなおる。
司会としての顔だった。
「……ふむ。彼方も、もうすぐできそうか!?」
「はい……!」
「ならトモエの料理から試食を始めよう、冷めては台無しだ!」
ほぼ同時に出来上がる状況だ。
係員が巴姉さんの料理を、審査員席に運んでいく。
見ても仕方ないと思いながらも、好奇心はある。
ぐっと首を伸ばすと、一目で巴姉さんの料理が分かった。
深いお皿に、でんとじゃがいもが鎮座している。
きつねいろのたれがかかっているようで、にんじんやたまねぎもある。
切り落としの肉も入った、私もよく見る料理だ。
じゃがいもを使った日本料理としては、伝統の品だ。
「……肉じゃが!」
ポテトに最後の塩こしょうをかける手は、止めない。
あとはよそうだけだった。
私の料理も、出来上がりなのだった。




