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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
貝殻の国、料理対決

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大公の宮

 その夜、私は夢を見なかった。

 アリサと一緒にいると――不思議な夢を見ると思っていた。

 思い込みだったのだろうか。


 初めてのお泊りだったけれども、緊張はしなかった。

 寝苦しくはなかったし、やっぱりアリサと一緒だったのは大きい。


 よく知っている人と同じなら、未知の場所でも怖くなくなる。

 話しっぱなしだった私は泥のように、眠りこんだ。


 朝、時計がなくても私は目が覚めた。

 窓を開けると、港町が動き出しているのがわかる。


 漁師や商人の朝は早い。地球でも、市場は同じだ。

 身支度をぱぱっと済ませ、アリサを連れて広間へと降りていく。


 広間には、すでに王様や黒の騎士の皆も揃っていた。

 皆の顔つきが、少しだけぴりついている。


 もう、今日の昼には料理対決が始まるのだ。

 私にとってはニナとアリサのためのお仕事だけれど、天山の国にとっては国と国との外交事業だ。

 真剣の度合いが違うと言えば、違うのだろう。


 私も負けてやるつもりはないけれど、まだ肝心のお題もわからない。

 今から消耗していては、本番まで持たない。


 料理はもとより気力と体力が問われるのだ。

 ギアの切り替えを間違えては、いい料理は出来上がらない。


 努めてリラックスしている私を連れて、馬車はまた走りだす。

 王様も昨日と違い、言葉は多くない。


「……今日の彼方様は、いつもと違いますね」


「違い……ですか?」


「全身に力が張っており、目に力がありますよ。決闘前の騎士のようです」


「……そ、そんな風に見えますか」


 自分では、そんなつもりはなかったのだけれど。

 王様は腕を組み、頷きながら続けてくる。


「集中されてるんだと思います。とても、良いことです」


 ま、まぁ姿勢を評価されるのは悪いことじゃない。

 ちょっとだけ、頬が緩みそうになる。


 馬車は昨日と同じルートで、グリフォンのもとに戻ってきた。

 くくりつけをされて、また空へと羽ばたいていく。


「会場である大公の宮まで、そう時間はかかりません。大使館からグリフォンを待たせてあった広場までと、変わらない筈です」


 港町が瞬時に遠ざかるのを見ると、地上と飛行の違いを思い知る。

 地球の言い方なら、小一時間だろう。


 雲の高さで走り山々を越えていた昨日に比べて、今日は海の上をひた走る。

 小島と岩礁が多く、海はコバルトブルーの美しさだ。


 そうだ、東京に比べると格段に海が澄んでいる。

 天気もいいし、季節は夏だ。泳ぐと気持ちいいだろうなぁ。


 いくらか海に出ると、煙を吐きながらゆく船を見かけた。

 港町の船は、中世のようなマスト船ばかりだったのに。


 沖合に出るにつれ、煙を出す船は徐々に多くなる。


「蒸気船ですね、数を増やしているようですが……」


「おかしいことなんですか?」


 王様は、珍しく眉間にわずかにしわを寄せている。


「蒸気船はレムガルドで生まれたものではありません。貝殻の国はかなり積極的に、地球の技術を取り入れているようですね」


 そこまで言うと、王様は顔を背けた。

 うっかり、失言した時のように。


「失礼……彼方様の勝負には、関係ないことでした。お忘れください」


「い、いえ……」


 正直、何で謝られたのかよくわからなかった。

 曖昧に頷いておいて、流すことにする。


 そのまましばらく飛び続けると、ついに大公の島に着いたようだった。

 白と青の宮殿が、そびえたつ小島だった。

 でも、朝出た港町より二倍は大きい町を抱えているようだ。


 蒸気船とマスト船が、数えきれないくらいぐっちゃりと停泊している。

 馬車から眺めるだけでも、人もごった返している。


「隊列、組めぇ! 最後まで気を抜くなよ!」


 ベルツさんの野太い声を合図に、ゆっくりとグリフォンは降下していった。




 ◇




 会場は大公の宮ということだったけど、白と青の宮殿には入らなかった。

 なんと野外ステージが設けられ、そこでの勝負になるとのことだった。

 思ったよりも、大きな催しらしい。


 公平性のため見られている中で、料理することにはなると思っていたけれど。

 空には雲一つなく、まさに快晴だ。

 外で料理するにも、支障が出る天気ではない。


 グリフォンとペガサス騎士は裏庭へと降り、私たちは馬車を出た。

 さすがに、アリサも自分の脚で馬車を出るようだ。


 そこでは水色の服色に包まれた一団が、両手をへその前に組ながら待っていた。


「貝殻の国の大公と、高官たちですね」


 王様は、素早く小声で教えてくれる。

 水色の一団の中央にいる、男の子が前へ出て礼をする。


 見た目は中学生くらい黒縁の眼鏡をかけており、油断のならない目つきをしていた。

 話に聞いていた通りの大公だ。


「遠路はるばる、まずは来られたことに感謝する。貝殻の国の大公イシュムだ。……ん? 神祖様はいずこだ?」


「……ここ」


 するりと私の足元をすり抜けて、アリサが前へ出る。

 ぴこっと、右脚を前へ出して挨拶する。


「おお……なんと、凛々しいお姿か。お初にお目にかかる、大公イシュムだ」


 なんとイシュム大公はアリサの前に屈み、むにっと握手する。

 隣で王様が、ごくりと息を飲む音が聞こえる。


 ここまでアリサに物怖じしないのは、ベルツさんくらいだった。

 やり手の政治家というのは、本当らしい。


 そのあと、王様と私の紹介が続く。

 事前に手紙で連絡しあっていたらしいので、簡単なものだった。


「儀礼の類は省くようにとのことだったので、本当に省いたぞ」


「構いません、望み通りです」


「ああ、あと……こちらの料理人も紹介しておこう」


 イシュム大公が呼びかけると、また別の一団が宮殿から現れた。

 同じように水色の服を着こんでいる。


 近づいてくるにつれ、段々と顔がはっきりする。

 そこで、私は背中にざわめきが走った。


 ありえない。

 まばたきを何度もして、先頭の人物を確認する。


 すらりとした身体に、しなやかな動き。

 化粧が濃いけれど、間違えるわけがない。

 息が荒くなってしまう。


 どうして、ここにいるのだろう。


 現れたのは、佐々木巴――私の馴染みの従姉だった。

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