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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
貝殻の国、料理対決

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31/44

空へ

 手紙が送られてから、料理対決まであっという間に時間は過ぎていった。


 題材はわからなかったけど、出来ることはある。

 夏休みの暇な時間、なるべく色々な料理を試したのだ。

 特に中華料理は不勉強だったので、いい機会だった。


 他にも、ちょっとした食べ歩きを心掛けた。

 ささやかだけれども、対決の足しになればと思ったのだ。


 もちろん、ニナとアリサへのリサーチも忘れていない。

 レムガルドの一般的な料理を知りたかったのだ。

 とはいえ、成果はあまりなかった。


 もてなしの料理は難しすぎて、作り方は皆目わからないということだった。

 旅の間、自分で料理を作ることもほとんどなかったらしい。


「獣人族は、狩猟と放浪に生きるにゃん。凝った料理は、そもそも作らないのにゃん」


 巴姉さんにも連絡をとってみたけど、レムガルドに出張中なのか返信はなかった。

 アウトドアに近い環境での料理もありうるので、知恵を借りたかったのだ。


 出張中は返事を返せないこともあると前に謝られたので、仕方のないところだった。




 ◇




 迎えた出発日、私は小さなバッグに包丁と調味料を詰めこみ、スタンバイしていた。


 リビングの床に、私はぺたりと座っている。

 アリサは犬の姿になって、膝の上だ。


 うまく体重をずらしてくれているので、さほど重くはなかった。

 もこもこの身体と体温が、気持ちいい。

 つい右手で、アリサの毛を撫でてしまう。


 私たちの周りを、ニナがぐるぐると回っている。

 歩く道筋には、香炉や手乗りの塔がいくつも置かれていた。

 一つ一つが魔法的な意味を持っているのだ。


 彼女はやはりお留守番とのことで、かなり心苦しい。

 気にしてはいないようだけども、仲間はずれみたいだった。


「こちらからの調整役が、どうしても必要にゃからね~」


 ニナの軽口はいつものことだけど、前の映画にしてもニナはアリサを優先させていた。

 これで二回目だ。近いうちに埋め合わせを考えないといけない。


「……不安にゃん?」


 ニナが足を止め、問いかけてくる。


「いえ……まぁ、それもあるんですけど」


「アリサがいれば、向こうも失礼はしてこないにゃん。できることをやればいいのにゃ」


 歩き始めたニナは、さらに数度周りを回った。

 あくまでも、仕事優先なのだ。


「さて、これでいいにゃん」


 歩きながらの魔法が終わったみたいだった。

 滞在時間を延ばすために、色々準備が必要だったらしい。


「……ちゃんと食材を持って帰るから」


「いってきます……!」


 ニナが手を振る中、私たちは光に包まれた。

 三度目になるレムガルド行きだ。


 私はしっかりとアリサを抱きしめたのだった。




 ◇




 眩しい光が消え、ぬらっとした熱気がまとわりついてくる。

 どうやら、レムガルドに着いたみたいだった。


 私たちが現れたのは、高い壁に囲まれた広場だ。

 短く草が刈られて、雑草一つもない。

 まばらながらも、方々に作業着をまとった人がいる。


 でも、なによりも広場の中央にいるモノに、私は度肝を抜かれた。


「す、すごい……!」


 アリサを地面に置き、小走りで駆け寄ってしまう。

 目の前には、鷲の上半身とライオンの下半身を持つ生き物――グリフォンがいた。


 しかも、かなり巨大だ。五メートルくらいありそうだ。


 くちばしで突かれれば無事ではいられないけど、目つきは優しい。

 よく飼い慣らされた犬猫と同じ雰囲気だった。


 何人もの人が、前脚を触ったり、水晶みたいな石を運んで来てたりしている。

 動きやすく汚れてもよさそうな服だし、きっと飼育係だろう。


 私がレムガルドに来て、はじめて見る生きているモンスターだった。

 しかもファンタジーでは、顔馴染みなグリフォンである。


 ゲームやアニメでも、散々見てきたのだ。

 静かだけどきらりと鋭い瞳に、蹴るだけで大地を揺らす力溢れる前脚。

 焦げ茶の翼は、青い空を影に隠すほどだ。


「うわ~……」


 危ない生き物かも、ということは置いておこう。

 地球では絶対に見られないのだ。


 でもちょっと待てよ、グリフォンで貝殻の国に行くのだろうか!?

 とても素人が乗りこなせる生き物じゃない気がする。


「時間通りですね、彼方様」


 グリフォンがいる奥の広場から、天山の王様が姿を現した。


 レムガルドでは、彼に会わなければ始まらない。

 私にとっては、旅の安全を守ってくれる大事な人なのだ。


 今日の彼は着飾ってはいたが日中の為か、それなりに軽装だ。

 ついて来てくれるとのことなので、到着先を考えてのこともあるだろう。


「……あと、アリサ様が来られるとのことでしたが……」


 首を動かし、王様はアリサを見つけようとする。

 あ、今のアリサの姿までは知らないのか。


「アリサです、はい!」


 私は両手でアリサを抱き上げ、突き出すように強調した。 

 アリサは何かを諦めたように、だらんとしている。

 やっぱり、人前は少し恥ずかしいらしい。


「……な、なるほど」


 私のように不用心に触ることは、流石になかった。

 王様は後ずさり、得心したように頷く。


「そのお姿で、消耗を抑えるというわけですね」


「そう……でも、なるべく早く行くに越したことはない」


「はい、もちろんです」


 王様はそういうと、手を叩いた。


 飼育係の方々が、胴体くらいの太い縄を持ってくる。

 一人が風切る笛を鳴らすと、グリフォンが背を屈めたのだ。

 ちゃんと合図に従うよう、訓練されている。


 でも、あの縄が手綱だとすると、あまりにも大きすぎる。

 そもそも人間に掴める太さじゃない。


 飼育係は、縄を器用にグリフォンにかけていく。

 とんがった頭から胴体、中央部分へとうまいものだった。

 グリフォンも全く身動きせず、邪魔をしない。


 もとより象みたいな大きさなのだ。これだけでも、見ごたえがある。


 まじまじと見ていると、壁から馬車が一台グリフォンに近寄ってきた。

 これまた、普通の馬車じゃない。十人乗りみたいな大きさだった。


 まぁ、普通の馬車もほとんど見たことはないんだけどっ。


 馬車はつやと輝き、太陽の光を受けて木彫りの絵が映えている。

 その合間には、銀や小さな宝石がはめ込まれていた。

 しかも、車輪までも彫刻で飾っている。どう見ても、貴族専用の馬車だった。


 御者も、黒く流線型の鎧兜を着こんでいる。

 かなり背の高い人なんだろう、馬車の巨大さに負けていない。


 あれ? 顔の分からない御者の、背格好に見覚えがある。

 黒鎧の人も、近づくにつれて大きく手を振っている。


 もしかして、馬車の御者をしているのは……。


「お久しぶりですな、彼方様! 今、グリフォンにこの馬車を取り付けますからな!」


 やっぱりだ!

 骨太に元気な、ベルツさんの声がしたのだった。

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