佐々木家の先祖達
「そ、それって……つまり」
「レムガルドの風俗は、きちんと調べていたからな。あのデザインは、当時の地球ではありえないものだ」
黙って昔話を聞いてた私にも、その意味はわかる。
つまり、私たちの先祖はレムガルド人なのだ。
「電力式転移が確立してからはまだ百年経っていないが、散発的に訪問があったのはわかっている。とはいえ、ほとんど片道だったはずだがな」
「昔からレムガルド人はたまにこっちに来てた……と」
巴姉さんは頷いた。
そして、その血が私たちに受け継がれている。
なんてことだと思う半面、腑に落ちてもいた。
やはり私たちが全くの一般人だと思うのは、無理があった。
「私たちのご先祖様に、レムガルド人がいるということだな」
「……だから私たち、レムガルドと関わりがあるんだね」
巴姉さんは前に少しだけ魔法が使えると言っていたし、年齢の割に重要過ぎる役職にいると思っていた。
いくら優秀でも、二十六歳にしてはレムガルドを任せられ過ぎている。
私にしても、そうだ。
ニナとアリサが嘘をついていたとは思わないけど、真実の全部とは思っていなかった。
「私が関われているのは、そういうことだな。ふむ……」
肩を組んだまま、巴姉さんは私の瞳を覗きこんでくる。
赤みは帯びているけれど、どことなく掴みどころのない表情だ。
「最初に外務省に入った時、魔法の素質があると言われてから無我夢中だったな。あれよあれよという間に、今じゃエキスパートになってしまった」
「……私もいきなり呼び出されたからね」
「魔法が使えるのも、レムガルド人の血を引いてたからなんだろうな。恐らく他国の人間でも、魔法が使える人は皆そうなんだろう」
「驚いたような、納得しちゃったような……」
「カナの場合は、異空間や魔法との相性があるからな。生粋の地球人は魔法が使えないし影響も与えづらい」
「転移とかがしづらいってこと?」
「うむ、そういうことだ。ここ数十年でわかったことだが、転移の効率が段違いなんだ。これはカナの仮家での生活にも影響する」
仮家では時間の流れが違うけれども、その差は魔法でカバーしてるという話だった。
レムガルドの血は、それをやりやすくするということか。
「……あまりショックは受けてはないようだな」
ちょっとだけ、ちょっとだけ何か残念だったけど。
でも、もやもやの一部は晴れた気がした。
逆に、私という存在は特別じゃなかったのだ。
特別だったのは、ご先祖様の佐々木衛門だった。
私は彼の血を引いているけれど、それだけだ。
特筆する能力や性質が、私にあったわけじゃない。
レムガルドの血を引いていた方が、より都合が良かっただけなのだ。
「うん……だって出来過ぎかなって思ってたし」
「ご先祖様は、ただのきっかけさ。本当に重要なのはそこから先だ」
巴姉さんは組んでいた肩を外して、おちょこをテーブルに置いた。
ゆっくりと立ち上がると、お酒の類を片付け始めていた。
「ちょっと早いが、眠くなってきた。そろそろ私は寝るよ」
「うん……おやすみ」
私も、なんだか眠くなってきた。
胸の中の霧が、私を眠りへと誘っているみたいだった。
奥多摩の夜は暗く、静かだ。
あっという間に私の意識は、睡眠へと向かっていった。
◇
その日、私は奇妙な夢を見ていた。
間違いなく、巴姉さんの昔話が原因の夢だった。
私は過去から未来へと続く、三組の男女を見ていた。
誰も知らない人だったけれど、男女には共通点があった。
一組目は教科書で見た縄文人か弥生人のようだ。
彼女はまだ、着の身着のままの時代の人だった。。
彼女はどこからか来た行き倒れの男を介抱し、いずれ彼と夫婦になる。
そんな場面が、頭に浮かんだ。
次は平安時代かいつかだろうか。分厚い着物を着ていた時代だ。
香をたきしめた男が、行き倒れの女性を助けた。
彼は、その女性と結ばれた。
最後は、もっと近い時代の話だった。
黒い軍服を着た若い彼は、ある異国の女性と意気投合する。
女性の国が戦乱に巻き込まれた時、彼は独断でその女性を救出する。
そして――その女性と愛しあう仲になる。
これらはきっと巴姉さんの話から、私が想像で生み出した事柄のはずだった。
でも、どうしても奇妙な感覚がぬぐえなかった。
この三組が私の心の幻だとは思えなかった。
あるいは彼らや彼女は、過去の佐々木家なのかもしれなかった。
全く根拠のないことだったけれど、確信めいたものがあった。
佐々木衛門とあわせれば、四回。
この夢がもし、妄想でなく真実ならば。
佐々木家は、レムガルド人と縁があったことになる。
ああ――もしかして私も、いつかこの夢の一つになるのだろうか。
いつか私が誰かを愛するときに。
その誰かがレムガルド人ということが、あるのだろうか。




