ハンバーグとニジマス、巴姉さんのこだわり
チーズ乗せハンバーグともなれば、かなりの味の濃密さだ。
じゅうじゅうに焼けたハンバーグの肉汁が、ラクレットと混ざるように口内に流れこんでくる。
もとより柔らかいチーズなので、こうなるのだ。
固いチーズだと食感が混ざるが、ラクレットならハンバーグの食感を邪魔することはない。
ビーフ百パーセントのハンバーグは十分贅沢な味わいがあるものの、少し単純すぎる。
チーズのこってりとした味とわずかな香草が、広がりを与えてくれるのだ。
歯で噛むごとに、牛の味が爆発的に満ちていく。
ある意味、牛を食べつくしているともいえる組み合わせだった。
「もぐもぐ……野菜なしで食べ続けるとかなりハードだな」
「……もぐもぐ。そうですね~」
私も巴姉さんも、あえて野菜はなしで挑んでいた。
刻んだパセリとか、いわゆる香りづけ、ちょっとしたアクセント分だけだ。
理由はまあ、私たちならではだった。
つまり、あえて野菜なしでどういうバーベキュー、食べごたえになるか試したのだ。
普通のバーベキューでは、まず野菜なしはあり得ない。
たまねぎ、とうもろこし、ジャガイモ、にんじん、きのこ類。
定番だけでも優に二十は数えられるが、そのどれもなかったのだ。
「トマトが欲しいですね、肉類を食べるとそう思います」
そう、今日の食材では酸味と水気が足りない。
アルミホイルにマッシュルームを入れてバターでもいいかもしれない。
「そうだなぁ……キャベツみたいな、しゃきしゃき感も欲しい」
言われると、たしかに足りない。バゲットがぱりぱりなくらいだ。
キャベツ以外だとピーマンだろうか?
「というより、完全にハンバーガーの具材ですね……」
「焼き物を集めると、意外とそうなる。様々な食べ合わせのパターンがあるようで、いいといえる組み合わせはあまりないものだ」
先人の知恵、というものだろうか。
それを超えるのは、やっぱり並大抵ではいかないものだ。
「お、そろそろニジマスもいい頃合いだぞ」
巴姉さんはそういうと串を一本手に取り、塩を落とし始めた。
ふんわりとした焼き加減、水気を抜くのに多量の塩を振っているのだ。
そのまま食べると、確実に塩分過多になってしまう。
私も串を取り黒茶になったニジマスの表面を、ナイフでさっと撫でていく。
全面に振りかけてあるので、串を回しながらだ。
あわせて、醤油もちょろちょろとかける。
これで後はかぶりつくだけだ。思いっ切り口を開けて食べはじめていく。
串焼きはやはり、一気にいかなくてはおいしくない。
「むぐっ……おいしい!」
醤油のしょっぱさ、ほろりと舌先で崩れるニジマスの身が新鮮だ。
他の食材とは違う和の旨みだろう。骨も柔らかくなっているので、どんどんと食べられる。
白身の淡白な味わいが、炭と塩で強調されている。
締めてから間がないので熟成はされていないけれど、その分、素材そのままの味だ。
皮と身の対比が、お皿に乗った焼き魚とは全く違う。
醤油をちょっとずつ垂らして味を調整しつつ食べていく。
でも大きさ自体はそれほどでもないし、焼いたことで小さくなっている。
あっという間に、身の部分を食べきってしまう。
「これで最後だな……」
野外料理の食べるテンポは巴姉さんに教わったものだ。
私と巴姉さんの食べるスピードは大体同じだった。
最後のニジマスも、ありがたくばくっと食べはじめる。
「……ご飯が欲しいです」
「醤油味のおかずだと、本当にそうだな。次は飯ごうを持ってくるか」
「そうしましょう!」
どうしても醤油や味噌といった塩味が強い和物は、ごはんが食べたくなる。
舌に残る豆の風味を中和したくなるのだ。
こんな感じで、用意したバーベキューの素材は食べ終わった。
一息ついたら片付けも一気にしてしまう。
本当に久しぶりに、私は巴姉さんとアウトドアを満喫したのだった。
◇
後片付けが終わってみると、そろそろ宿に向かってもいい時間だった。
気持ちのいい山道を通り抜けながらドライブして、宿へと走っていく。
何時間も走っていれば、自然と運転も上手くなるものだ。
今ではブレーキもハンドルさばきも格段に安定感が出てきていた。
「ふふん……。ふふ~ん」
奥多摩の前は道路標識や信号を凝視していた巴姉さんだったが、今ではちょっと得意げに鼻歌を歌っていた。
運転免許のない私は、この旅で運転を代わったりすることは出来ない。
正直朝の様子ではちょっと心苦しかったけど、巴姉さんもだいぶご機嫌になってきた。
お金の面も含めてお世話になりっぱなしだなぁ……。
今回の宿代も車代も全部巴姉さん持ちなのだ。
最初にお金の負担を申し出たんだけれど、一蹴されてしまった。高校時代の釣りでもなんでもそうだ。
何度言っても受け取ってくれた試しがない。
「カナからお金を受け取るくらいなら、誘わない!」
結局私にできるのはさっきのバーベーキューみたいに、食材を多く持ってくるくらいだ。
そういうものすごい頑固なところが、巴姉さんにはあるのだ。
いつか、こういった恩をちゃんと返せる時が来るんだろうか?
そんなことを考えながら、山々に連なる背の高い杉を私は見つめていた。
都会とは違う山の風が、顔と首筋に当たるのを感じながら。
もうすぐ、宿に着くはずだ。
ゆったり温泉つき……本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。




