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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
私と、色々な人の空模様

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ラクレット&バゲット

 私たちは放流があってから、短時間で次々とニジマスを釣り上げた。


 でも他のお客さんも釣り上げていくし、逃げる魚もいる。

 入れ食い状態はそう長くは続かないものだ。


大人数の家族連れと違い、私たちは二人だけなのだ。

 ニジマスの数がそんなに必要というわけではない。


 最終的に、私たちは二人で四匹のニジマスを釣り上げることができた。

 お腹も空いてきたし、もう正午を少し過ぎている。


 一人二匹ずつ、私たちは釣りを終え昼ごはんにすることにした。

 せっかくバーベキューもできる釣り場に来たことだし、ニジマスは手堅く、塩焼きにして食べることにする。

 川原での焼き魚は、まさに釣りならではの食べ方だ。


 素早く締めたニジマスは、洗い場で内蔵とエラも取ってしまう。

 特に釣りたてでは生臭さをとるためにも欠かせない作業だ。


 使い慣れた台所ではなく外出用の服だけど、やっぱり巴姉さんの手際は素晴らしい。


 内臓の下処理だけでなく、串もあっという間にニジマスの背骨を巻き込み、S字型に通していく。

 こうすることで、焼いてる最中に回転したり、身が柔らかくなって串から落ちることがなくなるのだ。


 網や炭も有料で貸してくれるのが、こういう管理釣り場のいいところでもある。


 普通のドライブ気分で、バーベキューを楽しむことができる。

 釣り竿を置きにいくついでに、車からそれぞれ食材保存用のバッグやらを持ち込んでいく。


「女の独り暮らしで、バーベキューの網は使わないからなぁ……」


 バーベキュー用の網は、当然かなりの大きさだ。

 一度に五人分の食材を焼くことも珍しくない。


 炭に火を起こしながら、感慨深げに巴姉さんが呟く。

 私だって炭火に使う網は持っていない。


「……仕事関係で、ホームパーティーとか?」


「向こう関係でなければ、あるかもしれんな。日本人同士だと珍しいが」


 喋りながらでも手は休めない。串を通したら、最後は塩振りだ。


 ニジマスにたっぷりと塩をかけていく。特にひれには焦げさせない為にも必要だ。

 焼き上がり後に落とせばいいので、今は白くなるくらいがちょうどいい。


「じゃじゃーん!」


 私は言いながら、持ち込んだ食材用の保冷バッグからバゲットとラクレットチーズ、それとソーセージを取り出した。

 ニジマスには合わないかもしれないけれど、簡単お手軽な野外食材セットだった。


「ニジマスとはだいぶ毛色の違う食材だな」


「定番は焼きおにぎりとかですけど、塩気が強すぎるかなと思って」


 巴姉さんもふむふむと頷きながら、同じように持ち込んだバッグから、ハンバーグを取り出した。


「思いのほか、洋風っぽいバーベキューになったな」


「でも、チーズには合いますよ!」


 ニジマス優先なので、炭は火を落とした状態にまで持っていく。

 じっくりと焼き上げるためだが、野菜はほとんどないので、これでも大丈夫だろう。


 風に巻き上げられる細かい灰が、川のせせらぎと合わさるとなんとも趣がある。

 家で作る料理の方が細かい調整は効くけれども、前の鉄板焼きと同じく、不自由だからこそ野外料理はおいしいものなのだ。


 ラクレットはスイス原産のチーズで、炙って食べることが多いチーズだ。

 生のままだと草原というか牛舎の匂いがきつくクセがあるけれど、焼くことでかなりマイルドになる。


 バジルや胡椒といった香辛料をかけても食べやすくなるので、ソーセージとあわせてぱっぱと焼きはじめることにする。


 網は二十センチくらい灰から離して、食材を置きはじめる。

 カオスな見た目だが、家族と食べるならこれぐらいの方がいいかもしれない。

 栄養バランスも、たまには目をつぶってもらおう。


 ラクレットは一口サイズのバゲットとハンバーグにとろ~りと乗せ、ソーセージだけ隔離する。


 まもなくニジマスの塩が熱を持ち始め、身が焦げ始めていく。

 当たりに濃い塩焼きの香りが漂いはじめていく。


 チーズも強い匂いがバジルと相殺され、焼き目が付いていく。

 この組み合わせのいいところは、とりあえずさっと食べ始めることができることだ。


 さくっとした市販のバゲットと、かけるタイプのチーズは、見た目もほとんどお菓子のようなものだ。


 ある程度火が通ったところでナイフの腹に乗せ、口に入れてしまう。


 ラクレットの野性味ある匂いは、ほとんど気にならなくなっていた。

 ばりばりっとしたバゲットの食感と絡みつくねっとりとしたチーズ味が、対照的な味わいを出している。


 わずかに感じるぴりっとしたスパイス、バゲットの甘さ、ハードタイプのチーズの組み合わせは暴力的ですらある。

 さすが、高原のチーズ! 野菜にもよくソース代わりとしてかけられていただけはある。


 ソーセージも熱せられるだけで、ぐんと味わいは良くなる。

 ちょこんとマスタードをかければ、気分はもう夏祭りでの食べ歩きだった。


 こちらはストレートな肉の旨みが持ち味だ。

vまとわりつくチーズの味を、がつんと辛みが削ぎ落していく。


 水筒のオレンジジュースで爽やかに後味を洗い流しつつ、細かく切った具材を食べていく。

 バゲット、ソーセージ、ジュースのローテーションを繰り返していく。


 巴姉さんも同じだが、あ~んと口を開けて頬張るのが、カッコよすぎる。

 きらりと髪に差したサングラスが光るのが、生粋のアウトドア熟練者の証だった。


「ん……? このジュースは」


 コップからジュースを飲んだ巴姉さんは、ちゃんと気がついたようだった。

 そのあたり舌の感覚は鋭いままだ。


「そうです! もらった果物ですよ」


「なるほど、豪華なジュースだな。道理でチーズにも負けないわけだ」


 ごくごくと巴姉さんが豪快に飲む。

 かなり濃厚な食材なので、喉はどうしても乾くのだった。


 そうこうするうちにハンバーグと、ニジマスに火が通り始めていた。

 まさにちょうどいい、グッドタイミングだ。

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