2日目
翌朝、僕はあの頃と同じ電車に乗るために早起きして出かけた。
6:40の電車に乗ると、西村さんを発見し、声をかける。
「よっ」
「あー、おはよ。今朝は早いんだね」
「昨日は不本意な寝坊でね。今日はちゃんと勉強する」
言いながら、隣に座る。
外は強めの雨だった。
「そういえばさ、わたし前川くんがどこを目指してるか、知らない」
この会話は、憶えている。
「え? 僕はあれだよ、平穏な未来を目指してる」
笑って流そうとした。
「そんなこと聞いてないよ。受験生の会話なんだから考えて答えてよね」
「ごめん。僕は今のところK大学志望だよ」
僕は知っている。この答えが、このときの西村さんの志望を変えさせた。
「えー、すごいところだ。なんか負けた気がするわ」
「西村さんは?」
答えを知っていながら、聞く。
「わたしは、W大学の推薦を取ろうと思ってたけど……でも、前川くんがそんなとこ頑張るなら、わたしも考え直すかな」
このあと、西村さんはO大学に志望を変更することになると僕は知っている。O大学に変更した理由は、表向きはやりたい研究があるから、で通った。でも僕は知っている。理由の20%は僕だということを。K大学とO大学は近いから。
「自分の人生は、自分で考えなよ。僕に振り回されてたらだめだよ」
「わかってる。でも、安易に考えすぎたと思うんだ。だから、きっかけはあんたでもね、ちゃんと考えるべきだと思うのよ」
西村さんはそう言って、向かいの窓の外を見た。
「さてと、今日の世界史のテストの勉強、一緒にしよ!前川くん、問題出して」
「えー、じゃあ、五賢帝を答えよ」
「そこ、範囲じゃないし!」
あの頃、毎朝こうして隣にいた。
どうして話題が尽きなかったのか不思議だ。
この日も、学校まで、沈黙しなかった。
学校に着いたら、僕たちは2人して図書室に向かう。図書室では隣に座らない。
8:05頃、教室へ向かう。図書室から教室までは、たまたま一緒になることもあれば、どちらかが早いこともある。
この日は一緒になった。図書室を出たところで、福本先生に会った。
「お、西村、前川、おはよう」
「おはようございまーす!」
西村さんは元気がよかったが、僕は昨日のこともあって軽く会釈をしただけ。
「どうだ?テスト、よくできそうか?」
「めっちゃ勉強しましたから!」
それからなんとなく3人で教室に向かっていたが、福本先生が西村さんと3組の教室に入るとき、僕に目配せをしたのを見逃さなかった。
福本先生はいろんなことを、察してくれたのだ。




