1日目、学校
学校に到着すると、4階の教室まで階段を上って行く。理系の健介は右へ、文系の僕は左へ。
2組の教室へ行く前に、3組の教室をのぞく。
「あれ、前川じゃん、おはよう」
松本に見つかった。
「げ、おはよう」
「『げ』ってなんだよ」
「なんでもないよ」
「どうせ西村だろ?ああ、ちょうど来たじゃん」
ドアの前で松本と話していたら、西村さんがやって来た。
「あ、おはよう。今朝いなかったから休みかと思ったよ」
「おはよう。テスト休むわけないだろ」
「それもそうかー。また勝負しようね」
チャイムが鳴って、僕たちは自然にそれぞれの教室へ別れていく。
放課後には、国語の先生たちがいる国語科準備室へ向かった。
「失礼しまーす。福本先生」
「あれ、前川か。どうした?」
福本先生は、3組の担任。それから、1年生の時の僕たちの担任だ。
「質問」
「国語得意だろうが。どうした?」
「国語じゃないんすよ」
「俺に恋愛相談はなしだぞ」
福本先生が笑いながら言う。そして僕に椅子を勧めた。僕は座りながら答える。
「あー、ちょっと近いかもしれない」
「え」
「まあ、聞いてよ。……僕、本当は、24歳なんだ」
福本先生はじっと僕を見て、頷く。
「なるほど、俺のところに質問に来た理由がわかった。俺がSF好きだからだな」
「そうだよ。僕、昨日までちゃんと働いてたんだよ。今朝目覚めたら、実家だったわけ」
福本先生は、僕の話を聞いて、すべてをわかったように話し始める。
「後悔してるんじゃないか?この時期にあったことで何か」
大当たりで、すぐに返事ができない。
「恋愛のことか、さっき言ってたし」
「……後悔があると、タイムスリップしちゃうの?」
「実は俺、今までにもそういう相談、たくさん受けてるんだけどね。この世界には二つ以上の宇宙があってね、少しずつ時間をずらして同じ人たちが同じ人生を暮らしてる。ある宇宙の人間が、ちょうど別の宇宙にいる自分の頃のことを後悔すると、たまに入れ替わっちゃうんだよ、心がな」
福本先生の話は、わかるようなわからないような、だった。でも一つだけ理解した。
「今、18歳の僕が24歳の僕の中にいるんだよね?ヤバくない?」
「まあ、前川は優秀だから大丈夫だ。そんなことより、せっかく戻ってきたんだ。今度は後悔するなよ」
「うん……。あの時と別の選択をしたら、どうなるの?」
「別に、人生が続いていくだけだよ。いくつもある宇宙では、時間を少しずつずらしながら同じ人間が同じ人生を歩むのが普通だけど、たまに前川みたいな奴のおかげで、まったく別の運命をたどるようになったりもするんだ。それだけの話なんだ」
先生はそれだけと言ったけれど、僕には「それだけ」の話だとは思えなかった。
「先生ありがとう。勉強しに戻るわ」
僕は立ち上がり、国語科準備室を出ようとした。
「あ、前川。一つだけ聞いていいか。このまま、前と変わらない人生を歩むとお前はどこの大学に行く?」
「ああ、H大学だよ。第一志望に点数が足りなくて」
「そうか。K大学志望だよな?」
「うん、できれば行きたいんだ、今度は」
そして今度こそ、僕は国語科準備室を後にした。
帰りは西村さんと一緒だった。何のことはない。最終下校時刻まで学校で勉強をしているとそういうことになるのだ。それだけの話だ。いつもそうだったのだ。
「テストどうだった?」
西村さんが聞く。
「普通」
「ふうん。まあまだ、大本命の国語が終わってないからな。絶対に国語だけは負けたくないや」
24歳の男が、18歳の女の子を前に、勉強の話をしているのは滑稽だった。
2回目の18歳を後悔しないように、僕は明日からの選択をすべてよく考えなければならない。




