3月10日
卒業式のあと、僕たちは3月10日に、二人で出かけることにした。
あの頃、西村さんが、某有名テーマパークに行きたいと言って、それはあまりにカップルらしすぎると思って僕が断った。
それであの頃、僕たちは結局二人で美術館に行ったのだった。
今回は、僕がテーマパークに誘った。卒業式の帰りだった。
やっぱり彼女は、目を丸くして驚いた。
「いいの? そんな……ほんとのデートみたいなところ!」
「記念だから。はんと……三年間、西村さんにはなんだかんだ、一番お世話になったから」
「嬉しい! でもわたし、ジェットコースターとか乗れないよ」
「いいよ別に」
「それでも楽しめる?」
「楽しめるよ。僕たちずっと、勉強の話だけで楽しんできたんだから」
「それは確かに」
西村さんの頬が上がっている。ニヤニヤを必死でこらえている様子だった。
3月10日、待ち合わせ10分前。M駅前には多くの人がいた。その中から西村さんを見つけられるだろうか、あるいは、彼女は僕を見つけられるだろうか━━と思ったのもつかの間、僕の目に彼女が飛び込んできた。
彼女はまだ気付いていない。改札を出て、ゆっくりと近付く。
ワインレッドのショートパンツからタイツを履いた脚が伸びて、黒のスニーカー。白のニットを着て、その上にはグレーのコートを羽織っている。両手をコートのポケットに入れて、改札の方を眺めている。
人混みを利用して、後ろから近付く。
「お待たせ」
後ろから肩を叩く。
「うわぁ!」
彼女は驚いて振り向いた。
「びっくりしたあ」
「ごめんね。待った?」
「ううん、全然。行こう」
彼女は上機嫌で歩き始める。僕はそれについていく。
「楽しそうだね」
「楽しみにしてたからね」
入場券を買って並ぶ。
開園と同時に多くの人が走り始めたが、僕たちはゆっくり歩いた。
西村さんは何かを見つけては立ち止まり、よく笑った。
お土産ショップの並んでいるところだけで、45分ほど経った。見兼ねた僕は、
「乗りたいものとか、ないの?」
と聞いてしまった。
「乗りたいものかあ……。前川くんと一緒なら何してても楽しいからなあ。だって勉強の話だけで楽しかったもんね」
と言って彼女が笑う。
「記念になるもの買いたいなって思って、だから、さっきから、いろいろ見ててごめんね?」
僕だってアトラクションを楽しみに来たわけではない。
ただただ、西村さんと、高校生の最後にデートがしたかった。
あの頃彼女が望んだことを叶えてあげたかった。
それだけだったから、彼女がお土産を見るのをずっと眺めていて、それで時々彼女が「これどうかな」というのに答えるのも苦にはならなかった。




