珍しい人
あの頃、バレンタインの前日に、「明日は学校に来ますか」と西村さんからメールが来て、「来てほしいなら行くけど」などと生意気な返事を書いたのを憶えている。
彼女から、「渡すものがあるから来てよ」と言われたので、約2週間ぶりに登校した。
教室にはやはり数人しかいなかった。
「前川、珍しいじゃん」
昼休みに松本に会って、そう言われる。
「うん。たまにはね」
「西村大先生か?」
「まあ、そうとも言う」
松本と話すのも久々だった。こうやっていじられるのも。
「呼んでやろうか?」
とにやにやしながら松本が言う。
「いや、あとで会うからいいよ」
そう言って僕は教室に戻った。
完全下校時刻になり、昇降口に向かう。西村さんはすでに待っていた。
「お疲れ」
「うん、お疲れ」
「よかった、来てくれて」
「また作ったの?」
「うん、勉強の息抜きに」
そしてその場でチョコレートを渡してくれた。僕たちはまた一緒に帰った。
その日、彼女は何も言わなかった。
僕も、もらったものを食べた感想をメールすることもなかったし、それからまた学校へ行くのもやめた。
今回、バレンタインの前日に、西村さんからのメールはなかった。
当日に教室にいたのは、いつもと同じような顔ぶれだったが、一人だけ珍しい人がいた。
「清水さん、どうしたの」
「たまにはちゃんと勉強しようと思って」
「家でやってるでしょ」
「そりゃ少しは。今日は遥ちゃんに用事があってね」
「ふーん。バレンタインだから?」
「それもある。だから、今日の帰りは遥ちゃんをわたしにちょうだいね」
「僕の許可はいらないだろ」
「え、そうかなあ? バレンタインなのに?」
「じゃあ向こうに聞いてよ」
僕はそう言って自分の席に着き、下校時間まで清水さんとは話さなかった。
でも、集中力が続かず、何度も休憩に立った。
下校時間になって、清水さんは急いで西村さんのところに行ってしまった。
隣のクラスを覗くと、二人が話していた。
「遥ちゃん、一緒に帰ろ」
「いいけど、ちょっとだけ待って」
「前川くん?」
「そう。バレンタインだからね」
そこで彼女は廊下にいる僕に気付いて、荷物を持って出てきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それだけ言って受け取って、僕は二人より先に昇降口へ向かう。
一人で帰るのは久しぶりだった。




