クリスマス
部活もないので、冬休みはほとんど家にいた。時々、西村さんとメールのやりとりがあった。
12月25日は、いつもの乗り換え駅まで出かけていって、西村さんと会った。
夕方五時。彼女はもう来ていた。
彼女はワインレッドのセーターに、黒のスカートを合わせていた。
「お待たせ」
改札前にいた彼女に、そっと近づき声をかける。
「待ってないよ」
「一本前の電車なら10分は待ったでしょ」
「夕方、近くで買い物してたから」
彼女はそう答えて、笑った。
「そっか。じゃあ、行こうか」
僕たちは百貨店の六階のレストラン街に行った。
イタリアンの店に入った。
彼女は随分迷っていた。
「うーん……。三択まで絞ったよ」
と言ったのは、メニューを見始めてから10分したときだった。
「遅いな」
「だって、思い出の味は大切だよ」
口をとがらせて、彼女がそう言う。
思い出の味。ああ、僕たちの今日は、思い出になるのか。僕が寂しく思っていると、
「うん、決めた!」
と彼女。そこで僕は店員を呼ぶ。
西村さんはトマトクリームパスタを頼んだ。僕はカルボナーラ。
「これから、トマトクリームパスタを食べるときには、いつも前川くんを思い出すと思うよ」
「そんなことある?」
「あるよ、味と一緒に思い出にするの」
「でもさ、もう会えないってわけじゃないんだし。一緒に関西行くって言っただろ」
「そうだけど。でも、いつかは会えなくなるんだよ。たとえば、わたしたちがもしこれから付き合うことになっても、いつか別れるんだし、結婚しても、いつか死ぬんだし……。あ、たとえばの話だよ」
西村さんはやたら早口で言った。
「……どうしたの、西村さん」
「わかんない。なんか、でも、今日のこと、忘れないようにしようって。そう思ったから」
僕をまっすぐに見て彼女がそう言った。
僕が何も答えられないうちに、パスタが運ばれてきた。




