演出家
あの頃、僕は3組の舞台を観に行くことはなかったが、それでもわかったことがある。
この舞台は、あの頃の演出とは全然違う。
真面目で勉強熱心な西村さんが、補習に出ないほどの本気度で作り上げた、立派な作品だった。
あの頃聞いた役者に関する愚痴はすべて解決して、役者たちが西村さんの指導したとおりに動いているのが見えた。
40分間の体育座りでのお尻の痛さも忘れて、僕はその舞台に見入った。松本が音響をやっていることだけ、舞台転換の音楽のときに少し思い出した。
鳴り止まない拍手。舞台裏から、裏方たちの拍手の音が聞こえる。この身内の中でも、ひときわ大きく拍手をしているのは、西村さんだということも、僕はなんとなく悟った。
主役の男子が挨拶をし、主要キャストが礼をして、この日最後の公演が終わった。
もう一度長い長い拍手。僕も拍手を贈る。舞台裏に。
結果は変わるはずだと思った。
そして彼女の未来も。
気付けば僕は涙を流していた。早く教室を出たかったけれど、舞台近くに座った僕は、最後までここを動けなかった。
幸い、松本より先に西村さんが僕を見つけてくれた。
「来てくれたんだね!」
「君の友達が、チケットを融通してくれた」
「知ってる。……ねえ、暑かった? それ、汗?」
頬を指して彼女が言う。
「え……。いや。……うん、そうだな。」
あいまいに答えると、彼女は笑った。
「何よ、それ。どっち?」
「舞台が熱かったよって意味! 掛詞だよ」
それから僕はクラスに戻り、二日目の準備をして帰った。
帰りに覗くと、3組はミーティングをしていた。西村さんは輪の中心にいて、笑っていた。




