文化祭
結局、西村さんは補習に来ないままで、夏休みは終わった。
9月の最初の週末に、彼女の作品は本番を迎えた。
その日は、秋になったとはいえまだ暑くて、準備のために7:00に学校に来ていいことになったのがありがたいくらいだった。
一般公開の11:00まで、どのクラスも最後の仕上げにかかる。
僕は少し遅れて7:15に学校に着いたが、西村さんはもう教室にいて、音響の準備をしていた。
「おはよう、演出家じゃなかったの? 音響もやるんだ?」
教室をのぞいて声をかけた。
答えたのは西村さんではなくて、松本だった。
「西村大先生のこだわりが強くて、音響チーフの俺には任せてられないってさ」
「そういう意味じゃないよ、松本くん。最後の打ち合わせでしょ。今日はよろしくね」
西村さんは笑っていた。自信が見えた。
「頑張れよ松本。失敗したらただじゃすまない感じだな」
そう言って、僕も2組に行く。クラスの主要メンバーが数名来ていて、もう準備が進んでいた。
「あ、おはよう前川くん。よかった、あそこの幕、取れちゃってるの、直してくれないかな」
声をかけてくれたのは合唱部の清水さんだった。天井に渡したレールから幕が落ちてしまっていた。見渡せば、僕より背の高い男は一人もいない。
「うん、でも僕の背でも机がいるな。押さえていてくれる?」
清水さんは快く答えてくれ、僕はその幕を直した。6年前よりずっとクラスの一員でいるような気になった。
その一仕事を終えると、清水さんが言った。
「前川くん、今日の後半出番ないでしょ」
僕のクラスでは、全員が舞台に出られるよう、小さな役が役替わりになっていて、僕も別の男子と役を分け合っていた。だから、公演によっては出演がない。
「ああ、そうか、僕、今日は後半、休みか」
「そうだよ。その出番なしの時間、3組行かない?」
「え、なんで?」
出番がない公演は、僕は照明係に当たっていたはずだ。
「遥ちゃんの作った舞台、観に行かなくていいのかなあ」
正直に言うと、観たかった。6年前も。
でも、観に行く余裕はないと思っていた。
「だって僕、照明……」
「ほんとに何も見てないんだからー。全体の役替わりスケジュールを作った私が、ちゃーんと、前川くんが3組行けるように、空けといたんだから」
清水さんはそう言うと、クラス全員分のスケジュール表を見せてくれた。全員に配られたから、僕も持っているはずだったが。
確かに、今日の僕のスケジュールは、夕方の一公演分、まるまる空いていた。照明には、同じく出番なしの佐倉くんが当たっていた。
「そういうわけで。わたしすでに15:45公演の、整理券も遥ちゃんからもらってきてるんで」
そう言って清水さんは、僕に貴重な整理券を渡した。
「清水さんが行くつもりだったんじゃ?」
「わたしは舞台監督だから、一度も外せないんだよね。本当は行くつもりだったけど……。やっぱりわたしはクラスにいたほうがいいと思うからさ。代わりに行ってきて」
清水さんはニヤリとした。
台詞が二回しかない役を2公演こなし、そのあと3組に行った。
受付に松本がいた。
「お、西村大先生の作品を観にいらしたんですねえ!」
「うるさいな」
「ごめん。でも、抜けてよかったのか? 2組は」
「今回出番なしなんだ。お前、ヘマするなよ」
そして僕は、舞台から一番近いところに、体育座りをした。




