夏休み
夏休みは専ら文化祭の準備のために登校した。
9月の文化祭に向け、3年生はクラス演劇の練習で、どのクラスからも発声練習や演技練習の音が漏れ聞こえていた。
中でも3組はすごかった。
西村さんが演出と歌唱指導をするミュージカルだという。本人から聞く前に、松本から聞いた。
「西村がおっかねえんだ」
夏休みに入ってすぐ、受験向けの古典の補習に出たとき、そう言っていた。
まさか西村さんが、と初めは思ったけれど、2回目の今回も、日を重ねるごとに、廊下に聞こえてくる「先生」の声は本気度を増していく。
「目線が違う!そう、そっち!相手役の方をちゃんと見る!わたしの顔色をうかがうな!」
僕は2組の廊下で大道具をつくりながらそれを聞いていた。
そういえば不思議なのは、あの頃は毎日補習に出ながら合間を縫って演劇の稽古に行っていた西村さんが、今回は僕と同じ補習を取っていないことだ。
夕方になって稽古が終わると、完全下校まではちゃんと図書室で勉強する習慣は相変わらずだったが、補習には出てこなかった。
7月末、帰りの電車で聞いた。
「補習、取ってないの?」
「ああ、うん。勉強は自分でやってもできる気がして……。今は文化祭の方が大事なの。どうしても大賞取りたくて」
あのとき、3組のミュージカルは学年賞で、大賞は4組だった。要するに、3組は3年生の中では2番目だったということを意味するのだが。
まさか、結果が変わるのだろうか。
「稽古、全部出ておきたいんだよね。ちゃんと演出家になりたいの」
夕方の、少し混んだ電車に並んで立っていた彼女は、あの頃よりずっと大人に見えた。




