バレンタインの記憶
高校2年生のバレンタイン――これが一回目の告白だった。
2月14日、高校入試の前日準備で生徒は昼には帰された。僕らは待ち合わせをして一緒に帰り、F駅のハンバーガー屋で一緒に昼食をとることにしていた。
帰りのホームルームが終わると、そのとき隣の席だった合唱部の清水さんに、
「前川くん、バレンタインもらった?」
と聞かれた。
僕はもらえるとも決まっていないのに
「まだ」
と答えた。
清水さんは西村さんと仲が良くて、全部知っていたのだと思う。
ハンバーガーを食べ終わった頃、西村さんが鞄から、小さな箱を取り出した。
「バレンタインということで」
テーブルの上にそっと置かれたそれを、僕もそっと受け取る。
「ありがと」
「お腹を壊しても責任は取りません」
西村さんは淡々としていた。
そして、そのときは何も言わず、他愛もない話をしていつも通りに帰った。
帰ってからもらったものを開け、明らかに義理チョコではない手の入れように、僕は「ああ、やっぱり」と思ったのだ。
でも、彼女は言葉では何も言わなかったから、どうしたらよいかわからなかった。
食べて、とりあえずメールを送る。その日の夜だった。
『おいしかったよ、ありがとう』
それだけ送り、返事を待った。勉強中だったのか、返事はなかなか来なかった。
およそ一時間後に返ってきたメールは、こうだった。
『受け取ってくれてありがとう。わかったと思うけど本命だから』
当時の彼女には、精一杯だったのだと思う。
僕も、その気持ちに対して、ありがとうと伝えるのが、精一杯だった。
ホワイトデーにはちゃんと、自分の気持ちを伝えるつもりだった。
でも、ホワイトデーを目前にして、大震災に見舞われた。その日はテストで早帰りだったから家に帰れたけれど、ホワイトデーのときは電車が動かず学校に行けなかった。
地震から5日経って、ようやく学校に行けた日、僕たちはなんとか落ち合い、一緒に帰った。
あまりのばたつきに、お返しのお菓子を渡すだけで何も言えなかった。
彼女も返事を催促したりはしなかった。
ようやく自分の気持ちを伝えたのは、3月末、いつもの帰り道だった。
F駅の乗り換えで、電車を待っているとき。
「西村さん」
「何?」
「バレンタインのときの、返事だけど」
彼女は右にいる僕を見上げ、笑った。
「今更だな」
「ごめん、でもちゃんと言った方がいいと思って」
「言わなくてもいいよ」
彼女は少し寂しそうだった。
「あのさ、友達としては、一番大切に思ってるし、これからもそうだから!」
「わかってるよ、ありがとう」
西村さんは大人だった。
今回僕が戻ってきた過去は、高校3年の夏。
一度彼女を振ったあとだ。
過去の自分は、大学が決まったあとでもう一度西村さんを傷つける。
その後悔が、僕をこうして呼び戻したのだ。
2回目の高校3年生を、どうしても失敗できない。




