しかしおまえも間違っている(1)
現実、どの時代もどの世界でも、主人公という者はいないのである。
よく、「君達一人一人が主人公だ!」なんてイタい言葉を聞くけれど、そんなものは幻想である。
そんな自己中心的な考え方を広めるから、最近の若者は思いやりの心を忘れてしまうのだ。
この際言っておこう。
決して自分の為に世界があるわけじゃない。
世界のために自分達がいるわけである。
聞くと綺麗事のように思えるが、それは全く違う。
世界の為の自分達とは、地球上に70億人以上存在するわけだ。
だから大多数のうちの1人でしかない自分がいなくなったとしても、世界にとってみればどうということはないのだ。
自分のかわりなど何人もいるのだから。
***
「あー、学校行きたくないなー」
五十鈴ヶ丘春にいじめを受けていた神崎巴はいつも通りの憂鬱な朝を迎えていた。
*
神崎巴
『容姿はどちらかと言えば可愛らしく、誰にでも優しく接する小動物を思わせるような女の子。しかし、引っ込み思案であがり症。』
それを俺的に訳すとこうなる。
『遺伝子的に勝ち組で、猫をかぶって誰にでも愛想をふりまくぶりっこ。か弱い女の子アピールも忘れない』
といったところだろうか。
まったくいじめられるのも無理がないような奴である。
だからと言っていじめていい理由にはならないが……
*
神崎巴は今日もふわふわとした髪をなびかせながら通学路を駆けていく。
「ち、遅刻しちゃうよぅ…」
足は意外に速く、その様子はまるで子兎がすばしっこく走っているかのようだ。
学校に近づくと登校している生徒がちらほらといる。どうやら遅刻せずにすみそうだ。
巴は目立たないよう歩き始め、次第に息をととのえていく。
思ったよりも学校に早く着いた巴は自分の靴を取り出すために下駄箱を開ける。
この学校の下駄箱は横に開ける扉がついている仕様だ。
「む?」
ふと、巴の頭上には疑問符が浮かび上がる。
理由は、毎日のようにいじめっ子が靴に仕掛けてある画鋲の音が靴から聞こえてこないからである。
いつもは分かりやすいほどにジャラジャラと入っているのだけども、今日は聞こえない。
もしや靴底に張り付けてあるのかと思い、ゆっくりと覗いてみる。
「何やってんの?巴」
「うひゃあ!」
不意に後ろから名前を言われ、思わず飛び上がる。
「あ、ごめんごめん。驚かせた?」
ふり向くとそこには幼なじみの友達、黒崎伊緒菜が立っていた。
「な、なんだ…イオナかー」
巴は安堵の息を漏らす。
*
黒崎伊緒菜
神崎巴の幼なじみであり、友達である。
気は優しく、誰にでも友好的。面倒見がよく、自然と周りに人が集まる。
さらに人間好きときたもんだ。
俺とは正反対の世界にいる人だ。
巴とは違う学科で、あまり会うことは無いみたいだ。
ちなみに高校に入ってから巴がいじめられている事実を知らない。
*
「何だか久しぶりな感じだね。」
「そ、そうだね」
巴はぎこちない返事を返す。
「ごめんね。全然会えなくって。最近何かと忙しくて。」
伊緒菜の周りにはいつも人がいて、それでもって伊緒菜は世話好きだ。無理もなかった。
「全然大丈夫だよ!気にしないで。」
巴は迷惑をかけたくない一心から、誤魔化してしまう。
「じゃあ、私はちょっと用事有るから……。また、ゆっくり話そうね?」
そう言い捨てて伊緒菜は走ってどこかに行ってしまった。
予想以上に忙しいみたいだ。
言わなくて正解だった。巴は胸をなで下ろす。
巴は持っていた靴を履く。
しかし、言う必要さえ無かったのかもしれない。
だって……
靴の中には何も入っていなかったのだから。
機嫌が良い巴はその後、お気に入りの場所へとむかうのだった。
***
「イテテッ。やはり女子は怖いな。」
俺は紅山に容赦の無い鉄拳をくらい、覚束無い足取りで教室へと向かう。
流石に女子にワンパンでダウンしてしまう程俺ももやしではない。
紅山が居なくなるのを待っていただけだ。
いや、ホントまじで。
しかし、女子と言うのはみんなこれほどの力を備えているのだろうか。
男子が望む、か弱い乙女というものは幻に過ぎないのだろう。
俺は重い足取りのまま、目的地へと歩みを進めた。
すみません。
だいぶ遅くなってしまいました。
前回遅くなると予告はしていましたが、なかなか執筆がすすみませんでした。
申し訳ありません。
この小説には一部自虐ネタが入っているので、書いてると病んでくるんですよね(笑)
というのは半分本気半分冗談で、資格試験の勉強してました。
こんなことがまたあるかもしれないので、できるだけ書きだめをしておきたいと思います。
良かったら、また読んで頂けるとうれしい……な