俺は間違っていると断言する(3)
ああ、なんて良い日なのだろうか。
日がさんさんと照っている中、俺は空を見上げる。
こんな日は暑いから、リア充のイチャイチャイチャ度合いが減る。
しかしながらこの暑さは、根暗でひ弱な俺にも牙を向ける。証拠に、俺の頭はぼーっとしてきて、いつも通りの機能を果たしていない。
恐るべし太陽光の殺菌効果。リア充も陰キャラも消毒してしまうのだから。
学校に着くと下駄箱を開け、靴を取り出して履き替えて……
この動作だけでも暑さのせいで嫌になる。
外から突き刺さる直射日光から逃げるように、風通しのいい涼しげな廊下へと移動し、教室へと向かう。
途中、ずぶ濡れの五十鈴ヶ丘とすれ違った。たぶん俺の計画が成功したのだろう。
昨日のは五十鈴ヶ丘春の周りの人間に、それぞれの弱みを記載したメッセージと、命令文を送ってやった。
五十鈴ヶ丘春をいじめろと。
俺はワンパターンしか知らない。
何故ならそれが一番有効で、どんな事にも使えてしまうからだ。
弱み。
人のそれは、他人などには知られてはいけないものである。
知られたら最後、その人間には刃向かうことは難しくなるだろう。
そして俺は、この学校の生徒一人一人の弱みを知っている。
だから俺は人からの被害を避けやすくなったし、人の本性をよく知っているつもりだ。
そう、つもりである。
人と関わろうとしない俺には人がどういったものかなんて分かるわけがない。
それに分かっているならならここまで苦労するはずもない。
俺は人のほんの一部しか知らないのだ。
突如、身体に衝撃が走る。
どうやら胸ぐらを掴まれたようだ。
周りには人がいなかった筈だったが、だからこそ目を開けなくても誰かくらいは見当がつく。
けれども俺は、あえて目を開き、ついでに口も開くことにした。
「何だよいきなり。平々凡々、平穏無事な日常生活を送っている俺が、何が悲しくて胸ぐらを掴まれなくてはいけないんだろうか。紅山ナノハ」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみることね」
彼女の目は本気だった。
「思い当たることが有りすぎるな」
俺は薄ら笑いを作った
「ふざけないで!私は五十鈴ヶ丘をあんな目にあわせろとは言って……ない」
悔しそうに、憎そうに俺をみつめている。
「“しろ”と言って無いけど“するな”とは言って無い。俺は最初止めろと言われただけだぜ?」
「だからって…なんであんな事をするのよ!」
凄い剣幕で問い詰める
「優しい奴だなお前は。涙がでそうになるぜ。よく考えてみろ。五十鈴ヶ丘春はいじめの主犯だったんだ。報いを受けるのは当然だろうよ」
そして……俺はわざとヒールな顔を作るのだ。
「じゃあ、あなたも報いを受けなさい。」
紅山ナノハはそう言って、俺のみぞおちに思い切り右ストレートを叩き込んだ。
薄れる意識の中、場を離れていく紅山ナノハの姿が目にうつる。
好きな人に殴られたのだ。気分は最悪だ。
しかし、どこか心の片隅が軽くなった気もする。
全く、俺の報いがこんなもんなんて、つくづく優しい奴だ。
***
「何が…どうなっているの?」
五十鈴ヶ丘春は全く現状を理解していなかった。
正確には、理解しようとしていなかった。
自分がいじめられていると自覚をしたくなかったのだろう。
春は自分に向けられた視線を思い出す。軽蔑、優越、哀れみ……
どれも嫌だった。
私はいじめを受けたのだ。完膚無きまでにそれはいじめと言えるのだった。
気分は最悪だった。
どうせならいじめる側になりたかった。
しかし、いじめられる側はこんなにも辛いものなのだろうか。
私は濡れた服を少しでも乾かそうと、屋上へ向かった
屋上は高いフェンスで囲まれていて、何だか閉じこめられているような圧迫感があった。
空は変わらず青々と広がり、爽やかな風が吹き抜ける。
そこから眺めた街は精密に作られた作り物のようで、どこか幻想的だ。
ふと、屋上の端に人影があることに気づく。
よく見たら、私がいつもいじめている生徒だった。
どうもこんにちはゆうひです
なかなか先の展開が思い付かないので、もしかしたら次投稿まで開くかもしれません
頑張って書きます!