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8話 不器用な男の不意打ちは破壊力抜群

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「うあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

呪いの森に男女に声が響き渡る。

時はさかのぼる。




森の主を狩る準備を終え三日後、日が昇る前に二人は気合をいれていた。

矢筒を背負い、弓を斜めにかけるソラ。


「準備できたかー?」

「おうよ!」と言って外で待っているケンの方にかけるソラ。


槍を左手に持ち直したケンは行くぞと言って歩きだした。


一か月ちょっとで随分弓が上達してケンからお墨付きをもらった。手にタコは出来るし痛かったけど、何か一つでも出来るものが欲しかったから頑張れたし、ケンが上手くなったと褒めてくれると嬉しくて毎日欠かさず練習した。

主が出るスポットはこの森の東側。主を確認したところでケンが大熊をおびき寄せて待ち構えたソラが弓で打つという作戦だ。



ケンの口笛が鳴った。おびき寄せを始めたようだ。木の後ろに隠れたソラは弓弦に矢をかけ、いつでも引ける準備をする。

二回目の口笛。


木の陰から出て弓を引く。それと同時にケンがこちらに走ってきてた。

ヒュッと風を切る音と同時に矢が熊の左肩に命中。奇声をあげて苦しむ大熊。茶色くどっしりと重そうな熊に一瞬怯んだソラだがうまく矢が当たった事に安堵した。


しかし、喜ぶのもつかの間熊は苦しみながらも顏をあげゆっくりゆっくり歩き出した。


「おいおい、嘘だろ」

「えっ、矢当たったじゃん。なんで倒れないの」


後ろに一歩ずつ下がりながら慌てだす二人。


ぐわぁーーと鋭い牙の並んだ口を全開に開けに襲い掛かってくる大熊の主。


「逃げろ!!」

「うそでしょ!!!!」


全力で逃げるが、熊に追いつきそうだと振り向いたソラは足を滑らせた。体制を立て直そうとしたソラはケンの腕を捕まえたが、とっさの事で踏ん張れなかったケン。二人もろとも、山の斜面を転げ落ちる。


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「うあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


下まで転げ落ちて上を向くと、大熊は諦めず斜面を走ってきていた。


「くっそ。貸せ!」

ソラの弓に2本の矢をかけて放つ。命中して熊は苦しむ雄叫びをあげるが止まらない。

もう一度放ち命中するが同じだ。

とんでもない生命力だ。流石森の主というべきか、まったく倒れない。もう一度射るつもりが矢がない。

「やべ・・・」


熊はもうそこという距離で二足になり前足で二人を押しつぶそう鋭い爪を出した。


「いやぁぁぁぁ!!!!!!!」

ソラは転がっていた槍を取って、熊に向かってついた。


ぐさっと、腹にささった槍は大熊も痛かったようで、横に倒れる。その隙にケンは槍を抜き熊の首元を掻き切った。


「し・・・しん・・・だ?」

「あぁ・・・。まじ、死ぬかと思ったぜ」

「うわーーーー!!もう、二度とやらない!もう、無理だからね!」



荷車に大熊の主を乗せて大通りを通る。ソラは、木の棒をつきながら後ろから荷車を押し、ケンも足を引きずりながら荷車を引いている。ケンのぼさぼさの髪には枯葉。ソラの帽子には泥がついていた。

誰もが、二人を凝視して驚いている。

それも当たり前だ。森の主と言われる大熊を狩ってきたのだからみんな揃って驚いてるのだろう。


森の主は高く売れた。それこそ、1か月は何もしなくても暮らせそうだ。加えて、農耕組合からの感謝の謝礼金までもらった。


ありがたくお金を懐にしまって、二人は足を引きずりながら家路に帰って行った。


それから数日は、二人とも何もできなく消沈してしまい、筋肉痛と主との戦いで負った擦り傷、切り傷、痛めた筋を直すことに集中した。



街に出かけたのは5日後。すっきりとした顏で二人は街に来ていた。来てすぐ屋台の出来立ての蒸しパンを紙袋いっぱいに買った。

片手で紙袋を持ってさっそく一つとって食べるソラ。

「う…うっ…。美味しいよ…。ほのかな甘み。おいしいぃ!!!!」

「食い意地だけははってんな」

パクパクと蒸しパンを頬張っているソラはケンの嫌味をスルーしてついて行く。


ついて行くとそこは、装飾屋さんだった。


「おっさん。この前言ってた奴くれ」

「あぁーはいはい。ちょっと待ってくれ」

そういってお店のおじさんは中に入って品を取ってきてケンに渡す。代わりにお金を渡したケン。

「まいどあり。恋人も喜ぶだろう」


「ほらよ」

「うん?ぶべぼば」

「食ってから話せアホ」


蒸しパンを口いっぱいに含んでいたソラにチョップをしながらケンは言った。飲み込んだソラは、それを凝視する。


「これ、この前の簪…」

「欲しかったんだろ」

「・・・」


白と黄緑のガラス細工で花びらを作り、花の中心にはハルズという鉱石をあしらった簪。一度その櫛を見てからソラはケンを見返した。


「んだよ」

「なんで?私、ケンに何もあげられない。お返しできない」

「・・・森の主は二人で狩ったものだ。お前はこれを貰う権利がある。いいから貰え!」


ケンはソラの空いている右手に簪を握らせ、紙袋から蒸しパンを一つとりソラの口につっこんだ。


「むぐぐぐ!?」

「いらないなら、返品しろ!」


そう捨て台詞を言ってケンはサクサクを早足で歩いていってしまった。


もぐもぐと食べきるとソラはその場に座り込んでしまった。



「あ~~~~。ばかヤロー・・・」

真っ赤になった顏のソラは、初めての感覚に戸惑ってしばらく動けなかった。


「お嬢さん男とは不器用な生きものさ。理解してやってくれ」

「は、い・・・」

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