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7話 美味しいご飯につられてはいけない

大通りの道から小道に入って少し歩いたところで大雨になってしまった。閉まっているお店の前で雨宿りをしている人がいたのでソラは急いで、そのお店の前に入って雨宿り。


木彫り屋さんは今日はお休みのようだ。でも、雨宿りできる場所はこの場所しかないので雨が弱くなるまで場所をかしてもらおう。


人一人分空いた隣に黒いマントを被った男が立っていた。ソラはただの好奇心で顏をこっそり覗き込んだ。


「あっ」とソラは声を漏らしてしまった。一か月前の王様の誕生パレードがあった日門の前でぶつかった男だった。声をあげたらに男はソラを見た。


「あの…えっと。雨降っちゃいましたね」

あえてあの時の話をしない。そんなことは知らないと言われると恥ずかしいので他愛もないこの場しのぎの話をした。


「えぇ。そうですね」

「雨やむといいですね」

「えぇ」


話続かないよ!!もうちょっと話に付き合ってくれてもいいのに。


「旅の人ですか?」

「いいえ」

「・・・。そうですか・・・。あ~えっと。私は最近このあたりに移り住んだんです。いい街ですよね!活気があるし、ご飯も美味しいし!」

「・・・。しかし、全ての者が裕福ではありません」

「確かに、ストリートチルドレンはたくさん見かけました。貴族の人達との暮らしが大分違うのは一目でわかりましたし。でも、私達みたいに力がない人にはどうしようもないから・・・。王様に頑張ってもらいたいですね。」


難しい顔で彼は「えぇ。私もそう思います」と言った。


「それではこれで」と言って彼は止んでない雨の中行ってしまった。


私何かまずいことでも言ってしまったのかな?

「あっ!!ペンダント!!忘れてた」

売るつもりだったが一か月も街に出なかったのでその機会がなかった。今日持ってきていたにも関わらず、気まずい雰囲気をなんとか立て直すのに気を回してペンダントの事をすっかり忘れていた。この街に住んでいるならそのうちまた会えるだろう。売るのはやめて、あのペンダントは彼に返そうと決めた。


彼が去った後少しすると雨が小降りになり、ソラは呪われの森を通り家に帰って行った。


帰って、おじいさんと夕飯を取っているとケンが帰ってきた。


「あれ?ケンお帰り~。今日帰って来ないと思っておじいさんと先に食べてたよ。ごはん食べる?」

「おー。食う」

「なんじゃ、湿気た顏しておるの」


椅子を引いてどっかりと座ったケンにおじいさんはしっしっしっと笑っていった。


「誰のせいだと思ってんだ!!じじぃの酒代で財布の金が底をついたんだよ!」

「うるさいの~まったく。老いぼれの娯楽を取るでないぞ!」

「明日から酒はねーからな!自分で稼いでこい!!くそじじぃ!!!」

「耳元でうるさいの~今まで、育ててあげたであろう!酒代だけで安いと思えい!」


おじいさんは、残りのスープを一気に飲みきってぷんぷんと怒りながら部屋へ入ってしまった。


「そんなに怒らなくてもいいじゃん。ケンが子供の頃はおじいさんが養ってたんでしょ?」

「んなわけねーだろ!!ここに住みだしたのは、ここ2年だ。それに育ててもらった覚えはねーが、こき使われた覚えはある!!!!」

「そうなの?そういえば、おじいさんとケンの関係って何?家族じゃないの?」

スープをよそってケンの前に出しながらソラは言った。


「じじぃとは血はつながってねー。俺とじじぃは12歳の時会った」


門から出た小高い丘でケンはおじいさんとであったそうだ。あの時、ケンは強くなりたいと泣きながら一人丘の上にいたそうだ。その時、酒によって顔がほんのり赤いおじいさんは鼻歌を歌いながら丘を登ってきた。泣いてるケンに気づいて近づいてこう言った。


「強くなりたいか」

「つ、強ぐなりたい!!俺、強ぐなりだい!!」

鼻水と涙でくしゃくしゃの顔のケン。


「なら、ついてくるといい」


それからの日々は地獄のようだったという。呪いの森に初めて入ったのもおじいさんがついて来いと言ったからで、ソラのようにその森を抜け山を登って家が見えた時同じ反応をしたケンだった。


「この樽に川から汲んできた水を溜めとけ~」

おじいさんは家の前に布を敷いて日向ぼっこをしながらケンに告げる。

何回も何回も川から水を汲んできて樽にいれる。


「師匠ー。いつまでこんな事やればいいんですか!?」

「修行じゃ修行~いっぱいになるまで溜めるのじゃ~」


だんだんイライラしてきたケンが懇願しながら助け舟を出すが、おじいさんはお酒を飲んで日向ぼっこを続けるばかり。


水が全然たまらない。なんでだと疑問に思い、樽の中を覗けば穴が空いていた。

「くっそーーーーーー!!!穴空いてんじゃねーか!!!」

「しっしっしっ。それもまた修行じゃ~状況確認もできんじゃ一人前にはなれんぞ~」


腹がたって仕方ない。


それからも、修行という名目で家の事は全部ケンにやらせては稼いできた金は全部酒に持って行かれた。これは、修行ではないと気づいた時にはすでに遅かった。


「そんなわけだ」

「あ~・・・どんまいとしか言えない」

「俺が学んだのは、信じる方がバカだという事だな」

「ごめん。否定できないわ・・・」


今の話を聞いて「人を信じないなんて悲しい!」なんてヒロイン気取りの臭いセリフは言えない。言える人がいたらみてみたい。ただ一言どんまい。


「明日から、森の主を狩る!」

「森の主??なにそれ」

硬いパンをちぎってスープに浸しながらソラは言う。


「最近、この森から街の畑に下りてきて作物荒らしてる大熊だ。主を狩って売れば大金が入るぞ!」

「それ狩るの?大変そう~頑張ってね!」


親指を立てて彼女が言うと「お前も一緒に狩るんだよ!」と言って親指を逆の方にグッと押した。


「いたたたた!痛い。離せバカ!」

「美味いもん食いたくねーのか?主を捕まえられたら、街で人気のケーキもクッキーも食い放題だぞ~」

「えっ・・・。ご飯も?」

「あぁ」

「果物も?」

「あぁ」

「じゃ・・・じゃあ!出店の蒸しパンも!?」

「あぁ!たらふく食えるぞ!」

「まじでか!!!!やるやる!主狩る!!」


想像してよだれが垂れそうになっていた口元を拭いて奮起する。

そんなソラを見て、ニヤッと悪い笑みを浮かべるケンだった。



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