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2話 月光生命繊維線

「はっ?何逆ギレしてんの?あなたもさっきの奴らとどこがどう違う!?」


睨み返されて無性に腹が立ったので言い返してやった。大人げないのは分かるけど、興奮しているのかアドレナリンのせいでイライラが止まらないのだ。


「ばか!声でけーよ!」

男は私がキレた事に驚いたようだ。もう一度私の口を塞いで周りを見渡す。


「おーい!!!女がいたぞ!!!こっちだ!」

どうやら私のせいでさっきの赤髪の男達に見つかってしまった。 この嫌味な男を挟んで向こう側に私を指差し仲間を呼びつけたのだ。


「くっそ!おい、逃げるぞ。」

嫌味男は私の手を取り、木箱を蹴り飛ばした。私達を挟み撃ちにしようとしたチンピラは勢いよく飛んできた木箱に当たり倒れ込む。その隙に逃げるが、引っ張ってくれるのはありがたいけど走る速度が早すぎて足がうまく回らない。転びそうになる。


「もっと早く走れ!」

「無理言わないで!走るの苦手なの!インドア派なの!」


くねくねとまるで全ての道を分かっているかのように私を導いてくれる。冷たい風を切りながら必死に逃げていると、街の建物が段々と少なくなり進む先に森が見えた。


森に入ったところで私達は木の陰に隠れて様子を伺う。森と街の境から赤髪達は来ようとしない。


「なんで追ってこないの...?」

「アァ?知らないのかお前。ここは死の森だって噂されてんだよ。誰もここには近寄ってこねー」

「何それ!本当に物語みたいなネーミングセンスね。面白い!凄い面白い展開なんだけど!幽霊?幽霊でも出るの?!」

「んだお前...怖くねーの?面白くもなんともないだろ」

「普通に怖いよ!」

「はぁ?...。...。お前面白いって言ったくせに怖いのかよ!意味分かんねー」

「怖いからおもしろいんだよ!こう...ぞわって!あっ、でも幽霊は実際見たくないな。物語とか画面越しだから楽しく見れるっていうか…」

「お前、変態だって言われたことねーか?」

「変態?私のどこが変態なの?喧嘩売ってんの?」

「売ってんのはお前だろうが。そう言う事じゃねーよ...アァッーめんどくせ!」


男は髪をくしゃくしゃ掻きながら木の根に座り込んでしまった。


「ねー。今更かもしれないけど...ありがとう。助けてくれて」

真剣な目で彼に礼を言うと顔をあげ私を見てきた。


「どうして助けてくれたの?」

「別に...。ただ、お前みたいに髪が黒い奴は珍しいんだよ。」


彼の向かいの根っこに座った空は頬杖をついた。


「あのさ。私ここの事全然分かんないんだ。」

「んなこと知ってる。だいたい黒髪の奴らは自分の髪を見せたりしないからな。お前みたいにこれ見ようがしにしてるやつが物事知ってるようには見えねーよ」

「むっ。そんな言い方しなくても...黒髪ってどうして珍しいの?」

「西にずっと行くと小さな島国があるんだ。その国は長寿の人間が住んでる。俺達より長生きなんだよ。それに島から出ない」


彼の話によるとその西の国の人は皆黒髪で200年は軽く生きるそうだ。そうだという曖昧な表現は、西の国は他国と干渉しない絶対領域だからである。ある者は神の地とか罪を犯した者が行く地獄の島とか…情報が少ないようだ。しかし、西の国の人が人間の形をしているのは確かだ。

長寿の彼らの髪を煎じて飲めば、寿命が伸びると言うことが最近分かっている。3年前に西の国の人がここから西北の海辺で流れ着いたのを発見されこの国の奴隷とされたようだった。


「奴隷の方がまだ増しだ。実際は人体実験にされているって話だ。何故長寿なのか分かったのも実験の結果だろ。黒髪は満月に当たると月の光から生命力を貰っているようだしな」

「あ~、月光生命維持繊維線の事?」

「は?何だ、その月光なんちゃらは」

「80年前位のドイツの科学者が発見した繊維線の事だよ。月光から微かに生命維持に欠かせない繊維線が発見されたの。繊維線ていうのは、原子に絡まって――――」

「まてまて、意味が分からねぇ」

「あ、ごめん。難しかった?人に教えるの得意じゃないんだよね…」

「お前何者だ?」

「私は人間ですけど」

「そんなのみりゃー分かる」

「何て返してほしいの?」

「・・・西の国の人間か?」

「そんなわけないじゃん。思ってもない事質問しないでよ」

「だよな」

「でも、その西の国の人って凄いね!私のいた所でも月光線を集めたサプリメントとか売ってて寿命とかかなり伸びたけど、平均寿命200年って流石にないな~。この月のナノ光がタンパク質によく反応するから?ねぇ。私を差し出すの?」


この世界では黒髪は貴重なようだし、この男が見ず知らずの女をわざわざ助けたのが国に突き出すためだったら理由になる。この国以外でも黒髪を欲しがる王族、貴族がたくさんいるだろうしね。庶民だって捕まえて王に献上すれば褒美を貰えそうだ。


「んなことしねーよ」

「どうして?褒美とか貰えるでしょ?」

「お前死にてーようだな。そんなに売られてーのか?」

「売られたいわけないでしょ!このっ!」


ムカついた空は立ち上がって男の頬をつまんで引っ張った。


「てめー…何だこの手は...」

「口悪すぎるから口の形を直してあげようと思ってね!!」

「ふざけんなよ!俺はお前の命の恩人だぞ!」


そう言って男は私の頬を引っ張った。


「痛い!女のもちもち頬を引っ張るなんて最低!」

「お前が手離したら離してやるよ!くそ女」

「は?誰がクソだ!このクソ男!私には空って名前があるんだよ!」

「てめーも言い返してるだろうが!俺だってケンて名前がある!」


そんな罵詈雑言を止めたのはケンの腹の音だった。静かな森には少し大きな音が聞こえて、あまりにもミスマッチな音に二人して笑い出した。


「ふふふふ...あーもうやだ。お腹痛い。ごめん。言い過ぎた!」

「ああ、わりー俺も。お前、これからどうすんだ?街に戻ったら捕まるぞ」

「この髪をどうにかしないとだよね。いっそのこと丸坊主...は嫌だから短く切ろうかな」

「切るのか?...もったいねー綺麗な髪なのにな」


ソラの髪を人束とったケンはそう言ってくれた。

「天然垂らしって言われない?」

「あほか。俺は正直ものだからな。綺麗なもんは綺麗って言える感性の持ち主なんだよ」

「あ、そう・・・」

勝ち誇った顔に呆れて言葉が出ない。


「来るか?」

「えっ?」

「だから!くるかって聞いてんだよ!行くとこねーんだろ。お前が街戻って死んでんのも目覚めがわりーし」


恥ずかしそうにくるっと回ってケンは森の方に進んで行った。


「あ!ちょっと待ってよ!置いてかないで!普通に女子が怖いものは私も怖いから!!」

「お前、女だったか?」

「うわ、最低だわ。滅びろそこの男」






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