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1話 私は冒険心あふれる主人公

どこの世界も星空は綺麗に輝くものだと思った。空のいた世界のネオンの人工的な光と今立っている世界の街のキラキラする淡い自然の光。この二つは対比的な存在なのに、星空は変わらない。感慨深いものだ。


「状況が全く理解できない」

ベンチに座って呆然となる。


空がいるのは丘の上で、そこから下に街が見えた。

果てしない大きな街だ。そんな得体の知れない場所に向かうべきなのは分かるが嫌な予感しかしない。というか、既に後戻りできない状態に陥っている。あそこに行ったら大きなクジラに飲まれて海の荒波に揉まれながらクジラの血肉の一部になりそう。街に食べられて空は永遠に戻ってこれない気がした。


立ち上がってみるも状況が変わるわけでもなく、先ほど飲んだお酒のせいで興奮状態だ。それに上手く頭が回らない。暫く立ってベンチの前を言ったり来たりと考えに耽っていたらイライラしてきて舌打ちをする。そもそも、何でこんな事になった。ニュースで言っていた宇宙空間次元装置を私が持っているわけでもない。それに、今起こった事が非科学的で信じられない。物語が好きなのはそんな非科学的な事が起こるから好きだけど現実で起きるとなると準備が欲しい。何かのはずみで宇宙空間次元の入口が開いてしまったとか?日本の東北地方で大地震が起きて100年経ち科学革命が起きて今年で大体90年位だが、国民の生活は対して変わらない。それは私がすでに革命後の時代に生まれ昔の生活を知らないから言える事かもしれない。中高と宇宙科学は必須で勉強したけど今の状況は理解できない。


その街は夜なのにキラキラと輝いている。蛍光灯の化学的な光とは違い目に優しい光だ。丘の上からでも人が行き来しているのが見える。

人が良く通っていて地面が固まっている道を通って丘を下ると街の入口だと思われる場所にまっすく道が通っている。目を遠くにするとその先には大きな白い門が開け放たれていた。 大きく開けた人道にたくさんの人があの門に向かって歩いていたので、空も人ごみに紛れて進む事にした。しかし、空の恰好が珍しいのか通り過ぎる人はちらりと視線を空に向ける。


門に近づくと、人の力で開けれない門の大きさをしていた。

「でかっ・・・。」


白い巨大な門は見上げると首が痛くなりそうだ。私の時代でこんな門は存在しない。こんな大層な門がなくても外敵から街は守れる。個体分子が人によって違うので犯罪が起こっても直ぐに身元が分かるし、国で個体識別分子の情報を管理しているのでハッカーでもない限り悪さはそうそうできない。しかし、その分子は身分証明書代わりで、例えは免許を取ったとすると国に管理する個体識別分子の情報に免許取得の情報が加えられ免許を持ち歩かなくても良くなった。

この世界は科学の発達が遅れているのは、この大きな門で分かる。白い門の左右には門番が数人立っていた。今時門番なんてするのは古きを大事にするヤクザ連中位だ。私の世界では家政婦ロボットが当たり前になっているし、まつり事をする日本政海堂の入口も対テロ用のロボットが構えている。


空は門に近づき門番の一人に声をかけてみることにした。

「あの、すみません。」

「うん?なんだい?嬢ちゃん」

「今日人多いですね。何かあるんですか? 」

こんな事を聞くと門番は奇妙な目で私を見てきた。


「なんだ?知らないのか?王様の誕生日だからだよ!賑わってるのは他国の商人や観光客が明日の王様の生誕パレードを見に来てるのさ。嬢ちゃんもそれを見に来たんじゃないのか?」

「あっ...えっと、何せ田舎から親戚の家に奉公に来たもので...」


そんなありきたりな嘘をついて誤魔化した。門から想像はしていたが、まさか王様が国を仕切っている君主国なんて王が極悪人だったら国民飢え死にじゃないか。私はいつの時代の世界に来たんだろうか。


門番のおじさんに礼を言って門を通過しようと一歩踏み出すと、誰かにぶつかってしまった。黒ずくめの集団の一人のようだ。来る途中こういうマントを頭から被った人はたくさんいたが、この人達は何か雰囲気の違うものを感じた。


「すいません!前方不注意でした」

ぶつかった人に謝ると、「ああ。気をつけて」と言った。その際、少し顔が見えたがしゅっとした輪郭と目に棘を感じるが言葉には大して敵意はなかった。何事もなかったかのようにその人を先頭に集団は去って行った。


「イケメンって人生得してるよね~。」

残念な独り言を言って進もうと足元を見ると、ブローチが落ちている。


綺麗なブローチだ。

透明な花びらの中心には青い石が埋め込まれている。月の光に当てると、透明の花びらがたちまち七色に光りだす。高そうなガラス細工のブローチだな。


「さっきの人の?裏に紋章だ…馬かな?ペガサス?」

周りを確認したが、さっきの男はすでに去っていた。


男には悪いが、これを売れば当分は食べていけるかもしれない。どうせ、あの男の人に会うこともないだろうしこれで生活をつなげればいい。しししと笑って背負っていたリュックにしまった。こんな世界に来て綺麗ごとを言っていたら私が餓死してしまう。この世界の事情の一つも知らない私が順応するにはしょうがない事だ。南無南無と男に念を送っておくことにした。


この国の街は本当に賑わっていた。門を通りまっすぐ大通りが続いていて、出店には家族連れ、カップルとたくさんの人で賑わい皆笑顔だ。空は不思議な気分だった。ほろ酔い気分で暖かく灯る火は空の心を安心させた。知らない場所に来て驚いているが、子供の頃に祖母が話してくれた物語の中に入った気がしてどきどきしている。皆笑顔で幸せそうだし私が知っている世界の雰囲気とはかけ離れた建物や空気に酔っているのかもしれない。どうにかなる、きっと大丈夫が空のポリシーで、今も物語の主人公になったように冒険心でいっぱいだ。


「あれ~君、見ない格好だね。しかも珍しい髪色」

声をかけてきたのは、無償髭を生やした赤い髪の男だ。身長は私と大して変わらなそうだし、年は無償髭のせいで老けて見える。どこの世界もこういう軽そうな男はいるのだと、面白い発見をした。


「私から見たらあなた達の方が珍しいです」

ずっと思っていたが、この街の人たちは皆髪色が鮮やかで彩みどりだ。


「そう?ていうかさ~その黒髪染めてるの?」

「いいえ、めてませんけど。それじゃ、先を急いでいるので」

と言って、男の横を通り過ぎようとすると腕をつかまれてた。


「つれないな~。門からずっと君を見てたけど、君凄く目立ってるの分かってるの~?」

どうやら門からつけられていたようだが、全く気付かなった。平和な世界に住んでれば動物的本能はなりを潜めるようだ。掴まれた腕から鳥肌が立った。


「何がしたいんですか?」

「ちょいと相手して欲しくてさ」

赤髪の男は私の耳元で言ったものだから気持ち悪い何かが電流のように全身を駆け巡る。

私が息を飲んでいるところに「声あげたら殺すよ」ともう一言。



「きゃーーーーー!!!変態ーーーーーー!!!」

ここで黙っていたら、相手の思うつぼだ。私は電車で痴漢されても大声あげて殴り返すような女だ。残念だったな。


声をあげたら嫌でも視線を集めてしまう。そんな周りの様子に私を囲っていた男たちが私から視線を外した。その隙に、赤髪の足を思いっきり踏んで突き飛ばした。


「いってーーーー!!!くそっ!追いかけろ!早く!!」

赤髪の指示で走り去る空を追いかけた。


災難だ。足はそこまで早くないんですけど・・・。

祖母が他界してからあまり外で遊ばなくなったせいでもある。一生懸命足を動かす空は、2個先の小道に入り込んだ。深く深く、迷路のような道を走り抜ける。それでも、追いかけてくる男達の足音は消えない。少し後悔していた。物語のようにスルスル事が進むだろうと思っていたから、こういう風に追いかけられると怖くなってしまう。


積み重なった木箱を登って、壁を超え着地すると足がしびれた。

「う…いった」悶えている暇はない。着地の衝撃を感じながらも疲れた足を動かす。心臓が煩く脈打ち、今にも爆発してしまいそうだった。恰好つけてお酒なんて飲まなければよかった。


限界と思い、人一人が通れそうな壁と壁の隙間に砂まみれの木箱があり、その後ろに隠れた。息を潜めて男達が去るのを待つ算段だ。


「おい!あの女どこ行った?!」

「まっすぐ進んだ気がしましたけど」

「まだ、ここらへんにいるかもしれねー探せ!」


男たちは、散っていった。安心して、立ち上がりここから抜け出そうとしたら口をふさがる。あ…終わった。冒険心あふれる主人公になったようで楽しかったのに。ネガティブな考えを隅でしていても諦める気はない。放せと言わんばかりがっちりホールドされた腕から逃れようと暴れる。


「暴れるな。黙れ!ここから出るとお前つかまるぞ!」

私にだけ聞こえる低い声で男は言う。

風船がしぼんだように大人しくなると口を押さえていた手を取ってくれた。そして、振り向いた空は相手を睨みつけた。


「あなた誰ですか?あの人達の仲間?」射抜かんばかりに睨み付ける。

「は?冗談やめろよ。あんなチンピラと一緒にすんな!」とキッと睨み返された。


助けてくれたのはありがたいけど、何だこの態度は!?私も少し言葉が強かったのは認めるけど、男は心を広くもって優しく接しなさいよ!





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