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10話 朝帰りはお父さんが怒るからやめておけ

「うっ…」

私が目を覚ました時には朝になっていた。傷の手当がきっちりしてあったのには驚いた。私は昨日、彼女を殺そうとしたのに戻ってきて処置をしてくれたようだ。


そばに薬草をすり潰した跡があったので、出て行ったのはこれと包帯を取ってくるためだったのかもしれない。


それに、なくしてしまったとばかり思ったこのペンダントも何故か彼女が持っていた。不思議な娘さんだ。



--------------------


ソラが帰ったのは、朝方だ。私が近くの薬草屋さんに行っている間に孔明は気を失っていたようだった。孔明というのは私が勝手につけた名前だ。銀髪のサラサラヘアーの彼を見た時に三国志の諸葛亮孔明を思い出したからだ。聡明そうで落ち着きのある雰囲気もぴったりだしね。まぁ、ナイフ向けられたのはムカついたけど。


買ってきた薬草をすり潰して傷口に塗りハンカチを当てて一緒に買ってきた包帯を巻いてあげる。止血作用がある薬草だが、これはたんなる応急処置だ。この人を医者に見せていいのか曖昧だし…追われている人っぽかったから。


一晩中唸っていたのでほっていけなかった。額に滲み出る汗をぬぐうしかできず、呼吸が落ち着いた明け方に私は帰った。きっと死なないだろうし私が出来る事は全部したつもりだ。



「お前、どこほっつきあるいてたんだよ」

「えっとね~死にそうな人がいてですね・・・」

「そんなやつほっておけよ!」

「は?!放っておけるかバカ!ていうか、自分も帰って来ない日あるくせに何なんだ!あんたは新妻か!」

「誰が新妻だよ!ったく・・・」


配便の本部に寄ってから荷物配達完了の札をひっくり返し、家に帰るとドアの前に仁王立ちで待ち構えているケンにこっぴどく怒られたが、ただで怒られるソラではない。いつもの如くああでもこうでもないと言い返した。呆れたケンは髪をガシガシと掻く。


「心配じゃったんじゃよこやつは」

「は?!・・・んなわけねーだろが!」


おじいさんの言葉に珍しく焦っているケン。


「・・・ふふふそうだったの?寂しかったの?あっ!そうだ。今日配便お休みだから街に行って一緒にご飯食べようよ!おじいさんは?」

「わしは、街のじじい共と会合があって無理じゃ~悪いの」

「て、事で。午後に出かけよう!」


お風呂に入って、清潔な服に着替える。白いワイシャツにケンのズボン。そして最近少し寒くなったのでカーディガンを着る。簪は内ポケットに大事にしまい急いで一回におりる。


朝帰りの事でまだ拗ねているようだ。ソファーに座っているケンの機嫌はあまりよろしくない。

そっぽを向いていたケンの腕をつかみ無理やり家から連れ出す。


「あのね!この前たまたま見つけた屋台が美味しかったんだよ!そこの焼き飯とデザートの揚げアイスが美味しいんだ」


「東の方に猫のたまり場があってね。数日通ってたら皆私の事警戒しなくなって撫でさせてくれるようになった」


森を下りながら仕事の話や美味しいごはん処の話を一方的に話す。そんな他愛もない話を「そうか」「へ~」と相槌をして聞いてくれるケン。本当に久しぶりに話す気がする。私がこの世界に来たときはずっとケンと一緒にいたのに、いつのまにか離れていく気がした。今この瞬間が凄く幸せだと感じる。ケンは私の大切な友達だから。


街に下りてから私はケンの腕を引っ張って色んな所に連れまわして、お昼を食べてそう時間がたってないのに小腹がすいて屋台の揚げパン屋によって、紙袋いっぱい買う。揚げパンのおじさんに「またお嬢ちゃんか」と言われパンをもう一個おまけしてくれた。ありがとうと後ろを向くとケンがいなくなっていた。


「あれ?ケン?」

きょろきょろと回りを見てもやっぱりいない。

ついて来ていると思っていたのに、はぐれてしまったようだ。この時間は人通りが多いから無理もない。そんなに遠くには行ってないだろうし探そう。


一口揚げパンを口に入れながら歩き出した。



――――――――――――――――


「おい。そろそろかえ――――」

振り向いたケンは彼女がいないことに気づいた。


「ったく。餓鬼かよあいつは…」ガシガシと髪を掻く。


取りあえずまっすぐいった噴水の所でまってようと思い前を向くと女にぶつかった。

「きゃっ!」

「おっと」


倒れる前に腰を支える。


「大丈夫か?」

頷く女に「そうか」と言って、元の体制に女を戻してあげる。女は綺麗な金髪にサラサラの髪を背中まで伸ばしていた。街娘の格好をしているが、どうみても街娘とは気品が違う。


「あなた、(ワタクシ)にぶつかっておいて誤りもしないのかしら?」


あ~めんどくせ。どっかのお貴族の娘が街見たさに家から抜け出したのが見え見えだ。


「何もわかんねーようだが。あんた浮いてるぜ」

「なっ!?わ、わたくしはただの街娘だわ!それにあんたなんて名前ではなくエリーナと言ってもらいたいですわ!さっ!エリーナですわ!」


ちっと舌打ちをしたケンは女の顎を掴んで引き腰も引いて自身の顔を近づける。


「エリーナとやら。この街は案外平和じゃねーんだわ。その綺麗な肌に傷作りたくなかったら屋敷に帰れ」


エリーナはケンがした行動に驚いて目を大きくしている。


エリーナから手を放して「じゃーな」と言って去っていった。



―――――――――――――――――――――


ソラは噴水で待っていたケンを見つけたが声をかけるか戸惑っていた。

さっきの一部始終を見て気まずいのだ。


優しい手つきで綺麗な人を引き寄せてキスしていたのを見てしまったのだ。私とは比べ物にならないくらい綺麗な人だった。私のまとまらない髪とちがい蜂蜜色の髪が動く度にサラサラと音を立てそうだ。

ケンも茶髪で目つきは悪いが身長も高くてがっちりとした体に目元の泣き黒子が案外色気があるのだ。そんな二人の行動は物語の中の運命の人との再会のシーンを見ているようだった。あんなに大好きだった本の中で出てきそうなシーンを見ても嬉しいと思えなった。


紙袋片手に揚げパンを食べている私はその場にお門違いでばかばかしく、安い存在に思えてならない。


ぼっーとしていたら、ケンが私に気づいた。


「てめーどこほっつき回ってんだよ!アホ!」

「うん」

「お前、ご飯食ったばっかなのにまた揚げパン買ったのかよ!」

「うん」

「お前の胃どうなってんだよ?!」

「うん」

「おい…お前、普通はあんたに言われたくないとか言うところだろ」

「うん」



この世界で頑張って生きようと思って仕事紹介してもらって一生懸命やってた。その間にケンには大切に思える人が出来てたんだ。ケンがイエローロウズで何やっててもそれは、恋しい感情で交わるのではなく人間の本能的部分だけで他意はないから何も思わなかった。


置いていかれて焦っているんだ私。この世界で一番信頼しているのはケンでケンがいなくなった時の事は考えていなかった。もしかして、私ケンの邪魔してる?私みたいに手のかかる奴が増えて恋人との時間がなくて会えてなかったとか。あれ?私、散々ケンに色々言ってたのに相手の事考えもしなかった。


「おい!マジ大丈夫かよ」

「えっ・・・・あっ。ごめんごめんはははは!ちょっと宇宙まで魂飛んでた!!」



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