9話 人間信じる心も大事
今日はいつもより少し長く3000字が超えました。
誤字脱字ありましたらお知らせください。
異性からのプレゼントは初めてだけど、たぶんケンは恋愛という好意からのものではないと思う。だって、普通照れるはずなのにケンはそんな様子なんか見せなかった。ただの成功報酬…。
それでも、贈り物は無条件に嬉しいものだ。私が簪を見て綺麗と言っていたのを覚えていてくれたのだから、勘違いもしそうだ。絶対、ケンはやり手だろうな。
簪を挿せるのは家の中かこの森でのみ。街ではもちろん簪は挿せないからケンから貰った帽子を被って懐にしまって歩く。街の若い娘のように少しはお洒落したいし、簪を挿して普通に歩きたい。しかし、そんな事をしたら私の命が危ない。それに、この帽子をかぶってスカートをはくのって似合わないから、普段から男の恰好だ。背も高いから大体の人が空の声を聴かない限り綺麗な男だと思う。
森の主を狩ってから、街では少し有名になった。私は午後の自由な時間に一人でぶらりと街に出かける事が多くなった。ケンはその前に一人で出かけてしまうので寂しく一人だ。出かけるなとは言われてないし、勝手にしている。街に下りると主に野菜やパン屋の主人にたくさんの物を貰う。主を狩ってから農作物の被害が無くなったと言って押し付けてくる。食い意地だけで生きてるソラは嬉しそうに貰っているけれど。
今日もケンはお昼を食べてすぐ出かけてしまった。街でケンが何をしているのか、どんな仕事をしているのか私は知らない。そう、彼について何もしらないのだ。
「おじいさん。ケンは毎日どこにいってるんですかね」
「さ~の。家にでも帰っているのじゃないか?」
「家?・・・家ってここですよね?」
あ。前ケンが言ってた。この山に住み始めたのは2年前位だと。という事はここは家じゃないのか。
「ケンのご家族は今も健在ですか?・・・あっ。いいえ。なんでもないです。やっぱりケンに聞きます」
「そうかい」
こういう事は本人から聞かないで第三者から聞くなんて失礼だ。嫌味な奴だと最初は思っていた。けど、今はお互い減らず口をたたいて喧嘩もするけど、そんなのは本心じゃない。お互い分かっている。日本にいる静香みたいに心許せる友達なのだ。たったの二ヶ月。でも私には濃くてさまざまな出来事があった二ヶ月だ。地味で面白味のない私が、この世界で友達が出来て、弓も弾けるようになった。料理もあまりしなかったのに、おじいさんから料理を習って簡単なものなら作れるようになっていた。毎日忙しくしているのに凄く充実感を感じている。
「いつもの下さい」と言うと男のウェイターは厨房に引っ込んでいった。ソラはイエローロウズに来ている。この国は米を出している店が少ない。そして、大抵調理法が間違っていて、とても食べれたものではないのだ。しかし、イエローロウズの米料理はおいしい。特に山菜を入れた炊き込みご飯にはまっている。
「おまたせ~ソラちゃん!」広間の一角のテラス席は夕飯時の私の定席だ。山菜定食を持ってきてくれたアンナは私の向かいに座った。
「ありがとう!ウェイターのお兄さんに頼めばいいのに…わざわざ持ってきてくれるなんて悪いよ。私、アンナを指名するお金までは稼ぎないし…」
「いいのよ!店の人もソラが常連客だって分かってるもの。私がソラにつくのにも文句は言わないと思うわ」
「ならいいけど・・・」
「そうだ!最近どう?新しい仕事始めたんだってケンから聞いたわ!!」
「農耕組合の会長が配便の会長と知り合いみたいで紹介してもらった~。あ、農組の会長は森の主を狩った時に知り合ったんだよ」
ぱくっと焼き魚を食べてご飯をかきこむソラ。
「そういう巡りあわせもあるのね。ここの所毎日お店に来て夕飯食べに来てくれるでしょ。忙しいの?」
「お昼取ったら1時から仕事なんだ。毎日配達する量違うから終わる時間はバラバラで割と忙しいかも!帰る頃にはおじいさん寝てるし。夕飯は、このお店が一番おいしいからね!」
「充実してるようで嬉しいわ」
「最初は分からない事だらけだったよ。王都がこんな広いとは思わなくてさ~。初めて王城の門見た時は圧倒されたな~」
配便の仕事を始めたのは丁度2週間前。王都が広くてもここまで広いとは思っていなかった。入り組んだ道を覚えるのは大変だったし、少し裏道に入ると物騒な人たちがわんさかいる。
そして、何より。王城の門を見た時の衝撃は忘れられない。小さい頃、夢で見たあのお城にそっくりだったのだ。おばあちゃんと一緒に世界を覗き込んだ時のあの白いお城はここの事だったんだと分かった。あの時すでにこの世界を見ていたのだ。
「ごちそうさま。今日も美味しかった!!仕事頑張れそう!」
「ふふふ。良かったわ!でも、ケンと最近あまり一緒にいないでしょ?寂しくないの?」
「寂しい?なんで?あいつは一応私の命の恩人だけど、あいつの生活まで首突っ込む仲ではないよ。それにきっと迷惑だろうしね。よいしょっと。ごちそうさま!」
配便で支給された革製の頑丈なリュックを背負い、弓も頭から通して斜めにかける。私は今週街はずれの割と治安が悪い場所の担当になった。配便の人達もあまりここの配達をやりたがらないのは、事件が多く起こるしヤンチャしている奴らのたまり場が近いからだ。しかし、ここを担当すると給料からプラスされるので私は思い切って希望した。
「そう。また来てねソラちゃん」
「うん。じゃあね!」
「羨ましい子。自由な子猫ちゃんね」
アンナはソラの後ろ姿を見ながら呟いた。
夕飯を食べ終わってから配達が終わるまでそう時間はかからなかったが、今日の配達先は中央街から一番離れている家で走っていくのが大変だった。基本配便は足を使う。先輩方を見ると上手く小道を使ったり、人通りが多い場所は屋根を伝ったりとまるで忍者のように見えた。スクーターとかあったらこの仕事も早く終わるんだろうけどない物ねだりはやめよう。
「さて帰るかな~」
もう既に空は暗くなり星が輝いている時間帯だ。小道に入って近道して本部に帰ろうとしたソラは、あの時の男を見つけた。暗がりに、仲間の一人だろうか?二人で何か話しているようだった。
頷いて仲間の一人が男から走って去って行った。
「こんばんは!。お久しぶりです。覚えてます?」
走り寄って声をかけると男はビクッとしてこちらを振り返った。
「あなたは雨の日の娘さん・・・」
「あっ覚えてくれてたんですね!こんな夜遅くにここに居たら危ないですよ」
「そういうあなたこそ危ないのではないですか?」
「私は慣れてるから大丈夫です!」
「慣れてるとは?」
「仕事で良くここまで来るん――――」
言いかけた所で西の方角からナイフが飛んできた。
「あぶないっ!」
彼は私庇おうとして脇腹に飛んできたナイフが突き刺さった。
「えっ・・・嘘」
脇腹からは血が出て服に染みを広げている。
「うっ…」
「だい、大丈夫ですか?あ・・・ここから離れなきゃ。肩につかまってください。」
脇腹を抑えて苦しんでいる彼に腕を回して、この場から急いで離れる事を考えるソラ。ここの裏道は知っている。そこに入って少しすると、空き家があって人は殆ど寄り付かない。
「頑張ってください。もう少しです」
だんだんと顔が青白くなる男。きっと、直追手がくるだろう。なぜこ人が刺されたかは分からないけど、刺されている人を放っておくなんてできない。それに私を庇ってくれた人だ。
足音が聞こえる。ここは常時静かな所だ、町工場があった跡地でガラスの破片や砂利が多いので足音は響く。急いで右に曲がり空き家に入る。
汚れたシーツが敷いてあるベットに彼を横にして、ドアから外の様子をうかがう。
「どこにいった?確かに傷は負っているはずだ。遠くには行けまい。探せ」
「「はっ」」
人数は3人で顏は布で良く見えなかったが、この場から離れてくれたのは好都合だ。
「ここから離れていきました。大丈夫ですか?・・・どうしよう」
ソラがそう伝えると男は、脇に刺さっているナイフに手をかけて引き抜いた。
「くっ・・・がっ・・・」
そのナイフは刃渡り20センチくらいだろうか。こんなのを刺されて生きていられる自信がない。
「失礼します」
ソラは彼の上着を脱がせてようとした。
すると、彼は抜いたナイフをソラの首筋にあてがった。
「な、にを…するつもりだっ…。触るなっ…ぐっ」
彼の目は冷たくソラの目を睨み付ける。このまま彼が私の首を切ってしまったらそれでおしまい。背筋に冷たい物が流れる。
「止血しないと死んじゃいます。ナイフ下してください。あなたは疑う事しかできないんですか?悲しい人ですね」
彼の目は真剣そのもので、本当に人を殺せる覚悟がある人の目をしているのが分かった。でも、助けようとしている人を刺客と思って疑う彼に腹もたった。
ソラの言葉に少なからず思う節があった彼は瞳が揺れる。そして、その隙に立ち上がって距離を取る。
「庇ってくれたのはありがたいです。でもあなたが殺されそうな事をしたんじゃないですか?自業自得ですね」
そう言って、カバンから何か取り出し彼に投げつける。
「それ返します」
「こ、れは・・・。なぜあなたが」
そしてソラは家から出ていく。
ぼやける視界の中、男はソラの背中に何かを重ねている。
「…自業自得…か。」
そして、男は意識をなくした。




