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真・恋姫†無双~北刀伝~  作者: NOマル
第三章~乙女大乱三国志演舞~
59/90

~馬岱、説得するのこと~

お久し振りでございます。

あれ?タイトルが違うような……と、思われた方々。

今回は、そういう話となっております。


それでは、どうぞ!





あの負け戦は、去年の秋の事だった。



五胡(ごこ)――――後漢末期、中国に侵入した非漢民族の総称。


中でも、匈奴(きょうど)は秦漢帝国と対峙した北方遊牧民族である事で、広く知られている。

最盛期の時代には、モンゴル高原を初めとした広大な領土を有し、覇を唱えていた。


その匈奴と、一つの軍が荒野にて対峙していた。


賈駆と華雄率いる董卓の軍である。


地図を眺めて策を練り始めている賈駆。突然、天幕に伝令兵が入室する。


「ご報告します!我が軍の前線が、“匈奴”の先鋒に突破されました!」

「分かった。お前は下がって指示を待て」

「はっ!」


兵からの報告を聞き、こちら側が劣勢である事が判明。どうやら、潮時の様だ。


「いいえ、まだ……まだ何か策がある筈……!」

「流行り病で遠征軍の半数は歩くのがやっとという有り様だ。これでは、策も何もあるまい」

「でも、ここで引いたら、きっと“匈奴”は我が領土まで――――」

「だからこそ、今は一刻も早く兵を引いて、国境の守りを固めろ」


并州(へいしゅう)には、まだ呂布の軍が無傷で残っている。彼女がいれば、押し寄せてきた匈奴の軍勢を追い払う位は出来るだろう。

華雄の策を聞き、賈駆は最後の思考に入る。その結果、


「…………そうね。今はそれが最善だわ」

「よし。なら貴様はすぐに撤退の準備を始めろ」

「華雄将軍、あなたは?」

「幸い、私の手勢は病にかかっておらぬ者が多い。今から図に乗っている匈奴の鼻っ柱を叩いてやろうと思ってな」


その言葉に、賈駆は黙ってはいられなかった。


「む、無茶よ!相手は万を越えているのよ?千や二千の兵で何が出来るって言うの!?」

「貴様らが逃げるまでの時を稼ぐぐらいはできるさ」

「【(みやび)】、あなたまさか……!」


華雄の真名を口にした賈駆の脳裏に、最悪の結果が過る。


「おいおい、勘違いするなよ。私は貴様らの為に、捨て石になるつもりは更々ないぞ?やられっぱなしでは気が収まらんから、ちょいと挨拶してくるだけだ」

「けど……!」

「心配するな。こんな所でむざむざやられたりはせんさ。何しろ私は――――」


――――長生きする(たち)だからな。





◇◆◇◆





そして今はもう、春。


桜の花弁が咲き誇る庭園。朱色に染められた渡り廊下。両手に書簡や巻物を手に、賈駆は一人、あの戦の事を回想していた。


(僕のせいだ……兵に流行り病が広まり始めた時、すぐに撤退を決断していれば、あんな事にはならなかったのに!)


そのせいで華雄――――雅が……。


「賈駆殿」


自責している最中、声をかけられた。

我に帰り、目の前の人物を見る。


「これは、張譲殿……」

「お仕事、(はかど)っていますか?」

「ええ、まあ……」

「匈奴との戦いで、疲弊しきった貴方達に援助の手を差し伸べ、この洛陽で陛下の側近くにお仕えできる様、計らったのは、一重に貴方達を、国を想う誠の忠臣と見込んでの事。多難な時ではありますが、だからこそ務めに励んでいただかないと」

「……承知しております」


彼女にかけられた張譲の言葉の中に、嘲謔が混じっているのを感じる。助けてやったのだから、それ相応の恩返しをしてもらわなければ。そういう風にも捉えられる。

若干、俯きながらもそう答える賈駆。


「本当にそう思ってるのかな~?」

「っ!?」


耳元で囁かれ、思わずその場から仰け反る。そのせいで、持っていた書物が地面の上に散乱する。


「アハハハ、ごめんごめん。びっくりしちゃった~?」

「り……【李意(りい)】殿」


肩甲骨まで伸びた、黒ずんだ鉛色の長髪。幼さを残した童顔で、黒ずくめの導師服を身に付けている。

少年、李意は悪びれる様子を見せず、それ所か、慌てる様を見て楽しんでいる様に薄い笑みを浮かべている。


「まあ、頑張ってね賈駆ちゃん。ちゃんと張譲君に借りを返さなきゃねぇ?」

「こ、心得ております……」


からかう様に声をかける李意。耳にしながら、散らばった書類を集める。後一枚、取ろうしたが、それは李意の足の下敷きとなっていた。

思わず顔をしかめる。


「り、李意殿。その、足下に……」

「んん?あぁ、ごっめ~ん。踏んじゃってたね」


棒読みの謝罪。言葉とは裏腹に、その足はジリジリと書物を踏みにじっていた。

故意ではない事が明らかだ。足を上げた時には、書物はとても読める状態ではなかった。


「ありゃりゃ~、これじゃあ書簡が台無しだ~。どうしよう~」

「……すぐ、別の物と変えてきます」

「そう?ホント、ごめんね~?賈・駆・ちゃん♪」

「いえ……」


謝る気など更々ない。そんな思惑が手に取る様に分かる。賈駆は文句一つ言わずに書簡を回収し終えた。


「李意、何をぐずぐずしている」

「ほいほ~い、今行きますよっと」


前方から声をかけられ、李意は軽く言葉を返しながら、賈駆の横を通り過ぎる。

その最中、彼女の肩に手を置き、耳元に口を寄せる。


「――――精々頑張ってね……負け犬ちゃん」


嘲笑が込められた言葉を送り、李意は張譲の元へと向かった。


「………………」


その場に立ち尽くす賈駆。俯いており、表情は見えない。


しかし、左手に握られた書物は皺が出来、痛々しい程に、強く握り締められていた。







古代中国の中心地の一つとして周代から栄えた後漢の首都――――洛陽。


後漢最後の皇帝である献帝が統べ、経済・文化の中心として繁栄した都市。


洛陽の中心部にそびえ立つ、皇帝が住まう城。天高くまで届く位の大きさを誇り、内装も鮮やかな装飾や色彩で彩られている。


石畳が敷かれた廊下を、二人の少年が歩いていた。


「貴様という男は、もう少し行動を慎むという事が出来ないのか?仮にもこの場は陛下の城内なのだぞ?」

「そんな事言って~。こっそりと皇帝様の座を狙ってる癖に……」

「口を慎め。お前は口が軽すぎる」

「生憎、僕はおしゃべりなんだよん。まあ、こんな口上手なボクだから“匈奴”の奴等を言いくるめて、董卓の軍を“襲わせる”事が出来たんだけどねぇ」

「口を慎めと言っている」


張譲は苛立ちを見せ、声を荒げる。李意は怯える処か、その反応を見て楽しんでいた。天邪鬼な彼に頭を悩ませながら、これ以上は言っても無駄だと諦める。


李意が言った通り、まず張譲が李意に命じたのだ。


そして、李意が五胡を上手く言いくるめ、董卓の軍を襲わせた。

結果、董卓という盾と呂布という矛を手に入れる事に成功。同時に、五胡の戦力も少なからず手中に収める事ができたというのが事の顛末。

この真実は、二人しか知らない。


「いや~、単細胞な連中ばっかだから簡単だったよ。ちょっと唆しただけであいつら簡単に言うこと聞きやがってさ。正に、餌を求める飼い犬だね」

「逆らわぬ様、抜かりなく(しつけ)ておけ。蛮族にはまだまだ働いてもらわなければ」

「分かってるよ。そこんところは、ボクにお任せってね」

「ふん……」


廊下で語られる二人だけの会談。その会話を耳にしているのは二人のみ。


石畳を踏む音が、冷たく、重く、響いていた。






◇◆◇◆






桃花村から出発した、一刀達――桃香、鈴々、朱里の三人――。特に何かと遭遇する事もなく、森の中を歩いていく。


やがて数分歩いた所で、朱里が口を開いた。


「あの、鈴々ちゃん。ずっと気になってたんですけど、その背負っている葛籠(つづら)、一体何が入っているんですか?」

「分かんないのだ」

「はっ?分からないって?」


鈴々が背負っている大きな葛籠。

身仕度を終えて部屋を出る際、戸口に置いてあったらしい。弁当という文字の貼り紙が貼ってあった。きっとおいしいものが入っているに違いないと、持ってきたそうだ。


「いっぱいあるみたいだから、皆に分けてあげるのだ」

「わ~い、鈴々ちゃん太っ腹~♪」

「桃香お姉ちゃん程太くないのだ♪」


ピキッ!と、亀裂が走った。

本人曰く、別に深い意味はなく、見たままを言ったらしい。

この悪意なき?言葉を直に受け、桃香の顔は青ざめていく。

そんな桃香を慰めながら、一刀はふと歩みを止めた。


「それはそうと……二人共、何かおかしくないか?」

「はい、私もそう思います」


朱里も同意見らしい。対して、鈴々と桃香は二人して首を傾げる。



――――そして、“葛籠の中にいる人物”はというと、暗闇の中で外の様子を伺っていた。


「――――えっ、魔物の仕業!?」

「はい。以前、古い書物で、葛籠の中に潜み、うっかりそれを開けた人間を食べてしまう魔物の話を読んだ事があります」


恐らく、この葛籠にはその魔物が潜んでいるだろうという、朱里の推理。

それを耳にし、嫌な汗をかく。


「それじゃあ、どうすればいいのだ?」

「そうですね――――葛籠を開けて魔物が飛び出してきては厄介です。このまま綴に火を着けて、中の魔物ごと燃やしてしまいましょう」

「……いや、もっと早い方法がある」


鈴々の背中から葛籠が下ろされ、一刀はその前に立つ。

そして、腰に携えている刀を引き抜き、両手で上段構えをとる。

チャキッ……という金属音が、葛籠の中まで届いた。鼓膜に響き、顔だけでなく、背中を氷の様に冷たい汗が流れる。



一刀は閉じていた目を開け、刃を翳す。



「――――このままぶった斬る」

「ちょ、ちょっと待ったあああああ!!」


不味い。非常に不味い。


目に見えずとも感じ取れる恐怖。命の危機に瀕し、その人物は観念して葛籠からその姿を現した。


「――――なんてね」

「うぐぐ……!」

「やっぱり馬岱ちゃんだったんですね」


人物、馬岱が見上げると、そこには腰に手を置きながらこちらを見下ろす朱里。

後方には刀を納める一刀、そして鈴々と桃香がいた。


「だ、騙したな!?」

「いや~、ごめんごめん」

「それはこっちの台詞です」


両手を腰にやったまま、朱里は呆れ混じりにため息をつく。


「でもまあ、あんな子供騙しのやり口に騙される方がどうかしてるんですが……」

「まったくなのだ」

「鈴々、お前の事だからな?」

「とにかく、馬岱ちゃんはここから村に戻って下さい。いいですね?」

「ええ~、なんで~~!?」

「なんでって、馬岱ちゃんは翠さんに、村でお留守番してる様、言われてたじゃないですか。その言いつけを破って勝手についてくるなんて、駄目に決まってます」


きっぱりと言い放つが、それでもたんぽぽは子供の様に駄々をこね始める。


「留守番なんてつまんないよ~!たんぽぽも一緒に連れてって!絶対大人しくしてるから~……」

「駄目です」

「頼むよ!お願い!」

「ダ・メ・で・す!」


強く懇願しても、断固拒否の意思を示す朱里。たんぽぽは援軍を呼ぼうと、鈴々に頼る。


「ね、ねぇねぇ!張飛からも何か言ってやってよ!」

「ダメなものはダメなのだ。子供は村で大人しく留守番してるのだ」

「なんだよ子供子供って、張飛の方がよっぽど…………」


と、そこまで言いかける。

すると、ピカッ!と何か閃いたのか。瞬時に鈴々の横に付き、耳元に囁く。


「連れてってくんなきゃ、“あの事”孔明に――――」

「いっ!?あ、いや、それは……」


“あの事”。


そのワードが出た途端、鈴々は歯切れが悪くなり、動揺を隠せずにいた。

旅に出る前の事、桃花村の屋敷にて鈴々はある事をしでかしてしまった。

その話は、後々語るとして、たんぽぽは切り札を握ったと確信。

肘でちょいちょいとつつき、催促する。


「しゅ、朱里……旅も修行の内だし、馬岱も一緒に連れてってやってもいいんじゃ……」

「り、鈴々ちゃん!急に何を言い出すんです!?」

「べ、別に脅されてる訳じゃないけど、ここは一つ、馬岱の言うとおりにしてやった方がいいかも、なのだ……」

「……鈴々ちゃん、どうしたんですか?何か変ですよ?」

「そ、そんな事ないのだ……」


目を細めて、ジ~ッと見つめている朱里。鈴々は乾いた笑いを浮かべ、横にいるたんぽぽは正に悪い笑みを浮かべていた。


「なあ、朱里。朱里の言いたい事も分かるけど、せっかくここまで来たんだ。今さら送り返すのも、可哀想だろ?」

「うん、朱里ちゃん。私も、馬岱ちゃんを連れてってあげてもいいと思うんだけど」

「一刀さんに桃香さんまで……」

「それに、今から送り返したら、森の中で日が暮れちゃうし……」

「それはそうかもしれませんけど……」


見上げれば、空は橙に染まっていた。


村からは少し離れており、今からだと夜になる前に着くというのは難しいだろう。


暫く考えた後、諦めた様に息をつく。


「…………しょうがないですね。わかりました。馬岱ちゃんも一緒に連れていきましょう」

「やった~!!」

「ただし!物見遊山の旅じゃないんですから、遊び半分の気持ちじゃ駄目ですよ?」

「は~~い♪」


上機嫌になったたんぽぽは、元気良く返事をした。




そんなこんなで、新たに馬岱ことたんぽぽを旅の一員に加えた一行。

その道中、突然、霧が出始めた。


「あっ、霧が出てきた」

「前に来たときも、この辺で霧が出てたのだ」

「足元に気を付けて下さいね。まだまだ濃くなりますから」

「本当、“キリ”がないですね――――なんちゃって♪」

「…………みんな、言いたい事があるかもしれないけど、ここはオブラートに包もう?な?」


一刀がこう言うも、鈴々だけは正直に言った。


「全然おもしろくないのだ」


――――と。



という訳でですね、二つに区切る事にしました。

アニメだと、スムーズにいくのですが、小説では文章にするとかなりの文字数をいくんですよね。それに加えて一刀の台詞等も入っている訳ですし。

なので、少しでも早くご覧頂ける様にする為、これから二分割にしていきます。タイトルに手間取るかもしれませんが、何のこれしき!

という事なので、次回もよろしくお願い致します。

二週間後、またお会いしましょう。


それでは♪

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