~劉備、減量を頑張るのこと~
皆さん、お久し振りでございます。
今回はタイトルが違うと思われますが、中身はほぼ一緒です。ただ変更点が多い事に変わりありませんが。
前書きはこの位にしておいて、本文にいきましょう。
それでは、どうぞ!
空一体が灰色の雲に覆われている。その下にある都市、名は洛陽。その洛陽を治めている帝が住まう宮殿。
そこに一人の女性が二人の護衛を連れてやって来た。
女性―――何進大将軍は、帝に謁見する為、歩を早める。
「陛下よりの急な御召しとの事じゃが―――ん?」
突然、衛兵が前に立ち塞がる。更に、二人の護衛も取り押さえられてしまった。
動揺する何進の前に、背の小さい少年が表れた。白髪で、高貴な衣装に身を包む少年―――張譲を見て、何進は声を荒くする。
「張譲!これは一体!?」
「何進大将軍……いや、逆賊何進!貴様を反逆の罪で逮捕する!」
「なっ!?」
見に覚えのない罪状を突きつけられる。衛兵は何進の両手を押さえ、口を無理矢理開かせる。
張譲は懐から小粒の丸薬を取りだし、邪悪な笑みを浮かべる。それを彼女の口に放り込むと、同時に兵が口を押さえつける。鼻も摘ままれ、やむ無くその丸薬を飲み込んでしまった。
「ち、張譲、何を飲ま―――ごぼっ!?」
解放された何進は首もとを押さえて咳き込む。そして、吐血した。
その様子を見た張譲は、声高らかに笑いだした。
暗雲立ち込める洛陽に、その悪意に満ちた嘲笑が響き渡った。
◇◆◇◆
『拝啓、雛里ちゃん。お元気ですか?私はとっても元気です。桃花村の仲間達も、元気一杯。まだ雛里ちゃんと会ったことのない人がいたよね。早く紹介してあげたいな。後、少し前に素敵な事がありました。前に手紙で書いた、劉備さんが宝剣を犠牲にして救った村。その村の人が桃花村を訪ねてきて―――』
「この剣を私に?」
「はい。皆様が、うちの村を旅立たれた後、村の前の川を埋めた土砂を洗っておりましたら、その中からこれが出てきまして」
客間にある長机の上に置かれた一つの剣。鮮やかな装飾が施され、見るからに高貴な血筋の者が持つ宝剣そのもの。
言い伝えに詳しい者に聞くと、恐らく、これは湖に住む龍神様が授けて下さったものに違いないとの事。
どうしたものかと村の衆とで話し合った結果。やはり、お家に伝わる大事な宝剣を犠牲にしてまで村を救ってくれた劉備にお渡しするのが良かろう、という事になったらしい。
「劉備様って、黄巾の乱で大活躍したんだろ?高貴の血筋の人は違うって、みんな噂してるよ」
「そんな、大活躍だなんて」
「事実なのだから、恥ずかしがる事はあるまい」
「中山靖王の末裔というのが、義勇軍の名を高めているようですね」
「桃香お姉ちゃんを大将にして正解だったのだ」
村の少年だけでなく、愛紗達にも称賛され、ぎこちなく笑う桃香。
「お気持ちはありがたいのですが、神様からの授かり物を私なんかがもらっても良いのでしょうか?」
「はい。儂らが持っておっても、朝晩拝む位が関の山。それより、志のある方にお持ち頂き、世のために役立てて頂いた方が、龍神様もお喜びになる筈です」
「ですけど……」
「いいではないか」
遠慮しがちな桃香に、愛紗は助長する。
「これは、民を救わんとする姉上の気持ちに応えて、失われた宝剣の代わりに、天が与えて下さった物に違いない。有り難く受け取るのが良いと思う」
「そうなのだ!神様がくれるっていうのを断ったりしたら、罰があたるのだ!」
周りを見渡すと、仲間達は強い意志のこもった瞳で見つめていた。そして、一刀と目が合った。
彼は優しく微笑むと、小さく頷いた。
桃香は微笑み返すと、直ぐに表情を引き締め、合掌する。
「―――分かりました。劉 玄徳、龍神様より授かりしこの剣。有り難く頂戴致します」
桃香―――劉備 玄徳は龍の剣【靖王伝家】を手に入れた。
◇◆◇◆
『――――それでは雛里ちゃん。体に気を付けて、お勉強頑張って下さい』
雛里に向けての文も一段落終え、朱里は筆を置き、固くなった体を伸ばす。
「朱里ちゃん、お昼の用意しましょう」
「はい。水鏡先生宛のは後で書こっと」
紫苑に呼ばれ、朱里は昼食の準備に取りかかる。
昼食を食べ終え、翠はたんぽぽと共に、午後の訓練へと向かった。
縁はというと、またも庄屋からの頼みで隣街の方へと出向き、屋敷にはいない。付き人として、胡花と香里、そして華陀も同行した。
朱里と紫苑が皿を洗い、一刀と璃々も手伝いを行っていた。
拭き終わった食器を棚に仕舞っている最中、古そうな壺を発見した。これは星の大好物であるメンマが入っているメンマ壺。
しかし、かなりの日数が経っている為か、匂いからして腐っている可能性が高い。
「星の奴、メンマにはうるさいから、勝手に処分したら怒るだろうな。まっ、後で星の奴に聞いてみるか」
頭の隅に置き、一刀は壺を戻し、棚の戸を閉めた。
◇◆◇◆
涼しい風に舞いながら、鮮やかな桃の花びらが青空を彩る。
桃の木の下で、鈴々は桃香。瑠華は愛紗の膝を枕にして横になっていた。
鈴々は堂々としていたが、瑠華は初め、顔を真っ赤にしていた。
愛紗としては甘えてくれても構わない――むしろ大歓迎――ので、快く引き受けてくれた。
やや抵抗気味だったが、彼女の柔らかい膝に身を委ねる。すると段々と羞恥心が抜け落ち、終いにはすっかり夢の中へと旅立っていった。
すやすやと寝息を立てる可愛らしい寝顔に、微笑を浮かべる愛紗。そして、本を片手に瑠璃色の髪を優しく撫でる。
鈴々は鈴々で、猫の様にくつろいでいる。
「やっぱりお日様の下では勉強よりお昼寝なのだ」
「勉強中も寝ているだろう?」
呆れながら言う愛紗に、くすりと微笑む桃香。
「けどホント、鈴々ちゃんと瑠華君はお昼寝好きよね」
「後、膝枕も大好きなのだ。お兄ちゃんと愛紗の膝も気持ちいいけど、桃香お姉ちゃんのは一味違うのだ」
「一味違うって、どう違うの?」
「愛紗のより、柔らかくてスッゴくプニプニしてるのだ♪」
純粋かつ無垢な笑顔で、鈴々はそう答えた。
その夜、自室にて桃香は寝台の上に座っていた。
「う~ん、そんなにプニプニしてるかな?」
太股を触る。すると、危機が迫った表情を浮かべ、今度は腹部に手を伸ばす。
「確かに旅をしてた時は、もうちょっと引き締まってたかも……」
ぷにっとした感触を感じ、肩をガクンと落とす。
「よし決めた!今日からおかわり禁止で減量よ!」
グッ!と拳を作り、意気込む桃香。その固い意志を保ちながら、夕食の場へと向かった。
そして、居間の扉を開ける。
「遅かったな、桃香」
「今日の晩御飯は、桃香さんの好きな狼の肉の煮込みですよ」
机の上を牛耳る大きな土鍋。湯気を出しながらグツグツと煮えており、見ているだけで涎が出てくる。
(げ、減量は明日からでいい、かな……?)
好物の誘惑に負ける劉備であった。
◇◆◇◆
「はう~……。やっぱり食べちゃった分だけお肉増えてるかも……」
寝台の上でお腹の肉を触り、ため息をつく桃香。プニプニと柔らかい感触が増した?気がする。
誘惑に負けてしまった罰というのであろか。
「いや、でも、これは食べた直後の一時的な物で、消化してしまえばきっと元に戻る筈。そう、絶対にそう!元に戻るわよね?」
「お~い、風呂空いたぞ?」
コンコンと扉をノックする。しかし、物思いに耽っている桃香には届いていない。
不審に思ったその青年は、ドアノブに手をかける。
「お~~い、桃香~?」
「どうしよう……太って一刀さんに嫌われでもしたら……」
「俺がどうしたって?」
「ひゃう!?」
ビクッ!と大きく反応し、後ろを振り向く。と、同時に硬直した。
タオルを首に巻き、ポカンと目を丸くしている一刀がいた。だが、硬直していたのはこれが理由ではない。
今の一刀は、紺色のズボンで下半身を包んでいる。だが、上半身は白の制服を上からただ羽織っただけ。つまりは半裸だ。
服の上から分からなかったが、常日頃から鍛え上げている為、逞しい肉体美が造られていた。
見たこともない男の裸に、桃香は思わず魅入ってしまった。
(ふわぁ……すご~い……)
「えと、桃香?あまり見られると、恥ずかしいんだけど……」
「―――あっ!ご、ごめんなさい!」
気恥ずかしそうに頬をかく一刀。桃香も慌てて目線を反らす。
(うわ~、バッチリ見ちゃったよ~……でも、一刀さんって意外と――――きゃ♪)
赤く染まった両頬に手を当てて、身悶える桃香だった。
「それで、風呂空いたんだけど……」
「あっ、分かりました。すぐに行きますね」
すぐに支度をする。すると突然、一刀から声をかけられた。
「あのさ、桃香」
「はい?」
「……なんか、悩み事でもある?俺で良ければ、話聞くけど」
「え、えっと……」
桃香は迷っていた。言うべきか言わざるべきか。想い人に打ち明けるのは少し抵抗があった。女性なら誰しもが抱く悩みだ。
しかし、誰かに相談するという選択肢が思い付かなかった事にも気づく。ここは一つ、思いきってみよう。そう考えた桃香は、一刀に悩みを打ち明けた。
桃香の話を聞き、腕を組んで何かを考える一刀。
「まあ、女の子なら誰でもそう思うのは分かるけど……」
「さっきも確かめてみたんですけど、どうもお腹の肉がちょっと……」
「でも、見る限り桃香はそれほど太ってる様には……」
一刀は率直な感想を述べる。
彼からの言葉を聞いて、少し心が軽くなった桃香。だが、それでも自分なりに気になるという部分があった。
「確かに、太りすぎは駄目だけど、桃香は焦らなくてもいいんじゃないかな?俺から見ても充分理想的だよ」
「一刀さん……」
「それでも気になるんなら、軽めの運動をするっていうのはどうだ?少しずつやっていけば、きっと実は結ぶよ」
桃香の頭にポンと手を乗せ、微笑みながら言い聞かせる。桃香も一刀の手の温もりに身を委ねていた。
「ありがとうございます一刀さん!おかげで元気になりました!」
「そっか」
「それから……」
太陽の様に明るい笑顔から一変。頬を微かに赤くし、一刀から目を逸らす。一刀が首を傾げていると、チラチラとこちらを見ながら、桃香は口を開いた。
「その、一刀さん……服を」
「へっ?…………あっ」
桃香の言いたい事が分かり、一刀は上着を着ようと、寝台から立ち上がる。
「それと、桃香。君もその……服が」
「えっ?ああっ!?」
一刀に言われ、漸く気がついた桃香。慌てて上着のボタンを閉めようする。
その時、慌てて立ち上がった為、寝台の角に足をぶつけてしまった。
「いたっ!?っと、わわあっ!?」
「へっ?」
片足立ちになってしまい、バランスを崩してしまう桃香。そのままよろめいてしまい、寝台に倒れ込んでしまった。その際、一刀の腕を掴んでしまい、彼もそのまま倒れてしまう。
ドサッと二人して倒れてしまった。
その結果――――
「…………」
「…………」
見つめ合う二人。互いの顔は深紅に染まり、吐息が唇に当たる程まで近づいている。瞳に写るのは相手の瞳。そのまま吸い込まそうな感覚に襲われる。
未だ身動きが取れずにいる事、数秒が経過した。いや、もっと長い時間を過ごしたのかと錯覚してしまう。
すると、漸く変化が現れ始めた。
一刀の方から、ゆっくりと―――顔を近づけていく。桃香自身も、全てを受け入れるかの様に、体の力を抜いていく。
刻一刻と迫るその時。そして、二人が重なり合う――――
「桃香さん、どうかなさっ……た……………」
一刀が転んだ際に生じた物音を聞き付け、様子を見に来た朱里。扉を開けた瞬間、時が止まった様に、体が固まってしまった。
朱里の瞳に広がる光景。それを説明していこう。
まず、寝台の上には一刀と桃香がいた。桃香を押し倒す様に、覆い被さっている。次に、何故か二人は手を繋いでおり、一刀の右手が桃香の豊満な左胸に収まっていたのだ。
次に、一刀は上着を羽織る最中だったのだが、転んだ際にはだけ、今は半裸。しかもズボンもベルトを通していなかった為、膝までずれてパンツが見えてしまっている。
桃香も自らのボディチェックを行っていた為に上着のボタンを外していた。つまりは下着が丸見えになっていたのだ。
そんな状態の二人が寝台の上で横になっている。これを見た朱里の頭の中に、一つの結論が浮かんだ。それと同時に、沸騰したやかんの様に、朱里の顔は真っ赤に染まる。
「あ、あの!しっしししししし失礼しましゅた~~~~~!!!」
「ちょっ、朱、朱里!?」
「まっ、待って朱里ちゃん!?」
その場から逃げる様に走り去って行った。
静寂が訪れる桃香の部屋。もっとも、二人はとても気まず~~い雰囲気になってしまった。
◇◆◇◆
翌日、桃花村の裏山にて。
「――――というわけで、修行に参加したいの!」
「というわけで、と申されましても……」
いきなり過ぎて何がなんだか分からずにいる昴。横にいる瑠華も同様だ。
いつも通り、昴と瑠華の二人は鍛練に励もうとしていた。いつもは一刀も参加するのだが、本人は何やら用事がある様で、この場にはいない。
その代わりに、桃香が昴に修行したいと頼んできたのだ。
「一刀さんには言われたけど、やっぱり、どうしても気になっちゃうの。だから、痩せる為に頑張りたいの!」
「某から見ても、桃香殿は充分痩せていると思いますが……」
「うん、僕もそう思うよ」
昴と瑠華は二人揃って頷いた。二人の言っている事は世辞等はなく、本心からだ。
年下である二人から見ても、桃香の体型は理想と言っても過言ではない。ボリュームが高い胸にスラリとしたお腹回り。
世の中の女性達が羨む事は間違いなし。
だが、桃香の耳には慰めにしか聞こえない。
「うぅ~、でもでも、気になるものは気になるんだもん」
「修行したいのであれば、翠達はどうです?同じ女性同士、相性も良いかと思うのですが……」
「そ、それが……」
言いにくそうに目線を反らす桃香。それもその筈。
昴の言うとおり、翠やタンポポの鍛練に参加した事はあった。
だが、その前の準備運動――重りを付けたうさぎ跳び、木にぶら下がってからの腹筋、重りを乗せての腕立て伏せ、よく分からないコサックダンス――で、早くもリタイアしてしまったのだ。
桃香から聞いた二人は、顔をひきつらせていた。
「ま、まあ、桃香殿には厳しすぎるやもしれませんね」
「そんなこんなで、お願い昴君!瑠華君も」
昴の肩を揺さぶり、瑠華に抱きつく桃香。泣きながら抱きついている為、瑠華は引き剥がそうにもどうしようもない状態になっていた。
「まあ、話は大体分かりました」
「えっ、じゃあ」
「はい。微力ながら、お手伝いさせて貰います」
「別に断る理由ないしね」
「ありがとう!昴君、瑠華君」
桃香は感謝の気持ちを込めて礼を述べる。更に瑠華を抱く力が増し、瑠華は苦しそうにしていた。
漸く解放され、瑠華は柔軟を行う。
昴は上座対前屈という姿勢をとらせ、桃香の背中を押す。しかし、
「か、固っ……!?」
「あうぅ……」
「あっ、申し訳ありません!」
本音を言ってしまい、桃香に謝罪する昴。
押そうとするも、指先がプルプルと震え、足の爪先に掠りもしない。日頃運動していないせいもあるかもしれないが、何より、前に倒れる事によって、二つの球体が押し潰されているのだ。
どれだけ押してもびくともしない。
柔軟を一通り終え、今度は走り込む事にした。ただ走るのではなく、人を背負って、坂道をダッシュする。
中々の斜面である場所に着き、昴は瑠華を背負う。昴はそれをものともせず、難なくクリア。その素早さに感嘆の声を漏らす桃香。
「では、桃香様もやってみて下さい」
「やってみるって、瑠華君をおんぶするってこと?」
「はい、ほら瑠華」
「ええ……?」
瑠華は明らかに嫌そうな顔をする。これは決して、桃香が嫌という訳ではなく、ただおんぶされるのが恥ずかしいのだ。
背が小さいとはいえど、瑠華も男だ。それなりに思う所はある。
「えっ!?だ、大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ?紫苑さんもおんぶできた事ですし」
「えっ、紫苑さんも?」
桃香が聞くと、瑠華は顔を反らした。
どういう状況だったのか?これ以上聞くのは駄目だと察する桃香。まだ不安があるものの、瑠華を背負おうとする。瑠華は渋々といった感じで、桃香の背中に抱きつく。
「よいっしょ―――あっ、軽い!」
「でしょう?」
「いいなぁ、瑠華君。肌もモチモチでスベスベだし、体重もこんなに軽いし」
「……それって、褒められてるの?」
ジトッとした視線を背中越しに感じながら、坂道を登っていく桃香。足への負担もあったが、50メートルもある距離を何とか走りきった。
それを、五往復繰り返す。昴は用意してあった重りを背負い、坂道を走る。100キロ近い岩を背負いながら、涼しい顔で登っていく。
その様子を見て、汗を流しながら頑張る桃香。
こうして、一セットを終えた一同。
「ふぇ~、疲れた~」
「お疲れ様です」
地面に寝転ぶ桃香。昴は腕を伸ばしながら、労いの言葉をかける。瑠華も足をしっかりと伸ばしている。
「昴君達は凄いよね。全然疲れてないし……」
「俺達の場合は、日々継続して行っていますからね。毎日続けていけば、慣れるものですよ」
ぐったりとした桃香にその言葉が届いているかどうか分からない。
一息つき、顔を上げる桃香。ふと、瑠華の姿が写った。
「そういえば、瑠華君は走らないの?」
「ああ、瑠華の奴に合った重りが、中々見つからなくて。俺を背負っても、全然ですし」
「そうなの?」
「はい、あいつ瞬発力はあるんですけど、腕の力が全くと言っていいほどなくて……」
すると、いつの間にか前方にいた瑠華。桃香に背を向け、腰を下ろす。突然の事で目を丸くする昴と桃香。
「……んっ」
「えっ、えっと……」
「背負うから乗って」
「ええっ!いや、いいよ瑠華君。無理しなくても」
「どうしたんだお前?急に何を言い出すかと思ったら」
「いいから、ほら!」
二人の言葉を無視し、瑠華は桃香に乗る様に促す。押されに押され、桃香は瑠華の背中に抱きつく。
「ふっ!ぐっ、ぐっっ……くっ!」
「あ、あの、瑠華君。本当に大丈夫?無茶しちゃ駄目だよ?」
「だ、大丈夫……この位、平気、だよ」
顔一面が赤くなっており、どこからどう見ても無理しているのが丸分かりだ。
ふらついているものの、しっかりと足を踏ん張り、瑠華は頂上を目指す。桃香は不安になりながら、しっかりと抱きつく。
「おいおい、大丈夫かよ」
「まったくだな」
「うわっ!?」
突如として現れた星に驚き、昴は体を仰け反る。
「おやおや、もう少し気をつけねば、一刀の様にはなれんぞ?」
「ぐっ……よ、よく分かった」
何も言い返せず、昴は素直に頷いた。
(それにしても、瑠華も瑠華でむきになって。まっ、ああいう一面もあるから可愛いのだがな)
昴に散々――本人に悪気なし――言われ、カチンと来た瑠華。少しは凄い所を見せたかったのか、ちょっとした意地を見せている。
その様子を見て、星は優しく見守るのであった。
◇◆◇◆
太陽が沈みかけている夕刻。桃香と瑠華を背負っている星は帰路についていた。
あれから昴が考えてくれた他の鍛練も行い、すっかり日が暮れてしまった。
昴は用意した道具を片付けると同時に、少し釣りをしたいと言って、裏山に残った。
鍛練の手伝いをしていた星は、無理をしてすっかり眠りに落ちてしまった瑠華をおんぶして、桃香と共に道を歩いていた。
「うぅ~疲れた~……」
「みたいですな。それにしても、桃香殿が鍛練に励むとは、どういう風の吹き回しで?」
「う、うん。ちょっと運動してみようかな~、なんて」
「そうですか。なら、一刀にも手伝ってもらえばよいのでは?」
何かを思い付いたのか、星は桃香が見えない所でニヤリと口角を曲げる。
「でも、一刀さんだって、自分の事で忙しそうだし……」
「まあ、確かに最近一人でいる事が多くなりましたな。ですがご安心を。“コレ”は夜中、男女二人で行うものであり、互いに汗を流し合い、尚且つ疲れが癒されるといった優れものですぞ」
「そ、そんな事ができるんだ!?星ちゃん、それって?」
「フッフッフ、耳を少々」
「うんうん」
ヒソヒソと桃香の耳に“その運動”を教える星。伝え終えて数秒後、ボン!という擬音が似合う程の湯気を出し、沸騰寸前になる桃香。
「せせせせせせ星ちゃん!んななな何言ってるの!?た、確かに、一刀さんとはま、まだ“そういう事”していないけど!は、恥ずかし過ぎるよ~~~~!!」
「何を言うかと思いきや、そんな事では先を越されてしまいますぞ?例えば、私とか」
「そ、それは……」
両頬に手を当て、ぐちゃぐちゃになった思考を纏め上げる桃香。
その様子を見て、星は堪えていた笑いを耐えきれずに吐き出した。それを見た桃香は、からかわれたと気づき、頬を膨らませる。
「せ、星ちゃんひどい!もう!」
「こらこら桃香殿、大声を出しては瑠華を起こしてしまいますぞ?」
「あっ、ごめん――――じゃなくて、星ちゃんがからかったんでしょ!?」
「おっと、それは失敬」
手玉に取られ、ぶすっとした表情で不機嫌になる桃香。そっぽを向いたまま、先へと進む。
怒らせてしまったかな、と思っていた矢先、星の首に回された瑠華の手に力が込められる。顔を更に埋め、抱きつく力を込めている。
その様子に気づいた星。そして、ボソボソと何かを呟いている瑠華。耳を澄ませて、聞き取る。
「――――――父様……母様」
「…………」
途切れ途切れで吐き出されたその言葉。その一つ一つが、星の心に残った。瑠華を背負い直し、何も言うことなく、歩を進める。
二度と離したくない――――そんな気持ちが伝わる程、瑠華の手は強く握られていた。
――――姉、さん……。
◇◆◇◆
屋敷へ戻った後、星は瑠華を寝巻きに着替えさせて寝かせる為、部屋に連れていき、桃香と別れた。
桃香は見て分かる様に、疲労困憊の状態であった。
(翠ちゃん達よりはまだ頑張れたけど、疲れた~……。で、でも、あれだけ運動すれば、お腹の肉もちょっとは減ってる筈よね?これで食べる量をいつもぐらいに抑えれば――――)
しかしその思惑は、テーブルに広げられた豪華な料理によってかき消された。
「今日は、皆さんの好きな羊の肉を焼いたものです」
「これ、鈴々大好きなのだ♪」
「肉汁たっぷりでうまそう~♪」
抑えれば……
「それから、昴君が釣ってきた鯉。鱗がパリパリになるまでじっくり揚げて、特製のアンをかけてあるのよ♪」
「う~ん、これは食欲をそそる匂いだな」
抑え、れば……
「食後には胡麻団子もありますからね」
「タンポポあれ好きなんだ~♪」
「璃々も璃々も~♪」
いくつもの料理による誘惑が、桃香を襲う。
(抑え、れ…ば…………エヘヘヘ♪)
瞳をキラキラと輝かせ、涎を垂らす。
またも誘惑に負けるのであった。
そして、この日はお風呂の日である。桃香は一人湯船に浸かり、一日の疲れを癒していた。
「満腹満腹♪運動した後は食が進むわよね~♪そしてゆったりとしたお風呂―――って、幸せに浸ってちゃ駄目!」
我に帰り、お腹の肉を摘まむ桃香。
「なんか昨日より増えてる気がする……」
可愛らしく唸りながら、食欲に負けてしまった自分に渇を入れ直す。
「運動すると余計食べちゃうから、“食べない・動かない・太らない”の三大運動よ!」
桃香はそう決意した。
しかし、この行動が他の仲間を――特にあの男を――巻き込んでしまう事を、桃香はまだ知らない。
次回は一刀と瑠華に視点を寄せていきたいと思います。
一刀は……もう、想像がつくかもしれませんね。
瑠華の方も、段々と“過去”に繋がる話とかを出していきたいと思っております。
前の話から一ヶ月以上も待たせてしまい、本当に申し訳ありません。
今更ながら、仕事の方で精神的にヤバくなって、執筆が危うい状態です。
しかし、こうして続けられるのも、皆さんの応援のおかげだと、心から感謝致します。
本当にありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。
次回もお楽しみに。
それでは♪




