~一刀、恋姫達と日常を共にするのこと【拠点・一】~
大変、お待たせ致しました(最近こればっか言ってる気が……)!!
それでは、どうぞ!!
【離れない?否、離れたくない……】
華麗な桃の花が咲き誇り、花びらが風に舞い上がる。そこは正に桃園という名に相応しい場所であった。晴れ渡る青空の下で、小さな寺子屋が開かれていた。
子供達は用意された机の上で筆を走らせており、教卓には教育係の青年と少女がいる。
「よし。それじゃあ止めて、後ろから集めてきてくれ」
声を掛けると、子供達は筆を持つ手を止めて、同時に気を緩める。後方の席にいる生徒が紙を集めて、前に持ってくる。
「はい、先生」
「うん、ありがとう」
一刀は紙を受け取ると、枚数を数える。手際よく終え、用紙をキチンと整えた。
「みんな、よく頑張ったね。お疲れ様」
《はい!》
「後、鈴々。授業中あまり眠らない様にするんだぞ?」
「にゃ、にゃはは、気を付けるのだ……」
「まったく、一刀の時はまだ眼を開けているものの、私の時だけ完全に閉じているからな」
一刀と愛紗にそう指摘され、ばつが悪そうに頭をかく鈴々。その様子を見ていた他の生徒達は、楽しそうな笑いを上げる。
「瑠華、お前もだぞ!」
「わ……分かってるよ」
ふと桃の木を見上げる一刀。木の枝の上には、瑠華がごろりと寝転んでいた。桃の花に紛れてうまく隠れたつもりだろうが、一刀にはお見通しだった。ギクッ!と肩を震わせ、居心地が悪そうになる。他の生徒達も、それを見てくすくすと微笑む。
ご覧の通り、一刀と愛紗は二人で子供達に学問を教えていた。この青空教室は最初、愛紗だけが教えていたのだが、彼女が一刀を誘い、それを承諾した事によって、彼も参加している。
元々から子供好きな一刀は、やる気満々で教育に臨んだ。教え方も上手く、協調性も良くとれており、一気に一刀は子供達の人気者となった。
男子達からは尊敬の眼差し、女子からは好意の眼差しを受けている。
因みに、初めて教台に立った時の事――
「今日から、関羽将軍と一緒に君達の教育を行う、北郷一刀だ。よろしく!」
《よろしくお願いします!》
「さて、何か質問とかは―――」
はい!と勢い挙げられた無数の手。素早い挙手に一瞬戸惑いながらも、一刀は平静を保つ。
「お、みんな元気いいな。それじゃあ……そこの君」
「はい。北郷先生って、好きな人はいるんですか?」
「……はい?」
いきなり何て質問を……!?
好きな食べ物は?趣味は?等の定番的質問をすっ飛ばしてまさかのクエスチョン。
その女の子に続く様に、他の生徒達も問いかける。
「どんな女の人が好きですか?」
「どういう所に惹かれますか?」
「ていうか、付き合った事ってあるんですか?」
追い打ちをかける様に、言葉を発していく生徒達。質問攻めを受けている一刀は苦笑し、頬を掻いている。
「ちょ、ちょっと待ったみんな。そんな急に言われても……」
「こらこら、みんなして問い詰めるんじゃない」
「あっ、もしかして、関羽将軍ですか?」
「「えっ!?」」
間に入った愛紗だったが、生徒の発した言葉に、一刀と共に動きを止める。
「やっぱり、そういう関係なんですか!?」
「いや、その……」
「どっちから告白したんですか!?」
「だ、だから……」
「ぶっちゃけ、どこまでいきましたか!?」
「ど、どこまでって……」
「まさか、もうせっ―――」
「ちっがああああああああうっ!!」
天まで届く様なその叫びは、先程の質問をかき消し、生徒達(それと一刀)の鼓膜を刺激した。愛紗は叫び終えると、肩を上下に揺らし、顔を赤くしていた。
と、いう風に、二人の関係を追及する質問によって幕をあけたのであった。その場の後処理にも苦戦したが、なんだかんだで、今となっては思い出の一つとなっている。
「それじゃあ、今日はこれで終わります」
《はい!ありがとうございました!》
「うん。気をつけて帰るんだぞ~?」
小学生の下校を見送る教師の様に、一刀は村の子供達を見送っていった。共に授業を受けていた鈴々・瑠華・蒲公英の三人も屋敷の方に戻っていった。
今日行ったのは、漢文の簡単な小テストだ。一刀は解答用紙を整理し、愛紗もその手伝いを行っている。
「うしっ、一通り済んだかな。愛紗はどう?」
「はい、こちらも全て終わりました」
「そっか。それじゃあ俺達もあがるか」
一刀は用紙を束ねると、脇に挟んで持つ。しかし、愛紗はその場から動いておらず、頭を垂れて俯いていた。
「ん?どうかした?」
「あっ、いえ……そんなことは」
「そう?じゃあ帰ろうぜ」
「そ、その……」
「っ?」
「あっ!よ、用事を思い出しました!」
「えっ、愛紗?」
「では、し、失礼します!」
制止も聞かずに、愛紗は足早にその場を去ってしまった。その後ろ姿を見つめ、その場に立ち尽くす一刀。
「……愛紗」
まただ……。
最近、何故だか彼女から避けられる。声をかけようとしても、すぐに逃げられる。近くの椅子に座っても、わざわざ間を空けて座る。
こういった事がここ数日続けて行われていた。
「俺、何かしたかなぁ……?」
不安がよぎり、一刀はガックシと肩を下ろす。ため息を吐きながら、トボトボと重い足取りで帰っていった。
何故、二人の間に距離が出来てしまったのだろうか?
しかし、何はともあれ、二人が互いに関わり合う事が少なくなってしまったのは事実。これから先、二人は一向に距離が縮まぬまま、日々を過ごしていく――
――かと思いきや、
「「…………」」
《………………》
時刻は昼時。丁度、屋敷では昼食を摂ろうとしている所だ。しかし、とある“違和感”によって、その場には微妙な空気が流れていた。
〈お腹ペコペコなのだ~!〉
食いしん坊の鈴々が部屋に入ってきた。
すると一刀は右手を、愛紗は左手を二人同時に上げる。丁度、その下を鈴々が通っていった。くぐり抜けると、気がついた鈴々が、二人の方を振り向く。
「んにゃ?お兄ちゃんと愛紗、なんで“手を繋いでる”のだ?」
そう、他の皆一同、それを聞きたかったのだ。
鈴々の言った通り、一刀と愛紗の二人は今、手を繋いでいる状態にある(一刀は右手、愛紗は左手)。当の二人は、頬をかきながら苦笑したり、顔を赤らめて俯いたりといった様子を見せていた。
最初は二人の愛情表現を見せびらかしているのかと思ったが、様子を見る限りそうではないらしい。
そして二人は、鈴々及び全員の疑問に答える。
「じ、実はさ……」
「…………“離れない”のだ」
《“離れない”?》
声を揃えて言うと、二人はコクりと頷いた。
――――昼より少し前の事。
桃花村のとある一軒家。その屋根上に、一刀はいた。通りかかった所を村人に呼び止められ、屋根の修理を頼まれたのだ。雨漏りがひどいらしく、一刀は木材を用いて直していく。
「ふぅ……」
釘等も使って、修理していく。一段落終わり、手の甲で額の汗を拭う。すると、下の方に一人の少女が通りかかった。
「あ、愛紗」
「一刀……」
一刀に呼び止められ、愛紗は足を止める。その瞬間、彼女の方から眼を反らした。それを見て、一刀は顔を雲らせる。
「そ、それでは―――」
「あっ、ちょっと待ってくれ!」
その場から去ろうとする愛紗を何とかひき止める。
「できれば、その……下にあるやつを取ってくれないかな?」
「下……これですか?」
「うん、頼むよ」
一刀が指差した先を見ると、木で出来た円形の小さな器があり、中には透明色の液体が入っていた。
一刀はそれを取ってくれる様に、愛紗にそう頼んだ。手伝って欲しい事と、少しは愛紗とも話したいという口実でもあるのだが。
愛紗は断らず、それを承諾した。その器を片手で取ると、屋根に繋がっている梯子を登っていく。
「愛紗、気をつけて」
「大丈夫ですよ。このくらい―――」
と、一刀に視線を向けた瞬間、後ちょっとという所で、足を踏み外してしまった。
「うわっ!?」
「愛紗!!」
咄嗟に一刀は手を伸ばし、間一髪愛紗の手を掴んだ。
その際、器に入っていた液体が、繋がっている二人の手にかかってしまった。
梯子も地面の上に落ち、ぶら下がっている愛紗を、一刀は力を振り絞って引き上げた。
「はぁ、危なかった~……!」
「か、かたじけない」
無事な事を確認し、一刀は安堵の息を吐く。対して愛紗は、少し顔を赤くしていた。それもその筈、仕方のない事とはいえ、自分の想い人と強く手を握りあっているのだから。
「か、一刀。そろそろ、その……」
「あっ、ああ!ごめんごめん!」
気がついた一刀は、慌てて手を離そうと――
「…………」
「…………」
「…………あれ?」
「…………ん?」
ある違和感を感じ、怪訝な表情を浮かべる二人。離そうとしているのだが、手が握りあったまま、ピクリとも動かないのだ。力を込めても、やはり変化はない。
((…………もしかして……!?))
その結果、
《せーのっ!!》
一刀の体に瑠華・鈴々・昴が、愛紗には翠・タンポポ・胡花がひっつき、それぞれ左右に引っ張っていく。力いっぱい引っ張るものの、二人の手は握られたままであった。
「いっ、いででででで!!」
「ぐっ、くっ……!!」
やがて、二人の表情が苦痛に歪み始める。これ以上は無駄だと判断し、引っ張るのを停止した。
「ふむ、これは厄介ですね……」
顎に手を乗せて、深刻そうに唸る縁。
一刀と愛紗の手にかかってしまった透明色の液体。それは、縁特製の強力接着剤。
原料としてはボンド草、ポリエ草等、粘着性の高い材料を使用して作り出した。屋根修理の際に使おうとしたのだが、まさかこんな事態になるとは、誰も想定していなかっただろう。
先程、力の強い武将達が引っ張りあっても、びくともしなかったのだ。その粘着力はかなりのものだと窺える。
「駄目ですね……。完全にくっついている」
「マジでか……!?」
「縁よ。何か方法はないのか?」
「今の所は、何とも。粘着力がなくなるのをただ待つしか―――」
「っていうことは、それまで一刀さんと愛紗ちゃんは、手を繋いだままか~」
不意に、桃香が発した言葉。同時に、一刀と愛紗は視線を合わせた。その瞬間、二人共一気に顔を紅潮させた。桃香の方も故意ではないため、尚タチが悪い。
「え、え~っと~……とりあえず、お昼にしましょうか。ね?」
「そ、そうですね!」
紫苑がそう言うと、朱里も同意し、他の全員も素直に従う。一刀と愛紗も手を繋いだまま、隣同士で席についた。
机の上に並べられた料理を頬張っていく一同。手を繋いでいる二人も食事する為、箸を使っているのだが、
「うっ……く……難しいな……」
右手が塞がっている為、やむ無く左手で箸を使う一刀。利き手じゃない方の手を使っている為、当然ながらプルプルと震えており、挟んだ料理を取りこぼしてしまう。その悪戦苦闘している様子を横目で見ている愛紗。
「…………」
自分が食べさせてあげれば……
そう思い立つと、愛紗は一刀に声をかける。
「か、かず―――」
「一刀さん。食べにくいなら、私が食べさせてあげます」
一刀の左隣にいた桃香が、箸で料理の一欠片を摘まみ、一刀の口に運んでいく。
「と、桃香……」
「はい、あ~ん♪」
「…………」
周りの目を気にせず、桃香は続ける。少し羞恥しながらも、一刀はそれを受け入れて、料理を口にする。
「えへへ♪」
「…………」
桃香ははにかみながら、一刀に笑顔を見せる。
二人の様子を横から見ていた愛紗。すっかり出遅れてしまい、ガックシと肩を下ろす。ため息を少し吐きながら、自分も昼食を口にするのであった。
昼食を終え、各々が自由な時間を過ごしている。それは一刀と愛紗にも言える事なのだが、二人は状況が状況な為、どこへ行くにも一緒だ。
屋敷の中庭にある長椅子に腰かけている二人だが、未だに慣れずにお互い顔を赤くしている。
「あ~えっと……ごめんな、愛紗。こんな事になっちゃって」
「い、いや、一刀が謝る事はない。足を滑らせた私が悪いんだ」
「そんな事ないよ。俺が無理矢理呼び止めたから」
「だから、一刀は悪くないと―――」
言い合っていると、不意に互いの顔が近づいている事に気がつく。更に顔を紅潮させ、飛び退く様に二人は顔を背ける。
(ちょっ、あれは近すぎだろ!?)
(い、いかんいかん!これでは更に意識してしまう……!)
顔を背けても、繋がれている手から伝わってくる体温。それがどんどん上昇していくのがよく分かる。
心中戸惑いながらいると、二人の元に紫苑がやって来た。
「あら、一刀さんに愛紗ちゃん」
「紫苑、どうかしたのか?」
「ええ。誰かに隣町までお使いに行ってもらおうと思ってたんだけど、今誰も手が離せないらしくて……」
「そうなんだ。もしよかったら、俺が行くけど?」
「それなら助かるのですが、愛紗ちゃんは?」
「私も構わない。丁度暇をもて余していた所だしな」
愛紗も承諾し、一刀と二人で紫苑のお使いに行く事となった。
「助かるわ、二人共♪それじゃあ“仲良く”行ってきて頂戴ね」
「は、はぁ……?」
「……紫苑、本当に他の者は出払って―――」
「さあ、やらなくちゃいけない事がいっぱいあるから急がないと♪」
綺麗に微笑みながら、紫苑は軽い足取りで去っていった。その場に取り残された一刀と愛紗。仕組まれた様な頼み事を引き受け、二人はただただ苦笑するしかなかった。
そんなこんなで、紫苑からお使いを頼まれた二人。道中も勿論、手を繋ぎながら歩き、隣町まで辿り着いた。町は昼頃でも人通りはあり、店も変わらず開いている。
「えっと筆二本に、墨。塩や調味料もですね」
「まあ、とりあえず、一通り買っちゃおうぜ」
「そうだな」
そうして、二人は店に入っていく。中には品物が揃っており、頼まれた物もそこにあった。一刀はそれを手に取り、会計へと持っていく。そして、金額を払う時、
「愛紗、ちょっと持ってて」
「あ、ああ」
品物が入った袋を肘に引っ掛け、愛紗は右手で財布を出す。対して一刀は紐を解き、中から金銭を取り出す。小銭が疎らにあるので、取り出すのに苦労する一刀。一人ならできる様な事を、二人はわざわざ手を繋ぎながら行っている。
何の事情も知らない店員は、目を丸くしながら二人の共同作業を見ていた。
「お買い上げありがとうございました」
漸く会計を済まして、二人は店から出てくる。
「これで全部だな」
「うん。そうだ、せっかくだし少し見て回らないか?」
「えっ?しかし……」
「ほら、行こうぜ」
「ちょっ、一刀!?」
一刀は微笑みながら、愛紗の手を引いて町を見て回る。手を引かれながら、愛紗は微笑をこぼす。
手を繋ぎながら町を見て回る一刀と愛紗。正に逢引をしている恋人の様で、周りにいる町の人々も微笑んでいた。
(…………)
夢の様な一時で、愛紗は幸せでいっぱいだった。だが、それにも関わらず彼女の表情は曇ったままだった。彼と共に今という時間を過ごしていても、“あの光景”が甦る。
黄巾の乱を鎮め、桃花村に帰還した。桃香の故郷である村で開かれた宴会。
その途中、一刀と桃香がいない事に気づいた愛紗。
探しに行った矢先、見てしまった。
状況からして、恐らく事故だったのかもしれない。だが、愛紗にとっては脳裏に深く残った光景であった。見た途端、胸の奥がズキッ……と痛む。それから、一刀と会う度にあの光景を思い出してしまう。そのせいで、彼とも目を合わせられず、最近はギクシャクした雰囲気になっている。
それは、今の状況でも同じであった。
「…………」
「愛紗?」
「ひゃあっ!?」
顔を覗きこまれ、愛紗は驚いて声が裏返る。対して一刀はキョトンとした顔をしていた。
「…あ、その……」
「―――愛紗」
俯かせていた顔を上げると、一刀は真剣な面持ちをしていた。同時にその縋る様な眼差しに少し動揺してしまう。
「いい加減、教えてくれないか?何で、俺を避けているのかを……」
「いや、その……」
「何か気に入らない事をしたのなら、謝るよ。それでも嫌なら、もう近づかない―――」
「それは駄目だ!!」
急に声を張り上げる愛紗。一刀は言葉を飲む。ハッと我に帰り、愛紗は冷静さを取り戻す。
「か、一刀は悪くない。むしろ、私の方から身を引くべきなんだ」
「えっ?」
「私から見ても、一刀と姉上はお似合いだ。きっと、互いに幸せになれるだろう」
「あ、愛紗?」
「だ、だから、一刀から離れなければならないのは私の方なんだ……私、が……」
それ以上、言葉を発するのは無理だった。視界は潤んでおり、涙が頬を伝う。この二人なら何も文句はない。ならば、自分が身を引こう。その方が、二人の為だ。
しかし、心のどこかで、それを出来ずにいる自分がいる。
この乱世の中、自分は戦いのみに生きるものだと思っていた。しかし、彼と出会う事によって、全てが変わった。
彼に“恋”をするという、女としての幸せを感じる様になったのだ。彼がいたから、今がある。
だからこそ、諦めるなんて事は出来なかった。手放したくなかった。
「私……私は―――」
彼女の体を、温かいものが包み込んだ。一刀は愛紗を優しく抱き締めると、耳元で呟いた。
「―――愛紗……君が好きだ」
その言葉に琥珀色の瞳を大きく開く。一瞬、思考が停止してしまう程の衝撃だった。愛紗は彼の胸に顔を当てながら、身を委ねていた。
「初めて会ったあの時からずっと……ずっと、君の事が好きだった」
「かず、と……」
「お願いだ……俺から離れないでくれ」
彼の口から零れ落ちてくる言葉の一つ一つが、愛紗の耳にはっきりと伝わった。最愛の人からの告白に、彼女は歓喜のあまり、嗚咽を噛み締める。彼女も抱き返し、喜びの涙を流し続けた。
二人の手は握りあい、二人の心情を表している様であった。
二人は場所を移し、人気の少ない路地に腰かけていた。
「……落ち着いた?」
「はい……」
目を少し赤くしている愛紗。涙の跡が残っており、嗚咽も大分引いてきた。当然、隣には一刀が座っている。
「いきなり、ごめんな。あんな事言って……」
「そ、そんな事は……その、嬉しかったです……」
「そ、そっか……」
互いに顔を赤らめながら、視線を背ける。しばらく顔を見れずにいると、一刀は再度口を開く。
「……愛紗、見てたんだね」
「ええ、はっきりと……」
内容は間違いなく、一刀と桃香の二人に起こった事故の事である。先程のほんわかな雰囲気から一変。気まずい空気が流れる。
「一刀は、姉上の事が好きなのだな?」
「えっ!?あ、その……」
「好きなのだな?」
「…………」
「やはり、な」
「えっ俺、まだ言ってないけど……」
「顔に書いてある」
図星を突かれた様で、表情が固まる。
そう、一刀は桃香の事も気になっていたのだ。
常に他人の事を気にかけ、嘘偽りない笑顔で受け入れてくれる仁徳。自らを犠牲にしてまで、村を守ろうとした勇気。
いつの間にか、彼女の事も想う様になっていた。
普通ならあり得ない事だ。最低な男と言われてもおかしくない。
だが、この想いは決して嘘ではない。桃香や愛紗だけではなく、大切な仲間達も例外ではないのだ。
かけがえのない、大切な家族なんだ。
「確かに俺は、桃香の事も……好き、なのかもしれない……。でも!愛紗が好きだという事は嘘じゃない!俺の本心なんだ!」
「知ってます」
「だから決して、本気じゃないなんて事は………………えっ?」
言い訳は見苦しいかもしれないが、今の自分にはどうしても分かってもらいたかった。しかし、彼女の表情は変わらず、微笑んでいた。
「誰でも分け隔てなく受け入れてくれるその優しさ……。そんなあなただからこそ、私は今まで想い続けてきたんですから」
「愛紗……」
その言葉に救われ、心の底から嬉しくなる一刀。この時気がついたのか、二人は互いに見つめあっている事に気づいた。
「…………」
「…………」
繋がっている手に、少しだけ力が入る。二人の顔は近づき、互いの吐息がかかる程に近づいていた。瞳を静かに閉じ、唇と唇がもう少しで触れる―――
〈きゃああああああ!!〉
―――という所で、どこからともなく悲鳴が鳴り響く。一瞬にして心を切り替える二人。
「愛紗!」
「ああ!」
二人は頷き合うと、その場に急行していった。
駆けつけると、一軒の店の前で人だかりが出来ていた。人との間を掻い潜りながら進むと、店の前には小刀を持った男と、小さな女の子を人質にとっている男がいた。
「金を出せ!じゃねぇと、このガキを殺すぞ!」
「ひっ……うっ……!」
どうやら強盗らしい。二人組はひどく取り乱しており、何をしでかすか分かったものじゃない。捕まっている女の子もひどく怯えており、目尻には涙が溜まっている。
「おい!馬鹿な真似はやめろ!」
「その子を離すんだ!」
「うるせぇ!本気で殺すぞ!」
説得を試みる一刀と愛紗だが、男は聞く耳を持たず、人質の頬に刃を突きつける。これ以上刺激しては女の子の身も危うい。それに今は得物もなければ、あっても互いにうまく動けない状態だ。
だからといって、このままにしておけば事態は悪化する一方だ。何も出来ずに歯を噛み締める。
そんな時だった。
〈あいや待たれいっ!!〉
どこかで聞いた事のある声がした。一刀と愛紗は一瞬にして目を丸くすると、ゆっくりとその音源である、店の屋根に視線を向けた。二人だけでなく、その場にいた全員が見上げた。
「だ、誰だてめぇは!?」
男の怒声に臆する事もなく、その声の主は答えた。
「乱世に舞い降りた一匹の蝶。美と正義の使者!華蝶仮面、ここに見参!!」
ドカーン!と爆発の演出が起きる位の名乗りを上げる華蝶仮面。
本人は決まった!と思っているだろうが、驚いている住民達の中で、一刀と愛紗だけは呆れた様な表情を浮かべていた。
(星の奴、相変わらずだな……むしろ安心したよ)
(大体、想像はついていたが……やはり慣れんな)
「とうっ!」
そんな二人の心情を知らずか、彼女は屋根から飛び降りると、華麗に着地し、ビシッ!と男達を指差す。
「か弱き少女を悲しませる非道な輩よ!この華蝶仮面が天に変わって成敗してくれる!!」
「なめんじゃねぇ!」
男は小刀を突き立て、華蝶仮面に目掛けて刺す。だが、彼女はひらりとかわした。それから男は何度も突き刺そうとするが、華麗に舞う蝶の如く回避する彼女には通用しなかった。
「く、くそっ!」
「はあっ!!」
「ぐあっ!?」
一瞬の隙を見逃さず、華蝶仮面はすかさず懐に入り、男の腹に一撃。更に掌で顎を打つと、小刀を持った腕を掴み、背負い投げをお見舞いした。
男は背中から叩きつけられ、気を失ってしまう。
「お、おいっ!」
「ふっ!」
動揺している男の隙を突き、得物である直槍で小刀を弾いた。続けて素早く女の子を救助した華蝶仮面。
「形勢逆転、だな」
「く、くそっ!!」
不利になるや否や、背を向けて逃走を行う。しかし、男が向かった先には、手を繋いでいる青年と少女がいた。
「一刀!愛紗!頼んだぞ!」
「ああ!」
「任せとけっ!」
二人は、繋がれている手を大きく引き、こちらに向かってくる男の顔面目掛けて振り抜いた。男は若干、宙に浮きながら、地面に倒れた。
それから事態は済み、女の子は無事に救助され、華蝶仮面と一刀と愛紗に礼を言った。その後、親の元へと戻っていった。
華蝶仮面はというと、
「むっ!?どこかで私を呼ぶ声が!?」
……と言いながら、またどこかへと去っていった。そんな事にもすっかり慣れてしまい、一刀と愛紗は二人で桃花村へと戻っていった。
帰路を歩く一刀と愛紗。辺りはすっかり暗くなり、星も少なからず見える。
「いやぁ、大分遅くなっちゃったな」
「そうですね」
ちょっとした出来事もあったが、今となっては、全く気にもならなかった。それどころか、二人の表情には笑顔が絶えなかった。
「ん?」
「あっ、流れ星」
ふと夜空を見上げると、一筋の光が見えた。ほんの一瞬の出来事であった。
「そうだ。なんか願い事した?」
「願い事、ですか……。一刀は?」
「俺は勿論、これからもずっと、皆と一緒にいられます様にってさ」
「ふふっ、一刀らしいですね」
「そう?」
大体予想はしていたらしく、クスクスと笑みをこぼす。愛紗の笑みを可愛いと思いながら、頬をかく一刀。
「そうだ。愛紗は?」
「教えてほしいですか?」
「う、うん。そりゃあ、俺だけってのもさ」
「…………それじゃあ、目を閉じて下さい」
彼女のからの要求に首を傾げながらも、素直に従う一刀
「こ、こう……?」
「はい……」
一体何だろう?と頭の中が疑問でいっぱいになる。そう思いながら立って待つ一刀。
すると、唇に温かい感触が伝わる。
驚いて目を開けると、顔を赤くしながら、目を閉じて自分の唇を当てている愛紗の姿があった。いつもの凛々しい印象はなく、少しの恥ずかしさを備えた乙女の姿だった。
ほんの数秒でも長く感じた接吻を終えると、愛紗は背伸びしていた体を元に戻す。
「……こういう、事です」
「えっ……?」
「私の願いは……これからもずっと、あなたと共に歩み続ける事です」
「愛紗……」
頬を朱に染めながら、可憐な笑顔を見せる愛紗。しばらく見惚れていると、一刀がある事に気づく。
「ん?あっ、手が!」
「えっ?……離れている」
粘着力が落ちたのか、二人の手は解放された。二人は一度自分の手を見ると、互いに目を合わせる。
笑みをこぼすと、二人はまた手を“繋いだ”。今度は事故などではなく、自らの意思でだ。
「さっ、帰ろうか」
「そうですね」
そしてそのまま、二人仲良く村へと帰っていった。
「そうそう、星もいい加減帰ってこいよ?」
「………………えっ?」
一刀の言葉に一瞬、固まってしまう愛紗。すると、草むらの方から、一人の少女が出てきた。
「おやおや、いつから気づいておられたのかな?」
「いつからって、まあついさっきだけどね……」
星は二人の前まで来ると、袖で口元を隠しながら微笑む。すると、呆然としていた愛紗が、ようやく動き出す。
「ちょっ、ちょっと待て!せ、星よ……お主はその……“どこから”見ていた?」
「“いやぁ、大分遅くなっちゃったな”“そうですね”という所からだが?」
「最初からではないか!?」
声真似をしながら説明する星。その答えの意味を察し、愛紗の顔はみるみる赤くなっていく。
「か、一刀!何故教えてくれなかったのだ!?」
「ご、ごめんごめん。てっきり、愛紗も気づいてるものかと……それに」
「それに?」
「まさか、その……“あんな事”が起きた後、だし……」
「~~~~~~っ!!!」
声にならない悲鳴を上げ、真っ赤になった顔を覆い隠す愛紗。一刀も気恥ずかしくなって頭をかく。
「はっはっは。これは皆にいい土産話が出来たな~。うんうん、酒の肴にでもしようかな♪」
「せ、星!何を、って待てえええええい!!!」
「ははは、星の奴やっぱ変わってないな」
「一刀!そんな事を言っている場合かっ!?」
慌てて星を追いかけ始める愛紗。そんな二人の鬼ごっこを優しく見守りながら、一刀も後を追う。
それから村に帰った後、星からの話を聞いた仲間達がニヤニヤ、ニコニコとしていた事と、一刀が苦笑して、愛紗が顔を真っ赤にして俯いていた事は、また別の話である。
長い年月をかけ、漸く始まりを迎えた。
これからどの様な物語になっていくのだろうか……。
いやぁ、恥ずかしいの一言です……。
やっぱ書いてると気恥ずかしいというか、なんというか……ねぇ?
とまあ、頭の中で描いていた事とか、変更とかを繰り返して、何とか書き上げる事ができました。
相も変わらずスローな感じになってしまいますが、これからもよろしくお願いいたします♪
それでは!




