図書室の君
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…ゴォォン…ゴォォン…
遠くで、鐘の音が鳴っているのが聞こえる。
これは5時の合図。夏休みの下校時刻は5時半だから、そろそろ帰らなきゃいけない。
凝った腕を回しながらふと視線をずらすと、瑞希さんがいたはずの受付に人がいないことに気づく。
「帰っちゃったかな…」
ドアの音にも気がつかないなんて、どんだけ集中してるんだ僕。
せめて、「さよなら」くらいは言いたかったんだけど。
仕方がないから、原稿用紙をファイルに仕舞い込んで鞄に入れ、
半開きになっているドアを開ける。
「……?」
今、何か小さいものが見えた、ような。
気になって違和感の正体を探すと、
受付の椅子の部分、立ってないと見えないような場所に、メモ用紙が置いてあるのを見つけた。
〈用事があるので先に帰ります。
小説、出来上がったら見せてね みずき〉
瑞希さんの文字って結構右上がりで癖ついてるんだなぁ。髪の毛と同じだ。
小説、見せられる出来になるかな。でも瑞希さんには見せないと。図書室仲間だし。…なんて。
たった2行のメモから色んな考えが溢れる。それに比例して口角が上がっているのも、わかる。
「…気持ち悪いかな…」
そりゃあ、下校時刻ギリギリの図書室に1人でニヤけてる奴がいたら気持ち悪いか。というか怖いな。
メモ用紙を大切にポケットの中に仕舞った僕は、
今度こそ図書室を出た。