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異世界


「お、起きた起きた。だいじょーぶー?」


目の前には白い景色が広がっていた。

そして、その中心に居たのは、まるで染めたかのように綺麗で、だがそれにしては深い色合いを持った赤い髪を高めのところでツインテールにしている女子であった。


「おーい。おーい?」


その女は、無駄に活発そうな顔をしていた。そして、彼女は、ブラウスに臙脂色の紐みたいなリボン、そして赤っぽいひだひだなスカート(プリーツスカート、だっけ?)という、まるでどこかの学校の制服のような格好だった。


「おーい! 返事しろーっ!」


「うぉう!?」


腹に衝撃がと思ったら、少女に腹を殴られていた。

女はぷんすかと怒りながらツインテールを風にたなびかせた。

……風?

というか。


「ここは、何処、だ?」


「ふ、起きたね」


女は一瞬で笑顔に変わる。


「ここは保健室だよ。君、廊下に倒れてたからそれをたまたま見かけたこの私、冬菜さんがわざわざ階段をえっちらおっちら降りてここまで運んでやったんだよ。えへん」


この子はどうやら冬菜という名前らしい。


「そうか、ありがとう。で、ここは何処だ?」


「へ、保健室だよ?」


冬菜はキョトンとした顔で言う。


「それは分かっている。そうじゃ無くて、ここは“何処の”保健室だ?」


俺の通っている学校の保健室は白ではなく、全体的に水色っぽい天井だった筈だ。

いや、それ以前にーー。

『あんなこと』があった後にここがあの学校であることは無いだろう。


「うん? 国立東京高等学校第一だよ?」


こくりつ……東京高等学校第一?


「何だ? それ」


「んー? 君知っててここ来たんじゃないの?」


「いや」


国立東京高等学校第一とやらはともかく俺にはここが日本なのかすら分からない。

いや日本だろう。こいつ日本語喋ってるし。

そもそもここ地球か?

まあ地球だろう。重力的な問題で酷いことになってるわけじゃないし。


「うーん、ここは関係者以外立ち入り禁止なのになあ。それなのにあんなところに倒れてたとなると……。」


冬菜は少し考える仕草をすると、ぱあっと顔を輝かせて俺の方に詰め寄ってきた。


「もしや訳あり!? なになにどんな事情!? 教えてーっ!」


勝手に決めつけるなよ。まあ訳ありだけどさ。


「うーんと、異世界から来た」


俺がそう言った瞬間、保健室の空気が死んだ。

何故かひたすら無言の時間が続く中、一分後、冬菜は戦慄したように言った。


「まさか……私の問いに素直に答えてくれるなんて……っ!」


そこかよ!?


「にしても異世界から来たの? 中々珍しいね! 君名前は?」


「白木伊津だ」


「おおっなんだか珍しそうな名前! その名前の由来はっ!?」


「確か……母親が香川県にある伊吹島、父親が石川県にある津幡町ってところの出身だったから……だっけ?」


「おおう!! 私は寒崎冬菜、夏生まれの冬菜ちゃん! よろしく!」


「よ、よろしく?」


……随分とテンションの高いご様子だ。

厄介ごとに遭遇したら取り敢えずテンション上げてけって親に教わりでもしたのだろうか。


冬菜は少し間を開けて、再び喋り出す。


「さて、異世界から来た白木伊津さん」


「何でしょうか夏生まれの冬菜さん」


「どうしてこっちに来たの?」


……あれの事か。


「トラブルがあって……」


「具体的には?」


畜生掘り下げてきやがった。


「えっと……肝試し中に変な渦が出てきて、その渦に入ったらこうなってたっていうか……?」


「……うーん? 要領を得ないなあ。そもそもその渦ってSFのやつだろうけど、それでどうしてここまで来たんだろ……。そもそもどうして渦は伊津くんの所に?」


彼女の独り言が分からない。

にしても、どうして、か。


「ジャンルが変えられるんだ」


「うん」


「肝試しでうっかりジャンルをホラーにしちまったんだ」


「ほうほう」


「で、無理矢理SFにしたら、渦が出てきたんだ」


「へー、成る程」


「分かったか?」


「全くわかりません!」


「だろうね!」


分かる筈が無かった。

寒崎冬菜は首を傾げて、更に言う。


「そもそもその、ジャンルって、何? 英語?」


「え、そこから?」


正直、かなり意外だった。

まさか、ジャンルという言葉すら無い世界なのか、ここは。


「ジャンルってのはな、物語などで、その作品の大まかな区分けをしたものの事なんだ」


「……?」


「例えば、ミステリー、ファンタジーとかSFとかか?」


「ミステリー、ファンタジーとかSF……?」


寒崎冬菜は訳が分からないと言った様子で首を傾げる。

しかし一瞬で、それは驚きの表情に変わった。

な、なんだどうした。


「それって、『傾きの理』の事!?」


傾きの……理?


「何だ、それ? ジャンルの事か?」


「ジャンル……、そうもいうんだ。っていうか、変える? 傾きの理を……?」


何を言っているんだ、こいつ。

冬菜は急に目を輝かせて俺に詰め寄る。


「凄い! 凄いよ伊津くん!! まさか傾きの理を変えることが出来るなんて!! そんなの、できる人居ないよ!! 異世界って凄いんだぁ!」


「はい?」


何を言っているんだ。

意味がさっぱり分からない。

だが、馬鹿の一つ覚えのように心の中でそんなことを呟き続けていても意味は無い。

意味を考えてみよう。

傾きの理=ジャンルならば、彼女は純粋にそのことに驚いているだけなのだろうが……。

とにかく。

ここがどういう世界なのか。

それを知る必要があるだろう。

さっき冬菜は『俺が異世界から来た』という事より『俺が冬菜の問いに素直に答えた事』の方に驚愕していた。

という事は、もしかしたら。

異世界人って、別に珍しくないんじゃないか?

という事は……?


「この世界って、どんな世界なんだ?」


「ふえ? ああ、伊津くん、異世界から来たんだっけ? うーんと、この世界の事? えとえとー」


おお、普通に通じた。


「そうそう、大昔この世界にやってきた異世界人と思われる偉人はこう言った。 『ここは混沌だ』と……」


「こ、混沌?」


「それにより我々は異世界の存在を知り、しかし5000年余り前にやって来た彼以降、異世界人がこちらにやって来る事は無かった……ので、その存在は今でも謎なままだ……って話があるけど」


「普通じゃ無かった!」


5000年に1人レベルの話だった。


「あ、でも私達が異世界に行って来るケースはもうちょっとあるんだよ! 18年には妖精と科学者との駆け落ち事件とかあったらしいし。それに、長生きな種族とかならまたこっちに戻ってくるなんてケースもあるし」


「妖精? 種族?」


また異世界っぽい単語が出てきたものだ。

妖精とか、他の種族が他にあるということだろうか。


「ほえ? 伊津くんのいた世界には、居なかったの?」


「ああ、多分。……犬とか猫とか、熊なら居るけど」


種族というより、動物だ。


「へー、じゃあ妖精とか妖怪とか、小人とか宇宙人とかモンスターとか居ないの?」


「……居ねえな。この世界には居るのか?」


「うん。妖精と小人は中部地方、妖怪は中国地方、モンスターは主に人の住んでいない所にいるね。宇宙人は地球に来るなら四国地方に」


「分布が分かれてる!?」


「うん。中部地方はファンタジーの、中国地方はホラーで四国地方はSFの領域だからね。大体は」


「領域?」


何じゃそりゃ。

話を聞けば聞くほど疑問が出て来る。

冬菜は困ったように頭を掻く。

どうやら上手く説明が出来ないらしい。


「んー。んー? ……まずさっき私が言った『傾きの理』は分かる、かな?」


「えっと、ジャンルの事か……? ならまあ、分かってると思うけど」


「私にはそのジャンルってのが分かんないけど、じゃあ、この世界は傾きの理、伊津くんの言葉で言うとジャンルに支配された世界なんだよ」


……。


「ジャンルに、支配?」


「うん。大体地域ごとにジャンルは違うんだけど、まあファンタジー、ホラー、SF、ミステリー、リアル、スポーツとかかな、大まかには」


「うーむ」


「あ、東京都だけは別でね、色々なジャンルの人々が集まってる中央都市……って感じなんだ」


……分からなくなってきた。


「で、えっと、ジャンルごとになれる職業とかが大体決まってるんだよ。ファンタジーなら魔法使い、ミステリーなら探偵……ってね。かくいう私も、魔法使い」


「へー。……ん? 魔法使い?」

なんか新たな単語が出て来た。

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