大烏の神殿 3
12月は仕事が忙しすぎて更新が遅れに遅れております。
探索開始から4日目
俺達は宝物庫と思われる高さ5メートル、扉の片方だけでも横幅2メートルはある巨大な扉の前へ来ていた。
フェルムが言うには、この先には守護者が待ち構えているらしい。
守護者の正体はフェルムにも解らないとの事だったため、俺が調べることになった。
「扉の奥を調べてるのは良いが、イザと言うときの警護に一人つけてくれ。残りは周囲の警戒を頼む」
「では、私が付きましょう。ラディの事は何があっても守りますので」
「いや、私が付くぞ。フェルムは正面戦力なんだから後方通路の警戒がベストだろ」
何故この状況でそんなに睨み合っているんだ・・・。
双方引く気が無いのかドンドン顔が近づいていく。
周囲を見渡すと、ルーフス、ウィリディス、アスールは肩を竦めるだけで止める気は無いようだ。
俺はため息をつきながら、その額と額がぶつかる寸前に手を差し込む。
差し込んだ手がフェルムとイリスの額でサンドイッチにされる。
「フェルムに頼む事にする。イリスはパーティーメンバーをまとめて警戒してくれ」
イリスの恨みがましい視線を無視しながら扉に近づくと、目線の合図でフェルムを呼ぶ。
罠の類は、事前にエルフのウィリディスが解除済みだ。
扉の前に立ち擬装用の単眼鏡を右目へかけると、左掌を扉へ触れさせる。
そのまま情報集約結晶を露出させ、扉の奥をスキャンする。
勿論周りのメンバーには情報集約結晶の事は教えてはいない。
あくまで透視の眼鏡を使っていると説明しただけだ。
まぁ、そのおかげでこの単眼鏡はイリスに取り上げられ、今やっと手元に戻ってきた所だった。
ちなみに、このまま振り返った場合は女性陣より総攻撃が始まるために気をつけなければならない。
このような面倒な事をしてでも、『情報屋』としての情報収集手段を知られるのは今後に差し障るからだ。
スキャンの結果、50メートル四方の部屋の中心に巨大な物体がある事がわかる。
情報集約結晶での探査ではその程度が限界だ。
フェルムが見ているが住人である彼女には、俺が何をしているかなど解らないだろうと結論付けると、左手小指の先端を扉の境目へ当てる。
その先端より太さ0.03mm程の極細スコープを伸ばすと、映像が情報集約結晶を通して脳内へ送られてくる。
そこに居たのは、
「最悪だ」
「何が居るのか解ったのですか?」
スコープを引き戻し、情報集約結晶を収納するとフェルムに向かって振り返る。
勿論だが単眼鏡は外している。
フェルムに向かって頷くと、そのまま扉を離れ全員を呼び集めた。
「人型のアイアンゴーレムだ。体長5メートルはあるな。」
「それは・・・ワタシの弓は効かナいダろうナ」
「アスールの魔術も効かないかもなの」
「アタクシの片手剣では切れないそうにないですわね」
自己評価をしていくイリスパーティーだが、俺の意見も同じようなものだ。
ルーフスのファルシオンは業物ではあるが、鉄の塊を切り裂けるほどの強度は期待できない。
ウィリディスの弓は刺さりはするだろうが、ゴーレムに効果があるかどうかと言われれば・・・。
アスールの属性球を利用した無詠唱魔術は、臨機応変な属性変更と発動の早さに優れるが威力が足りない。
大型のアイアンゴーレムの相手が出来そうなのは、レベルアップにより筋力を強化し、スクロール魔術による大威力の魔術を発動可能なイリス。
ミスリル製の鎧による圧倒的な防御力と、ガントレットの効果による高い攻撃力を誇るフェルムくらいか。
俺も今回は持ちうる限り良い装備で来ている為、アイアンゴーレムの撃破なら単独でも可能だ。
但し消費するマジックアイテムの金額は、俺の全財産の7割にも及ぶと予想されるため出来ればこの手段は避けたい。
まぁ、手段を問わないのであればどうとでもなるのだが。
それと、もう一つ重要な情報も話しておかないといけない。
「悪いニュースがもう一件ある」
全員の目がこちらに向いたのを確認すると話始める。
「プレイヤーキラーが俺達の後をつけて来ているようだ」
「ナに!ワタシの罠は反応していナいぞ!」
「まだ入り口に入ったばかりだからな。俺達が罠もモンスターも全て突破しているから、ここまで来るのに恐らく10時間と言った所だろう」
「1・2層の迷宮があっただろ?そんなに早く来れるモンなのか?」
「てゆーか、何で入り口付近の情報なんてわかるの?なの」
アスールの口出しに大事な部分を省いて説明していた事を思い出した。
「入り口には監視用のマジックアイテムを置いていた。1・2層は俺達が迷わないように印を付けていただろ?向こうにもレンジャーなりスカウトなりが居るだろうから、殆ど迷わずに進むだろうしな。」
「つまり、私達がその相手をここまで案内したも同然という訳ですね?」
「ちょっと待ちなさい、そもそもどうして後から来る者達がプレイヤーキラーと断定できますの?探索目的という可能性もありましてよ?」
確かにその可能性はあるが、相手が相手だ。
探索等という理由で動く奴じゃない。
「プレイヤーキラー専門の悲鳴のヴォロイがパーティーリーダーでもか?」
その名前を出した途端、フェルム以外の顔が大きく歪む。
反応を見るに、恐らくイリス達にはヴォロイに狙われている自覚があったのだろう。
まぁ、新発見されたこの場所で襲われるとは思ってもいなかった様だが。
状況を掴めていないフェルムには、後で誰なのかを説明すると話しておく。
今大事なのは、アイアンゴーレムとヴォロイをどうするかだ。
「ヴォロイは強い。単純な戦闘力ならアイアンゴーレム以上だろうし、奴の仲間はヴォロイのサポートに特化してるって話だ。正面から殴り合ったら碌に連携も取れていないこっちが不利だな」
「じゃあ、正面からじゃなく罠とかを使って待ち伏せすれば良いだけなの」
「良い意味でも悪い意味でもこの神殿は年月を重ねすぎている。罠を張っても違和感は消せないだろう。そんな罠に引っかかるとは思えないな。そうだろ?ウィリディス」
「気安くワタシのナを呼ぶナ阿呆。ダが、阿呆の言う通りダナ。こんな偽装の出来ない場所では、知性の低いモンスターでもナければトラップにかからナい」
悩むイリス一行を前に、俺の考えを述べることにする。
「さて、状況を考えて俺に考えが3つある。前提として、ヴォロイとの狭い通路での戦闘は避ける方向で行くぞ。あんな重戦車みたいな奴と打ち合いは無理だ」
全員の目が俺に集中するのを待って話し始める。
「1つ目はヴォロイが来る前にアイアンゴーレムを倒して、財宝を確認する。その中にヴォロイと戦う際に有利になるマジックアイテムがある事を祈る。」
「それは幾らなんでも運次第すぎるな」
フェルムに前もって聞いてあるが、どんな財宝があるのかは解らないそうだ。
「2つ目、アイアンゴーレムを倒して広場を確保。万全の体勢で迎え撃つ」
「アイアンゴーレムを、こっちの被害無しで倒すのはちょっと厳しいかもなの」
確かにアイアンゴーレムと一口に言っても、様々な種類がいる。
純粋な肉弾戦しか出来ないスタンダードなタイプから、体内に毒ガスが詰まっているタイプ、可燃ガスと発火装置を搭載し火炎放射を行うタイプ等挙げていけばキリが無い。
相手の手の内を知らない状態で完封出来る、と言い切るほど俺達は自信家ではない。
「3つ目、今すぐ上の階へ引き返して2層の迷宮で奴らをやり過ごすか、奇襲をかける」
「そんな消極的かつ卑怯な手は嫌ですわ」
「それにやり過ごした場合、財宝が手に入らないだろ。ラディ、何か他に手は無いのか?」
「・・・他に案が欲しいなら、自分達でも提案したらどうだ?狙われてるのは十中八九イリス達なんだぞ?」
とは言いつつ、ここまでは俺の予想通りの反応だ。
あんなサイコ野郎相手に、フェルムやイリスパーティーを会わせるつもりなど最初から無い。
だからワザと勝率の低い作戦を挙げているのだ、この後の提案を通し易くするために。
「では、最後の提案だ。これなら確実に危機を回避できる」
「おぉ、そうだよ。そういう案を待ってたんだぜ!で?それはどういう作戦なんだ?」
「それはだな」
次回、遂にラディさんの戦闘回です。