瞬間移動
野次馬から離れて私は帰路に着く。後ろから聞き覚えのある女性の声が聞こえる。
「お疲れ。二宮さん。」
二宮というのは私の苗字だ。私は後ろを振り返る。
「黒崎。門限はいいのか。確か門限は午後七時だっただろう。」
私は腕時計を見て時間を確認する。今の時間は午後七時十分。門限を十分オーバーしている。彼女は私にドロップキックで攻撃する。
直撃を受けた私は地面に叩きつけられた。幸い擦り傷程度を負っただけで済んだ。手加減したのだろうと私は思う。
「なぜいきなりドロップキックした。門限を心配しただけだろう。」
彼女は鼻で笑う。
「マンションで火事があったでしょう。また無茶な人助けをしていると思って顔を見に来た。」
「それで自宅を抜け出して様子を見に来たということか。ドロップキックは本当に痛かった。アン・・」
彼女のことを考えると続きが言えなかった。
「アンって何。」
「アンティークな技が来るとは思わなかったよ。」
彼女の目は点になった。そして甘えるような口調で話す。
「それでテレポートして欲しいの。今は部屋にいないといけない時間だから。まだ出来るよね。」
彼女がまだ出来るよねと聞いたのには訳がある。私のテレポート能力には制限がある。一日四回までしかテレポートできないのだ。私はここまでの経緯を思い出す。朝遅刻しそうになって一回能力を使った。二十分ほど前に火災に巻き込まれた少年を助けるために二回能力を使用した。計算すると能力が使えるのは後一回。私はニコリと笑った。