救世主 前編
ある日の夜、私は校門の前で携帯の電源を入れる。校則で学校内では携帯の電源は切ることになっている。しかし周りの同級生たちは全員サイレントマナーモードにして、携帯の電源は切っていない。校則を守っているのは私だけではないのかと考えると落胆した気分になる。私はこの場所で携帯の電源を入れるたびにあることを呟く。
「ルールを守る正直者は私だけか。」
携帯の電源を入れると私は帰路に着く。今日は久しぶりの部活だった。この時間帯はいつも部屋で読書をしている。夜道を歩くことは久しぶりだ。私は天空を見上げる。今宵は曇り空だ。星は見えない。星が見えればよかったと思った時煙の匂いがした。よく見ると白煙が昇っているのが見える。野次馬のように白煙が昇る方に行くとマンションが燃えていた。
ニュースで放火事件が多発しているという報道があった。この火災も放火事件なのだろう。この推理は不謹慎だ。女性が叫ぶ声が聞こえる。その女性は今にも火の中に飛び込もうとしているようだった。
「放して。まだあの中に健太がいるの。」
警察官はマンションを見る。
「無理です。あそこまで燃えると息子さんの命の保証はありません。救出不可能です。息子さんの分まで生きませんか。」
私は可哀そうに思う。警察や消防に見捨てられる命があのマンションにはある。それでは死んでも死にきれない。この状況で助けることの出来るのは私しかいない。