第9話 三毛猫又の見学
「ミケ兄! ありがとう助かったよ」
ジプチがブルブルっと体を振るいながら言うと、三毛の猫又はさらに顔をしかめ、
「助かったよじゃない。私が助けなかったら、どうなっていたことか。それに家を出たときエルと改名したと何度も言ってるだろう」
と怒鳴った。
尻尾もぶんぶんいやそうに振っている。本数から見るに、彼もジプチと同じく魔術の才能のあるミツマタらしい。
怒りながら強めな風の魔法で私たちを乾かしてくれている。
「ごめんなさい。」
ジプチはシュンとしてしまった。
エルはジプチの兄である。生家のクロブチ家からキジミケ家に養子に入ったのは五年前。ジプチが十歳、エルが十五歳の時だそうだ。
キジミケ家は魔術の名門貴族であり、その名のとおり三毛の毛並みを持つ。
ニャングリラ世界でも三毛のオスは珍しいらしく、どうしてもと強く乞われたらしい。
「ところで、その人間が勇者様か。デリック氏よりもひ弱そうだが、実力の程はどうなのだ」
エルはそう言い放つと、私を上から下まで、じとっとした目で眺めている。
人間であることの他は変わったことも無いんだけどね。
私自身なぜ勇者なのか不思議で仕方ない。
「まだ、不明です」
ジプチが答える。
「困ったな。私は殿下から勇者と共に旅に出るよう言われているのだが」
「え?きいてな……」
「これから魔術の訓練を行うのでよかったら見ていかれますか?」
「そうしよう」
私が口を挟む隙も無くエルの見学が決まってしまった。
「では、全身の魔力を手のひらに集中させてください」
「だ~か~ら~その感覚がわからないんだって」
「こういう感じです」
ジプチの手のひらに威圧感が増すのはわかった。しかしどうやったら『そう』なるのかわからない。
見学していってね。なんて言ったのに、私とジプチはこんなやり取りをもう二十分も繰り返していた。
魔力はどんな人にも常に全身をめぐっており、その流れをコントロールして集め、魔術に使うというのが手順らしい。
だけど私は、初歩の初歩だという自身の魔力を感じる時点から失敗していた。
いいかげん見飽きたのだろう、エルはいきなり私の手をとった。
「ちょ、なんですか!」
「やかましい。ちょっと私の魔力を注いでやるから、直接感じろ」
「そんなことしたら、ミケ兄も和美さんも危険です!」
「少なくとも私は大丈夫だ。それに、このくらいでへばる勇者ならいらん。」
無理やり自分とは違う魔力を入れることによって魔力を自覚させるというのは危険なのだそうだ。
魔力の総量の少ない者がやってしまうと全身が不調になり、場合によっては再起不能となる。とジプチは説明した。
そして、魔力を注ぐほうも注ぐほうで消耗が激しいらしい。
「武術も優れておらず、頭も普通より少し良いくらいのレベル、魔術くらい扱ってもらわないと困るだろう? 悠長に二年も三年もかけるつもりなのか? お前は」
一般的には才能の少ない人だとそれくらいはかかるらしい。
「もう戦力はほとんど残っていないのだ。悠長に待っている暇などない。」
エルは私の同意を得る前にむりやり魔力を注ぎいれた。




