第8話 魔術を見せてもらおう
翌朝寝起きとしてはまあまあだった。
私は枕が替わると眠れないというほど神経質ではない。しかしさすがに、あれだけ様式が違うと違和感があるのかと思っていたため、案外寝心地が良く、とりあえず安心した。
昨日のままの服の上にデリックの上着を借りて着る。暖かい。
デリバリーのシマダさんの朝ごはんを頂き、私はジプチに連れられて町のはずれへと向かった。
途中、猫又族の方々にちらちら見られたが、まあ、デリック以外にこのへんには人間がいないらしいので、仕方ないかな。
町並みはどこかエスニックなような、しかし西洋の雰囲気も若干ある感じだった。オリエンタルというのだろうか? まあ、私はそういう方面の語彙が少ないのでなんとも表現しがたかった。国で言えばインドやタイが近い。勝手なイメージだけど。
「では、今日はここで魔術の訓練をしましょう」
丈夫そうな木箱を引きずりつつ、ジプチが言った。
町のはずれにあったのは空き地。ここには腰掛けられそうな木箱や一斗缶のようなもの、あとは穴の空いたバケツなどが転がっている。私はその中から適当に選んで一斗缶に腰掛けた。
ちなみになぜ空き地かというと、建物の中では大きな力の暴走を起こした場合、私を召喚した魔方陣が壊れると帰還不能になってしまう可能性があるので危険、とのことだ。
「目を閉じて体の中の魔力を感じるのです」
目は閉じた。そこまでは良いが魔力って、知らんがな。
感じたことがないからどんなものかわかるはずもない。
知らない力が湧きあがる感じ……
私は必死にイメージをしてみた。
「……ハイっ、わかりません」
ジプチはがっくりと肩をおとした。
「だいたい私は昨日いろいろ話しを聞いただけだから、召喚以外に魔術もみたことないんだし、仕方ないよ」
言っちゃ悪いけど若干、そんなファンタジーなことあるかよ、とも思っていた。猫又だらけだから、雰囲気にながされて、なんとなく彼らの言葉を信じていただけで。
「そうですね。ではとりあえず僕が魔術を見せますね。そのまえに……」
ジプチが手を胸の前で合わせ唱える。
『魔術結界』
ジプチと私を囲うように直径15メートルほどの球形に薄い膜ができた。なんでも外側からの干渉を遮る効果と、内側で魔術が暴発した場合に外に与える影響を抑えるという効果があるらしい。
『炎の玉よ我が手のひらに!』
そう唱えるとジプチの手のひらにちょうど収まるくらいの赤く燃える炎の玉が現れた。
私は初めてまともに魔術を目の前にして、感動した。
しかし
「ジプチ、毛!毛!」
手のひらと炎の玉の距離が近すぎたため、毛に燃え移ろうとしている。
「に゛ゃ~~~~!水!水!」
私はとっさに上着を脱ぎ、叩いて消そうとするも、ジプチがパニックを起こし火の玉自体を消さないのであまり意味もなく、ただ上着に穴があきそうになっただけだった。
『結界解除、水の滝よ現れろ!』
男の声とともに私とジプチの上から大量の水がふってきた。
流れる水、水、水
滝行のごとく水に打たれた。
15秒ほどたったころようやく水が止まる。
むせるジプチ、私は突然のことに茫然としていた。
「まったく、お前はおっちょこといだな。」
かんだ。人のことを言えない。口ぶりからしてジプチの知り合いなんだろう。
私は顔を手でぬぐい、髪の毛を絞りながら声のほうを向いた。
そこにはよく手入れをされた三毛の毛並み、すらっとした体躯の猫又がいた。




