第16話 装備と体力
研究施設に戻るとデリックがすでに帰っていて、会議室で忙しそうに荷物整理をしていた。
私の服や靴のほかに、様々な防具、武器といったものも散乱している。
その中でひときわ目を引くものがあった。
これは……ゲームの中では良く見かけるがまさかこんなものが実際にあるなんて!
というか、デリックはどういうセンスをしているのだ。服の好みは軽く聞かれていたから大人しめのもの、色は茶色やグレーが好きだといったのに。
そこには派手派手な、真っ赤の、ビキニアーマーがあったのだった。
「デリック!わ、わ、私、絶対こんなの着ませんからね!」
「いやいや似合うと思うよ?」
「似合いません。第一心臓の位置に金属部分が無いじゃないですか!」
「そうは言っても、女らしいものがあまり無くってな。」
「いやいや、守れない防具は防具じゃないでしょうが」
しばらく私とデリックが言い争ったあと、
「王様に謁見するときにはこういうのがそれらしくていいかと思って」
などと言うので、試しに服の上からあててみよう、と仕方なく手に取った。
「重いっ! こんなん着たら絶対肩がおかしくなる」
私は両手で持ち上げるのも精一杯で、そんな感想を述べた。十五キロ以上は確実にあるだろう。
デリックは意外そうに髭をなでた。
何でもデリックのいた世界では女戦士が鎖帷子の上に付けて、仕事着をオシャレに着こなすためのアクセサリーだという。 アクセサリーに命かけすぎだろう。デリックの世界でも戦う人は力持ちなのだろうな。私はあんなの付けて戦えない。と、いうか、動けない。
とりあえずビキニアーマーは却下した。
防具は他に鎖帷子や金属製の鎧もあったが、やはり重く、昨日までただの女子大生だった私が身に付けるのは無理そうだった。
「ここはやはり『かわのふく』とかがいいんじゃ? あとは『たびびとのマント』とか、『ローブ』とか」
私がよくあるRPGを思い浮かべながら言うと、難しそうな顔でデリックは頭を掻いた。
「いやいや、普通、魔法使いでもローブの下に鎖帷子を着るもんだ。和美はそれすら無理なんだから、これくらいしかないだろう」
そういって、デリックは革の鎧を渡してきた。
凝った意匠の濃茶の鎧。重さはあるけれど、先ほどの金属製の鎧や鎖帷子よりはずいぶん軽く感じる。三〜五キロくらいだろうか。肩、胸、腰回りの三ヶ所を重点的に守る造りだ。
「それと、それで大丈夫そうならこれを下に着ること」
長袖の服と7分丈のレギンスのようなものを渡された。見た目に反して重い。下手すると革の鎧と同じ重量があるかもしれない。
「特製の鎧下だ。貴族の子女でも着れるように軽量化してあってな、重要な位置には金属のリングが縫い込まれている」
本当に私は戦いの世界とは離れた人間なんだな。デリックの言葉に少し考えながら、とりあえずあとで合わせてみようと鎧下と鎧を脇の椅子に置いた。
「あとは、靴は紐靴にしたから自分で調整するといい。ブーツだから防御力も少しはいいだろう」
膝の上までくるヒールのないニーハイブーツだ。茶色でどんな服にも合いそう。
「あと、服、下着は自分で確認しといてくれ。孫娘に付き合ってもらって買ったのだが、流行りものは解らん! 全く恥ずかしくて堪らなかった」
デリックが顔を赤くして服と布袋に入った下着を渡す。私は買った時の場面を想像して少し笑ってしまった。
「わざわざすみません」
「着方がわからないと困るからとメモも付けたそうだ。私に聞かずにそれを見てくれ」
全くとかなんとかぶつぶつ言いながらデリックは私室に戻ると言って出ていった。話があるエルと今日の報告をするだろうジプチはデリックを追いかけて行った。
三人が出て行った後、改めて鎧を体に当ててみて、体力付けないとこの装備でも長時間だときついなと思った。




