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ねくら  作者: 名無しの
其の① 狂実少年と現実少女
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自殺頭痛



「……なんで」


 予兆はない。

 その数秒前までは、どんなに下らない事だって考えられるし、本当になんの痛みも感じない。

 だけど、僕には分かる。

 いつもそうだ。

 確かな前触れはなくても、僕は本能的に気がついてしまう。


 あと数秒で、僕の頭が破裂すると。


 「………ヤバい……頭が、やばいやばい、くる、くそ、タイミングわ――」


 それは突然やってくる。

 タイミングなんて計れない。

 そいつは痛みに耐える準備の時間さえくれない。

 「がぁ、ぐ、あぁぁぁぐっっっっっっっっっあぁぁぐ、ぐっがぁあああああああああ――」

 僕は床に崩れ落ちた。

 無様に顔面から。

 右目の奥に、この世のものとは思えない痛み感じたから。

 立っている事など不可能だったから。

 それは痛みなんて生易しいものじゃない。

 形容するならそれは『死』そのものだ。

 目の奥から生暖かい血液がじわじわと溢れ出してくる。

 眼球の奥で、アイツが、僕の神経を、肉を、引き千切って、食い散らかしているからだ。 

 「うぅ、っっっうぅ――」

 もう、叫ぶ事も出来ない。

 生まれてきた事を後悔する暇も無い。

 絶望する事も出来ないまま、只、波の様に押し寄せてくる痛みを受け入れるしかない。

 僕に出来る事はただ歯を食いしばって頭を抱えて唸る事だけだ。

 唯一の救いは痛みで立ち上がる事が出来ない事。

 もし立ち上がれたら、僕は窓を突き破って校舎から飛び降りてしまうから。

 死ぬ時まで誰かに迷惑を掛けるのはご免だ。

 僕の願いは、今すぐこの想像を絶するような痛みから逃れる事。

 声に出して叫びたい。

 殺してくれと。

 でも誰も僕を殺してくれない。

 僕には死ぬ権利がないらしい。

 だから死ねない。

 死ぬ価値すらない。

 頭の中の血管、神経を全て、根こそぎ引っ張り出してしまいたい。

 それができないのなら……。

 痛みの波は徐々にその度を増していき、僕は自分自身の手で、いっそのこと右目を抉り出してしまいたい衝動に駆られた。

 もう耐える事が出来ない。 

 僕の意に反して、手が右目へと向かった。

 震える指先が、生暖かい粘膜を纏った眼球に触れる。

 抉り出したい。

 衝動が抑えきれなくなっていた。

 アイツが眼球を突き破って、外に出てくる前に、自分自身で、僕を終わらせる。

 もうそれしか方法が無い。

 人差し指と親指で、滑った目玉を掴もうとした、瞬間。

 両目から有刺鉄線を突っ込まれ、脳髄を絡めとられ一気に引き抜かれたと錯覚しかねない痛みを感じた。

 反射的に指を離す。

 痛みに呼応して、眼球の奥から流れ出す様に、痛みが全身へと伝染していく。

 心臓の鼓動が胸を突き破る程に、僕の体を上下させた。

 目の前の世界が、何時にも増して、歪んでいる。

 机も、椅子も、黒板も、全てが溶けてしまったかの様に、その形を成していない。

 僕の頭の中の内容物が溶けてしまったからだろうか。

 まるで薬の中毒者の様だ。

 目の前の光景は曲りくねり、机や椅子が、まるで蛞蝓か何かの生き物の様に、床を這いずり回っている。

 いつのまにか、痛みは無くなっていたが。

 目の前の光景は、常軌を逸していた。

 赤や青の光の柱が刺し込む様に乱立して、世界が光り輝いている。

 そんな光景の中で。

 僕は何も感じなかった。

 痛みは消えた。

 そして音も消えた。

 僕の感覚が無くなっていた。

 僕は指先で眼球を掴んだ。

 感覚が無い。

 ただ目玉を掴んだという不確かな確信が有るだけだ。

 指先に少しだけ力を入れる。

 目の前の世界が圧縮された様に縮小する。

 さらに力を込めようとしてみる。

 目の前の世界が蝋燭の炎の様に揺らめき反転した。

 掴んだものを、思い切り握りつしてみる。


 目の前が、真っ暗になった。


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