私は怪になりたい
しゃがみ込みヘルメットを持ち上げると、中には鼻先から尻尾まで全身真っ黒な子猫が、三人。
「子猫?」
僕の後ろに居た少女が近づいてくる。
「まだいる……何処かに隠れてるけど」
あと二人いるはずだ。
僕は鞄の中をがさごそとあさり、いつものやつを取り出した。
「ほー、可愛いですな。どれどれ、こっちにおいで。大丈夫、私、安全な人間だから。隣の辛気くさいおにーさんより何百倍も安全第一だから。さすがに自転車の補助輪は外してるけど。お姉さんはなにもしないよー無害で無垢な善良少女だよー」
自らそう自己申告して、少女が「チッチッチッ」と別にむかついてる訳ではない舌打ちをする。
警戒心の強いヤツらなのだが、子猫達は少女によろよろと歩み寄っていった。
少女が喉もとを撫でてやると、子猫は嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし始める。
僕がコンビニで買ってきた缶詰を開けるとその匂いに釣られて、残りの二人も何処からかその姿を表す。二人は最初こそ警戒して遠くからこちらを眺めていたが、天真爛漫過ぎるちっこい少女が無害とわかったのかそれとも空腹に負けたのか、徐々にこちらに近づいてきた。そして離れた場所で少しこちらの様子を伺った後、やっと踏ん切りがついたのであろうか、おずおずと缶詰に手を出し始めた。
少女に撫でられていた子猫達は、他の兄猫たちが食事を終えるまで、決して僕の持ってきた缶詰に手を出そうとしなかった。
そこら辺の上下関係は猫の世界では、はっきりとしているものなのだ。
無駄な争いはしない。
人間よりもよっぽど優秀である。
猫とはまっこと合理的な生き物なのだ。