ブルーまんでぇいいえぇいいぇい
黄色と黒の絶妙なカラーリングで危機感を演出している『立ち入り禁止!』の看板を僕は意に介さず、少女は「なにここ、面白そー♪」と言ってかろやかにスルーし、二人してその役割をまったく果たせないでひたすらに肢体を錆びつかせ続けている鎖を跨ぐ。
ここは学校から意外に近い距離にある、とある廃工場。
………………いやいや、まったく、僕んとこの学区が辺鄙な片田舎でよかったヨカッタ。
錆び付いたパイプが所々でむき出しになっていたり今にも動き出しそうな高炉っぽい物体がある点から推測して、おそらく昔は製鉄所だったのだろうか多分おそらくいやしかし。
とりあえず、いかにも町外れの廃工場といった感じ。
そして、いかにも出そうという感じでもある。
近隣の住民は誰一人として、ここには近づかない。
なんでもここは自殺の名所らしい。
それは、近くにあった公衆電話の中におもむろに置かれた山盛りの十円玉、そして志願者の意思を挫くような呪文が書かれた紙が貼られていた所から、まぁ推測できるよね全く簡単になぁに僕ぁ最初から分かっていたけどね。
とまぁそんな感じて、僕はまだ見た事が無いが、結構な数の人がここでぶら下がっていたという話。
噂では真っ昼間っから白塗りブリーフの変質者が出没するとかしないとか。
そんな理由が有るようで、もちろん頭の小利口な一般ピーポォーは誰もここには寄り付かない。
と、少女にこの話をしたところ「じゃあ、幽霊とかいるのかなー、ねぇ、どこどこ? 写真撮ろうよー」とかなんとか言って場違い甚だしくはしゃいでいた。
まっこと、変わった少女である。
……なぜだろう、皆、どうしてこんなに良い場所を訪れようと思わないのだろう?
京都の有名なお寺まで行って「ほう、禅とはこういうモノか」とか知ったような口を叩いてないでここで座禅でも組んで精神統一をした方がよっぽど精神向上すると思うのだが(いろいろな意味で)。まぁでもそうなられたら僕が困るのだけれど……全く、実に勿体ない。
工場の中程まで進むと無駄に開けた場所に出る。
そこには、正面から見ると、学校の体育館程度の大きさの六角形を半分に切ったようなシルエットの建物がある。
かつては重層な鉄の扉があったのであろう入り口は、今ではぽっかりとその大きな口を四六時中ぽけーとしている痴呆症老人よろしく開けっ放しにしている。
屋根は所々抜け落ちていてそこら中にかつての面影を残す大きな機械やらなんやらが無造作に置き去りにされている。
外から見ると良くわからないが、建物内は意外と明るい。
薄暗い中、天井から刺しこむ適度な光が程よい具合(僕主観)に青白い空間を作り出しているのだ。
「へ~、学校の近くにこんな薄気味悪くて寒気のする場所があるなんてねー。全然気がつかなかったよ」
少女がうんうんと頷きながら言う。