一般的な高校生の登校風景 2
外は夏休みが終わったというのに蝉がミンミンミンミンと小うるさいを通り越して僕的には全滅してほしい位うるさい。み~んみんみんみ~ンの方がふさわしいか? 心なしか蝉の鳴き声がミンミンミンからシネシネシネに聞こえてきたのだが、耳の錯覚とは真恐ろしいものである。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
問題は蝉の鳴き方ではなく、この異常な暑さだ。
まだ自転車で走り始めて十分と経ってないのに汗でワイシャツが背中に張り付いてくる。 はっきり言って気持ち悪い。いや、はっきり言わなくても十分すぎるくらい気持ち悪い。中にタンクトップでも着てくれば良かった、と少し後悔したが、時既に遅しなのでなるべく頭の中をマシュマロにする方針で生きたいと切に思う。
前方の信号がまるで青から赤に進化しようとしている全身タイツのオッさん(中身が)(たぶん)のカラータイマーみたいにせわしなく点滅を繰り返している。
こういう時は、その人の性格が良く現れる場面だと僕は思う。
もう間に合わないとふんで無駄な体力を使わずにゆっくりと進む奴と、別に急いでないのになぜか分からないけど無性に全力ダッシュしたくなる奴っていると思う。そこに今の僕の様に限定された時間という制限が加わると、これまたおつなものだ。
で、僕は勿論前者の方である。
僕の場合は時間が絡んできても大体前者の方を選ぶと思う。体力無いし。
「…………………」
それにしても、暑いな。
暑い中、わざわざ狙って照りつけていると錯覚しかねない太陽の光に焦がされている他校の生徒(多分スルメ志願者)を尻目に、僕は自転車を道の小端に寄せ、木陰に隠れて一休みをする。
木陰に居るのに額に汗かきむさ苦しい醜態を晒しながら休んでいると、僕の目の前を、赤いランドセルを背負った女の子と黒いランドセル(赤だったら怖い)を背負った男の子が仲良く手を繋ぎ、笑顔で駆抜けていった。
このくそ暑いのに「うふふ♪」「あはは♪」とか聞こえてきそうで一気に真夏の怪談宜しく背筋がブルブルしかねない。
僕はその様子を気の抜けた炭酸飲料みたいな心持ちで眺める。
今時、珍しい光景。
ボーイとガールがミーツして仲良く登校ですか。
うふふ、と、あはは、な世界。
うーん、青春の味がする。
山椒?
なんか苦いね。
そしてふっと思う……あー死にてーと。
気がつくと、信号の発光ダイオードは既に緑になっていた。
それでも、僕は動かない。
道行く人が僕の事をジロジロと訝しむ目付きで見てきたので、やっとのことで僕はペダルを漕ぎ始めた。
全く、人気者はいやおうにも目立ってしまうから困ったものである。