無理矢理作るオモイデ
6時間目の授業が終るとホームルームは省略され、校内の生徒達はそれぞれが胸の内に秘める思いは違えども(ある者は意欲的に、また有る者は消極的に、そしてほんのごく一部は無関心を貫く)着々と一週間後に控えた文化祭に向けての準備を開始した。
僕の所属するクラスはもうとっくのとっくに準備完了、いっつでもこい! の状態であるのだが。
ただ一人、たった一度の協力もしなかった僕だけは、皆の鬱憤ばらしという名のあからさまな嫌がらせを一手に引き受け、ほとほと満身創痍な状態で教室を後にした。
そして、同じく文化祭の準備には全く参加していないであろう少女の携帯に覚えたてのメールを打ち、いつもの場所へ向かう。
相も変わらずの寂れた資料室で少女を待つ。
少女はいつも来るのが遅い。
自分からメールをしてくるくせに、身勝手な奴だ。
ほんの少し開いた扉から、やっと部活を引退して受験勉強に励んでいても可笑しく無い三年生の元気のよい耳障りな声が、僕の耳の中に無断侵入してくる。
この学校では三年生は文化祭で劇をやる、というのが暗黙の了解となっている。
これは何も強制では無い。
にもかかわらずなぜ劇をやるのか? とほとほと疑問ではある。
さしずめ、卒業までに何か思いで作りをしたい、という一部の人間の策略であろう。
なにもクラスの全員が無理やり作る『オモイデ』がほしい訳ではないと思うのだが。
まるで『オモイデ』の押し売りだ。
せっせとガリガリ勉強したい人間も居るだろうに。ただ、それを態度で示してしまったら異端者としてクラスの連中の冷たい視線と陰口がもれなくプレゼントされるのだけれど。皆が皆、祭り事が好きな訳ではないという様な思いは自分の心の内に閉まっておくのがいいのだろう。まぁでも、教師や親は息抜きと言うけれど、それを望まない者も、たまにはいるもんだ。
僕の場合はそれが極端でかつおおっぴらに表面化しているけど。
いずれにせよ、そういったイベントは僕には関係のない事だ。
………それにしても少女は来るのが遅いな。
もう一度メールを……めんどくさいな………帰るか……
「もしかしてさ、私の存在に気づいてないとか?」
突然、僕の背後からそんな呟きが聞こえてきた。