もしも高校が野球部でマネージャーがドラッガーだったら……
「あ、そう、じゃ今のは無しって事で」
こうなりゃ、証拠隠滅すべし。
「というか私、そんなに気にしてないし。ふふ、君って、やっぱり面白いね」
「…………」(なんたる寛容な少女であろうか……さてはこやつ聖母マリアあたりの生まれ変わりではないだろうか? まぁ取り敢えず僕のブタ箱行きはしばらく先の事になりそうだな……ああうれしいなぁいやほんとにうれいいってばさぁ……はてこれは喜んでいいのだろうか?だれか教えてギブミーチョコレート)
少女の意外な反応に対しての処理が追いつかないならまだしもこの空気の中場違いなボケをかましている僕の木偶の坊な脳みそを幾分か小突いてみる……わかりきった事だけれども、どうやら中身は空っぽの様だ。
そんなこんなで多少混乱しつつ、やはりなんと言っていいか分からず、別に目の前に水着の爆乳褐色美少女が居る訳でもないのに無駄に挙動不審を装って視線を宙に游がしていると……。
「そんな事よりさ……じゃ~ん! これなーんだ? 3、2、1はい、どーぞ!」
少女が胸に抱えた布袋から、薄いマリンブルーのプラスチック製の箱を取り出した。
こ、これは……で、伝説の……
「いらないよ」
一応、即答しておく。
我ながら見事な切り返しだったと思える程に自然とその一言が喉から土左衛門。
「ちょ! 君、冷たいなー。せっかく乙女が血と汗と、えーと、あと涙を詰め込んで作ってきたのにー、それは無いんじゃないかな?」
なんともわざとらしいジェスチャーを織り交ぜる少女。
血と汗は混ぜてほしく無い。
いやまて軽率だな……血は……鉄分か……いやしかし、涙は塩分が有りそうだからまだいいが……さすがに血は……僕にはパラフィリア的な性的倒錯は、無いと思う……思いたい……いや思うべき。
「……僕には水が有るから」
「水? それだけ? 嘘でしょ?」
少女が唖然としている。
「あと塩」
「それ、もしかして、毎日とか?」
「……たまに栄養ドリンクとか飲むけど…」
「もう、いいよ……なんか、聞いちゃいけない事聞いちゃったみたいで、少し胃が痛いくらいだよ……そっか、いいの、何も言わないで。私、素性とか気にしないタイプだから。じゃあ、なおさら、取り合えずこれ食べときなよ」
少女が長方形の箱を押し付けてくる。
「ちゃんと、食べなよ。君、ただでさえ死にそうなくらい、ていうか、どっかの呪縛霊みたいに顔色悪いのに、それ食べなかったらホントに化けて出られそうだし。そゆことで、それ食べて栄養付けて、少しは顔色よくしたほうがいいよ。容器は後で返してくれればいいからー、じゃね♪」
少女はそう言って颯爽と資料室を出て行ってしまった。
後に残ったのは爽やかな色合いの弁当箱と、おそらくしかめ面であろう僕。
弁当か……はたして、少女の作った弁当を、この僕に、食べる権利があるのだろうか?
ここ一週間で一番の、疑問だな。