火が水に入ると、どうなるか?
「ケイ!」
少女の声が、僕の脳裏で反響し、曖昧だった視界に、亀裂が入る。
「ケイ! しっかりしてケイ!」
少女が、僕の手を、握っている。
視界が少しずつ、はっきりとしていき、暗い沼底から、僕の意識が、引き上げられる。
その時、僕の意に反して、自然と僕の目線と少女のそれとが、重なった。
少女の、恐怖の色を微塵も感じさせない、真っすぐな瞳が、僕を、見つめている。
僕は、少女の瞳から逃げる様に、視線を宙に戻した。
…………………………。
冷静な思考状態を取り戻し、自分の行いを思い直してみる。
「……ごめん」
一応、謝っておく。
まさかこんな小学生みたいなヤツに見られるとは…………
面倒な事をしてしまった。
どうしようか?
うーん。
ふぅ。
あ、ていうか、これでこの少女きっと「な、なにこいつ! へ、変態!」とか言って、怖がってこれ以上僕と関わり持とうとしなくなるか……なんだ、それでいいじゃないか……謝って損した。
「いいよ、気にしないで」
少女はまるで、何事もなかったかの様に、あっけらかんとしている。
ん? んんん? ちょっと待て? コイツ、何言ってるんだ?
「……そ、それだけ?」
えと、一応、今さっき、自分はかなりやばい事を少女にしそうになっていた様な気が、というか、一歩間違えれば完全に犯罪者だったなぁ。運がいいのか悪いのか、いや、良いのか、客観的に見ると……。
「あーべつに。こんな事、うちじゃ結構良くある事だし」
少女がそんな事をしれっと言う。
おい、まてまてまて、良くある事って、コイツ……。
どこのヨハネスブルグからの帰国子女だよ………。
割りと本気で、そう思った。