真顔で横っ面をぶっ叩くと友情が芽生える、かも
面白みの欠片も無い四時間目、化学の授業が終わり、今日も教室に僕の食欲を跳躍的に減退させる匂いがたちこめ始める。
僕は一刻も早く教室から脱出したかったので、そそくさと脱出口へと向かう。
1秒でも早くこの教室から出たいと強く思いつつ扉に手を掛けようとした時、4組の方が少し授業の終了が早かったのかどうかは知らんが、明らかに高校生ではない人物が布袋を携え廊下に立っているのが、ドアの隙間から微妙に見えた。
一旦、ドアを閉める。
今、僕の目に入ってきたのは、どこぞの小学生だろうか?
この学校はいつからエスカレーター式の誰もが夢見るそんな私立に変わったのか?
数秒間、ドアの前に突っ立って、戸惑ってみる。
そして後ずさり、振り返り自分の席に目を向ける。
自席の前方にはギャルに成り損ねた脱色髪のギャル男と野球部のすっきりと熱苦しい丸坊主達という異色の組み合わせの集団が、仲良く弁当袋を広げていた(そこそこカオス)。
…………ふむ、どうしようも、ないな。
仕方がないので前進し、扉をスライドさせ教室から撤退。
そのまま前方を見ずに回れ左して水飲み場方面に向かおうとして、いつぞやの様に、肩を叩かれた。
嫌な予感がうっすらと背筋から這い上がってきた。
ここで僕は蜘蛛の巣だらけの脳みそを無理矢理回転させ、瞬時に損得勘定を開始する。
何時かみたいに急に首を90度曲げられるのはもう御免だ(あれ以来若干ヘルニア気味……ん、関係ない?)、とにかく、ここは素直に己の浅はかさを認めるのがよかろう。いや特に何もしてないけど。
二歩斜め後ろに後退し、少女の隣りに移動する。
「あのさ、お弁当つくって…」
「資料室に居る」
僕は少女の言葉を遮り、そう言った。
それは見事なノールックで。
空気とお話し出来てしまう様なそんなファンタジーな人物を想像して。
只、前を向いて、廊下の突き当たりに向かって、言葉を発する。
多分、見られてい無いと思うけど。
誰かに見られたら、色々と厄介だから。
少女が次の言葉を発する前に、僕は早足でその場を立ち去った。
僕の夢は凶歩……競歩で、てっぺんを取る事だから。
珍しく一段飛ばしで階段をそれこそ転がる様に降りてみたら、爪先を微妙な段差に引っ掛けて、盛大では無いけどなかなかに慎ましやかに転んでしまった。
転んで踊場に手を付き前髪を振り乱したまま、少しの間、朦朧としていたけど、やっとのことで立ち上がろうとして顔を上に上げたら、丁度階段を降りてきた女の子と目が合った。
なんだ手でも貸してくれるのかな、と性善説にのっとった期待をほのかに胸に抱いてみようとしていたら、
「きゃーーーーーー!!」
という、こちらの期待を鼻先から躊躇無くへし折る様な悲鳴が階段に響き渡った。
女の子の目線は僕の顔に注がれていた(赤面)。
いや僕ってそんなにイケメンですかなどと真顔で横っ面をぶっ叩いてやろうという気持ちを思い起こさせかねない発言をふと想像して、自分の顔に手をやってみる。
………なるほど、空になっているではないか。
なんだどうした何事だ、と人がわんさか集まってきた。
僕は直ぐさま立ち上がり、目の前に転がっているビー玉を拾い上げ、我が民族随一である得意技の満面の笑みをその場の生徒に撒き散らし(なぜか皆、顔がもの凄い勢いで引きつっていった)脱兎の如く、いや赤い馬の如く、その場から走り去った。
後には鳴き声まじりの悲鳴が残った。
取り敢えず、僕は走った。
マッタクミンナオオゲサダナァ…………