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ねくら  作者: 名無しの
其の① 狂実少年と現実少女
24/43

記憶の片隅

 


 

 結局、僕はその後、冷蔵庫(凄く大きい)に余った材料を収納したり、テーブルを拭いたり、食器を並べる単純作業に成就し、少女の手伝いを全うした。


 役には立った、と思いたい。


 やはり少女と向かい合って座るのは僕のナイーブな心が許さなかったので少女との議論の結果、少女に「食材費私もちなんだけどさー」と痛い所を突かれてしまい、あえなく僕が折れた。

 仕方なく、少女と向かい合う形で着席する。

「じゃ、いただきまーす」

「……頂きます」

 死して僕らの一部になってくれる生物達に最低限の礼儀を示し、すぐさま鍋を因縁の宿敵の様に眺めてたであろう僕は、血気盛んな若人よろしく鍋に襲いかかろうとする。

 が、しかし、少女がそんな僕を箸で制止する。

「あのさ、私がとって上げるよ」

 少し恥ずかしげに、僕が今まで経験した事の無い言葉を発する少女。

 言葉の意味を吟味してみる。

 「私が、取って上げる」……わたしが、とる……私が、殺る……つまり、「俺がお前の首を取ってやるばい!」という極道文句の様な意味だろうか? いや、しかし、この場でそのような意味を用いる訳が無いから、もしかして、

「男の子だからー、はい、野菜多めに入れといたよ」

 と、少女が僕のためにわざわざ、鍋の具をとってくれた(野菜多め)。

「………………」

 ……あ、いかんな、つい惚けてしまった、

 ありがとう、と心の中で呟いてみる。

 いくら僕の性根が腐っていても礼くらいイエルヨ。

 なるべく全神経を口の中に集中させて、一口食べてみる。

 そして二口、三口、四口と箸が止まらない。

 ここ数週間まともな食事にありついてなかったからだろうか、食欲が濁流の如く止まらない。

 うまい、う、うまいぞ! こいつ、で、できる、こ、こいつはエース級だ! とか何とか考えてる内に――—

 あっ、と言う間にお椀の中が空になる。

 ダシが良く具にしみ込んでいて、味も濃すぎず薄すぎずで、なかなかにイケル味。

 ずばり星四割五分五厘くらい。

 こんなまともな料理なんて何年ぶりだろうか? 

「まだまだ沢山あるから、どんどん食べてね」

 そう言うと少女が僕のお椀を取り、心無しか小さな声で「お、おいしい、よね?」などと聞いてきた。

「……美味しい」

 と、正直な感想を述べる。

「と、当然だよね」

 ほんのりと頬を上気させ、少女が自信満々といった感じで答える。

 また、少女に具を取ってもらう。

「はい、いっぱい食べてね」

 少女からお椀を受け取る。

 今度は魚介類が多めだ。

 食べながら、ふと考える。

 なんで自分はこんなにもこの少女と普通に話しているのだろうか、と。

 ついこの間、初めて知り合った転校生で、違うクラスの少女。

 僕が……こんなにも人と会話をしたのは、何年ぶりだろうか?

 僕にしてみれば、奇跡としか言いようがない。

 この少女と話をしていても、僕の心は、陰る事が無い。

 ……怖く、無い。

 人と会話をしていて、僕がまともなままでいられる。

 いつもならありえないはずなんだけど。

 どうしてだろうか?

 この少女は、平気だ。  

 ……まったく、この少女は不思議だ。

 いままで、僕が出会った中に、こんな奴は……。

 少女の目を見た時、僕は、何を、感じた?

 どうして、僕は、この少女と……。

 ……どうしてだ?

「でも、久々だなー、誰かと一緒にご飯食べるのってさ」

 少女の声。

 この声。

 どこかで。

 どこかで、聞いた事が……。

 でも、どこで?

 もしかしたら……………。

 考えすぎか……。 

 ない、そんな事は、あり得ない。

 そんな事が……あるはずが、ないんだ。

「どうしたの? ケイ、なんか顔色悪いよ? 食べ過ぎで苦しいの?」

「違う……何でも、無い」

 すっかり空になった鍋を見つめて、そう答える。


 あり得ない。


 あの子は、僕が………。


 僕が………?




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