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ねくら  作者: 名無しの
其の① 狂実少年と現実少女
21/43

電車 in the 女子高生



 「えー、うっそー、なにそれ? 信じらんなーい」

 …………。

「いや、これマジで本当なんだって」

 外の景色に目を移してみたが、窓ガラスに反射した自分の顔が目に入ってしまい、また下を向く。

「え、なになに、それ何の話?」

 電車が揺れる。

 足下がぐらつき、反射的に吊り革に手を伸ばし、なんとかバランスをとる。

「だからさぁ、この前の打ち上げの時にさ、男子がクラスの女子にランク付けてたって話」

 連結部分のドアに身を預け、視線を車内へと向ける。

「うわぁ、何それぇ、そういうのってマジ酷くない?」

 車内で他人の迷惑それ上等な大声で話し合ってるのは、どこぞのやたらとスカート丈の短い女子高生の集団。

「マジありえないわぁ、そんなん女子でもやんないって」

 ……………?

「てかさぁ、うちのクラスの男子なんて、誰も相手にしてないっつの!」

 何故、あの女共は、ドアの近くで、群れているんだ……もしかして、嫌がらせ?

「だよねー、あんなレベルの低いやつらがそんな事言うとか、まじありえないから」

 電車が駅に着いても、床に置いたバックを退かそうともしない。

「でもさー、男子の中で一番かわいいと思われてんのが島津って、マジありえなくない?」

 これでは降りる人にも乗車する人にも迷惑極まりないではないか。

「えー、ソレありえないわー、なんであんな子が一番なわけ? マジムカつくし」

 アリエナイのはお前らだろ、と言える勇気は、まぁ僕にある訳が無い。

「だよねー、なんでよりによって島津なのか、マジわけわかんないよねー」

 車内の人たちは、当たり前の様に皆目を下に向け、誰も彼も、彼女達を注意をしようとしない。こういう態度が日本の若本達を駄目にしてしまうのか、と思い込んでみる。

「ね、マジそう思うでしょ? あいつさぁ、なんか最近また男子に媚びだしたよね」

 仕方がないので、目を瞑り、瞼の裏に引きこもる。

「あー分かるー、あのネクラ女、最近また調子乗り始めたよねぇ」

 ……………がたん、ごとん、が、ががが、たん、ご、とん―――

「ていうかさぁ、島津ってさぁ、マジでうざくない?」

 ……………腹が、減った。

「だよねー、ていうかぁ、あいつさぁ、あんだけ嫌がらせ受けてまだ学校来るとか、マジでどういう神経してんだろうねー」

 ………空腹……何を、食べようか?

「また、あいつの教科書、燃やしちゃおっか?」

 破るんじゃなくて燃やすか………よくあるよね………………

「だめだってそんなんじゃ。それじゃ足りないっての。今度はさ、体育の時にあいつの制服、燃やしちゃおうよ」

 それやられた事あります何回か……………耳でも、塞ごうかな………割と本気で、塞ぎたい。

「うわー、それマジ鬼畜ー」

 オーイ、キチクハオマエラダゾー。

「えー、なにそれいいじゃん。マジであいつにはそれくらいやんなきゃ。また調子付くとかムカつくし」

 目を開ける。

 顔を少しだけ上げて、空っぽの女共を見る。

 空っぽだと思っていた女共の中には、憎悪が、押し合いへし合い、てんこ盛りだった。

「てかさ、私たちのストレス解消もできて、お金も貰えるって、最高じゃない?」

「アハハ、それ言えてる」

 僕の中で、アイツのどす黒い感情が、蜷局を巻いて、渦巻き始める。

「あいつさぁ、こんだけ嫌われてるのにさ、まだうちらに話しかけてくるとか、まじでウケるよねー」

「ていうかさ、あいつ必死すぎてマジキモいんんですけど。マジうざすぎだよ、あいつ」

 ああ、この感じ、なんか、抑えられないな。どうしようかな。

「あはは、あいつってさ、まだ私たちの事友達だとか思ってんのかな?」

 死なないといけない人間って、いるのかな?

「友達とか言って、あいつ、うちらの財布だったじゃん」

 この感情は、ぶつけてしまった方が、いいのだろうか。

「あはははは、マジでそうだったもんね、あいつマジでうけるよねぇ」

 他の人間にこんな感情を抱くなんて、僕ってなんて、ロマンチストなんだろうか。

 でも、この感情は、心の奥に閉まっておくのが、世間の常識なんだろうな。

 良かった、僕は次の駅で電車から降りられる。

 電車が、駅に着く。

 僕は、ここで、降りるんだ。

 僕は、降りる時、すれ違い様に、心の中で、言ってやった。

 只、前を向いて、目線を固定して、彼奴らに、

「死ねば?」って心の中で、

 ………あれ? 

 心の中で言おうと思ったけど、つい、口から出てしまった。

 僕が降りた直後、すぐにドアが閉まり、電車は前へと進み始める。

「………………」

 電車が、遠ざかっていく。

 色んな人の、色んな感情を乗せて、遠くに、行ってしまう。

 暫く、電車が遠ざかるのを静かに見守って。

 少しだけ湿った、淡い空気を、大きく吸い込んだ。

 そうしたら、ほんの少しだけ、気持ちが、落ち着いた。

 それから、僕はまた、歩き始める。


 まぁ、でも、あれは僕の本心だったから、いいんだろうな。





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