ロープ
絶望的な痛みの波は、去っていった。
だけど、未だ、耳鳴りと頭痛が酷い。
神経は鈍り、頭はまるで鉛の塊の様に重たい。
この痛みは、吐き気すら催す痛みだ。
それに、全身が、震えている。
視界は真っ暗だ。
呼吸はだいぶ落ち着いたけど、まだ荒い。
今回は、本当に、運が無かった。
まさか、このタイミングであれが来るとは、思いもしなかった。
だから、なんの準備もしていなかった。
それでも、この失敗は、完璧に、僕のミスだ。
全く、毎回毎回こうも失敗ばかりしているとさすがに嫌気がさしてくる。
こうまで失敗が積み重なると、もう、自分の弱さに只ただ辟易するしかない。
………………。
……まぁ、でも、こうやって繰り返していれば、何時かは、成功する時が来るだろう。
今のところ、僕はそう、信じている。
「ハハハ、失敗かァ、残念だったナァ」
「……また、お前か」
「おいオイ、または無いだロ?」
「……お前は、何時も僕が失敗すると、出てくるんだな」
「そうダナ、それが、俺の役目だしナ」
「嫌なヤツだな」
「それもマタ、酷い言いぐさだナ」
「だって、そうだろ、僕が失敗した時ばかり出てくるから」
「まァ、そう焦るなョ。俺としちャ、お前が何時も失敗してくれた方が、色々と、都合がいいんダからヨ」
「いつも、そう言うな」
「俺の立場からだト、そう言った見解になるんだョ……まぁ、それにしても、お前もなかなかに懲りないヤツだナ。先週も失敗したシ、先々週も失敗したじゃねェカ。まったく、オレもつくづくお前には手を焼かされるョ」
「お前が、邪魔したのか?」
「ン、それは、違うナ。俺は何もしていなイ。大体、俺はよっぽどの事が無いト、何もしなイ」
「それじゃ、僕自身が、自分で?」
「マァ、そう言うこったナァ」
「……全く、どうしようもない恥さらしだね。これじゃまるで生きながらにして恥を晒している様なものじゃないか」
「まァ、お前には恥をさらせる程の人間関係は無いけどナァ」
「……ああ、それもそうだな。僕は人間が嫌いだからね」
「オ前も一応、人間だけどなァ」
「あぁ、そうだ、僕は人間だ。だから僕は、僕が嫌いだ」
「ハハハ、そう、それでいいんダ。俺もお前も、随分と嫌われてる存在だからナァ。それが自然の成り行きってヤツダ。俺たちハ孤独に囲まれてるからナぁ。全ク、嬉しいよナァ」
「随分と、物寂しい人生だな」
「寂しいねェ、まァ、寂しさってもんハ、人間が怖がルもんだよナァ。人間かァ、人間ネぇ、でもナァ、俺たちにとってはコレが普通なんだョなァ。常識ってやつダ。俺モお前も、つまり世ノ中の一般から言っテ、アまり普通ってヤツの部類に入らねェんだョなァ。そうだナ、つまり俺たちは結構、例外的な存在って訳ダなァ。どうだァ、嬉しいカ?」
「…………」
「ハハハ、そんなにヨロこんでもらえると、俺達もウレしいヨナぁ」
「……もういい、もう、消えてくれ」
「マぁ、そう固イ事を言うなヨ。言われなクテモ、俺ハもうすぐ消エるんだからヨぉ……なァ、俺達が必要になったら、いつでも呼んでクレョ。俺はお前が得意な事は苦手だけどナァ、お前の苦手な事は大体得意だからョォ」
「……僕は忙しいんだ。僕は自分のやった事の後片付けをしなくちゃいけないからな。後始末をしないと。だから、お前は、早く消えるべきなんだよ」
「ハハ、後始末カ、そうだよナァ、後始末は面倒だよナァ、何にせヨ、自分のした事の始末ってモンはよォ………ハハハ。わかったヨ、俺ハ、もう、消える、けどナ、………最後に一ツ、イイか?」
「…………」
「ハハハ、お前がさァ、こういう事すんのハ、俺にとってあんまりメリットがねェんだけどョォ。まァ、もしもの時ハ、そん時に考えるとしテ。こりャ俺からのアドバイスだがよォ、今度同じ方法でやるときはョ、もっと、丈夫ナ縄、用意しとくベキだよナァ」
溜め息すら出ない。
ただ僕は、暗い天井を見上げるばかりだ。
世の中に生きる事ほど辛い事はあるか?
死ぬのは一瞬で、生きるのは一生の苦しみ。
本当に?
本当にそうか?
案外、死んでしまうより、生き続ける方が楽なのかもしれない。
そうだとしたら、僕は―――