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ねくら  作者: 名無しの
其の① 狂実少年と現実少女
17/43

妖怪子泣き幼女




 外の空気は湿った熱気に包まれていた。

 この季節独特のなんだか汗臭い空気を電子レンジに入れて煮詰めた様な臭いが鼻腔を直撃し、僕は少し咽た。

 校庭では授業が終ったばかりだというのに、野球部の連中が純白のユニフォームを身に纏い、ランニングに勤しんでいた。誰も彼も、皆一様に涼しそうな髪型だ。部室棟の前ではサッカー部とバトミントン部が業者や教員用の駐車スペースの近くでドッチボールに興じていた。相も変わらず、仲のよろしい事で。どうやら両者共また顧問のハゲ親父とデブ親父のコンビに叱られたいらしい。何と言う顧問愛だろうか。彼らの特徴はどう考えても教員に見つかったら怒られそうな事を毎度毎度、懲りずに行う事だ。不屈の精神ってヤツかそれとも折れない心ってヤツか、はたまた、ただ単に流されやすい人間の集まりなのかは、到底、僕の乏しい知識や経験からでは推測する事が出来ない。

 校舎裏の、二年生用の自転車置き場に行くと、やたらふくれっ面の小学生が居た。

 ……まったく、ダメじゃないか、ここは自称大人の溜まり場。つまり、かっこう良く言うと、高等学校だ。

 小学生が居ていい場所じゃないんだよ。

 ん、迷子? 

 しょうがないな……

 それじゃあ、お兄さんと一緒に職員室に行こうか?

 とか言ったら冗談抜きで多分僕はこの学校を退学になり兼ねない。それはまずい。

 ん? まてよ、それはそれで、口実が出来て――

「あがが、じょ、ぐ、やめ、で、ぐび、ば、やばび、あが」

 するっと、まるでお気に入りのスカーフを巻く様な手際で僕の首にロープが巻かれ、加減なく締め上げられていく。

「ねぇ、なんで無視するの?」

「ぐげぇ、ご、ごべんな、ざい」

 やばい。

 この子ホントに、加減を知らないらしい。

 あ、目の前が、真っ白。

「もう、さっきも携帯出なかったし……」

「がはっ、ハぁ、ハぁ、し、死ぬかと思った」

 頭の中の僕の呻き声が「あばばばばばばばばばばばばば」となる寸前で、締める力が弱められた。

 かなり危なかった。

 一瞬、売店のおばちゃんの顔が見えた。

 え、走馬灯が売店のおばちゃん?

「ねぇ、今度からは私の電話は絶対出てよね!」

 拗ねるような、小さい子供が駄々をこねる様な口調で、やけに「絶対」という言葉を強調して、言い放つ少女。

 そう、今まさに僕が誰に屠殺されかけたのか。

 犯人はこの幼女である。

 ……それにしても、コイツ、手加減という言葉を知らない地域出身の様だ。

「おい、だからって、行き成り首を絞める必要は」

「あるもん」

「ないだろ」

 どこの映画に出てくるサイコ幼女だこの幼女。

 あれ、なんか新しいジャンルじゃない?

「それよりも、今度からはちゃんと電話出てよね!」

「……いや、さっきは、クラスで文化際の話をしていて電話に出れな」

「嘘つき! だって私が電話した時、君が階段下りてるの見てたもん」

「……じゃあ、いちいち電話しなくて」

「だめなの! だって君、私が直接話しかけたら、どうせ逃げるでしょ?」

 おー、なんだこの幼女良く分かってるじゃないか。

「……ニゲナイヨ」

「ほら、やっぱり逃げるつもりだったんだ」

「だからって、首絞めることは無いだろ」

「ある」

「いやない」

 なんで僕の首を絞める事に対して一々固執するんだよ。

「……まぁいいや。僕もう帰るから」

 全く付き合ってられんよ。

 首が何本あってもこんなサイコ幼女に付き合ってられないな。

 僕はバックを籠に投げ入れ、自分の自転車を車列から引き出し、跨った。

「…………」

 なんか、重いな。

 太ったかな?

 ……どんな魔法だよ。

「……降りろ」

「あ、私、駅まででいいから」

「いや、だからさ、そうじゃなくてお、ぐ、がががが、じょ、ね、なん、で」

 く、苦しい。

 こ、これは、妖怪子泣き幼女の仕業か!

 いや、あのさ、ロープは反則だからていうかなにその手際の良さ首に巻きつくのがわかんないくらい手際いいってどこの殺し屋だよ、あ、でもさっきより加減してくれたみたい何この不思議な感動ねぇこれでいいのか僕?

「ねぇ、駅まででいいんだからさ。いいでしょ?」

「ぐ、わ、わかった」

 ここは黙ってこの少女の言う事を聞くのが得策か。

 はっ、警察に……確実に変な誤解されて僕が豚箱行だな……

 仕方無しか………

 だが、しかし、問題が結構山盛りにあるのだが……

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