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ねくら  作者: 名無しの
其の① 狂実少年と現実少女
13/43

サンマ定食(585円税込)



 あの後、半ば強制的に外出させられた僕は「美味しいものが食べたいなー」という高校生の昼休みに摂る食事には到底似つかわないリクエストを聞き入れ血まなこになり『おいしい』食事所を探した結果、時間も時間になってきたので少女を行列の出来るファミリーレストランに案内した。

 僕的には、無人で美味しい食事を出してくれる店を探したのだが、残念な事にそのような店は学校の近辺には存在すらしなかったみたいである。

 少女がなにやら文句を言っていた様な気がしないでもないが、とりあえず聞こえないフリをしといた。

 僕らが来店したファミレスは(ファミリーなレストランと謳っているもののファミリーよりはチンピラかぶれの高校生の方が多い)店の事などおかまい無しの我が校の在校生に人気のたまり場であった。

 が、しかし、この時間帯には当然この場所にそのような学生は存在しない。

 つまり何が言いたいのかというと。

 我が校のチンピラかぶれはしっかりと授業には出るらしい、という事を言いたかった。

 僕らは、店の一番奥の窓際席と正反対の環境の座席に隣り合って着席した。

 この隣り合う、という行為は別にバカップルに着想を得たというわけでは毛頭無く、僕の強い要望故の行為であった。

 当然の如く少女からの猛抗議が寄せられたが、我らの脳内議会はイエスかノーか半分かの三択を少女に提示し、無理矢理承認させた次第である。

 入店後、2分程で僕の注文は決まった。

 どうやら少女の方も既に決まったようだ。

「ご注文はお決まりでしょうか?」という明るめ鬱な声(僕的偏見)が聞こえてくる。

 おそらく若い女性の店員だろう。

 僕はメニューを指差し自分の注文を言い、自分の注文が終るとすぐに席を立ちトイレに直行した。

 どうも、こういった場所はあまり好かない……。

 人が沢山いるし、聞きたくもないのに笑い声が聞こえるし、人の臭いがするし、明るいし、アーシニテーーーといいう気分に否応にもなってしまうのだ。くわばらくわばら。

 注文した料理が運ばれてくるまで、僕は少女の休む事の無いトークに適当に相づちを打ったり、5回に一回くらいのペースで自分の意見を述べたり述べなかったりして、なんとかやり過ごした。

 人と話すのは僕の苦手科目(数多くある)だ。

 正直面倒くさい。人として駄目である。ていうなんで生きてんの? とかそういう話は無しの方向で。 

 ほどなくして、注文した料理が運ばれてきた。


 僕は自分の目を疑った。


 まず、僕の目の前に置かれたモノは良しとしよう。普通の和風定食だ。ここは洋風のファミレスだけど。

 問題は少女の目の前に置かれたもの、だ。

 チョコレートパフェ、イチゴパフェ、ふむ、ここまでは未だ良いであろう。

 さすがにお昼ご飯がダブルパフェはないだろう、とは思ったものの、女性は甘いもの好きっていうのは前に本で読んだ事がある。別段、お昼ご飯を菓子パンやスナック菓子などで済ませるOLや女子高生が存在する現代の世の中ではなんら不思議な光景では無かろう。

 しかし、しかしだ。

 この後に、フルーツパフェ、カスタードプリン、チーズケーキ、チョコレートケーキ、ラストにかき氷が僕らのテーブルに舞い降りた時には、さすがの僕も店員に「この席であってますか?」 なんて聞こうと思ってしまった。いや、聞かなかったけど。

 店員もまさにお顔真っ青であった。

「さーて、食べますかー」

 なんて、人の気も知らないで、呑気に言う少女。

「…………」

 僕はあまりの衝撃で、呆然としてテーブルに鎮座するスィーツ……いや、発音が違うな……正しくはスウィーツの大群を直視するよりほかなかった。

 そんな僕を尻目に、少女の食べるペースは意外や意外、早かった。

 某黄色い口だけお化けがドットを食べるスピードと同等、と言っても過言ではない早さでスゥィーツを平らげていく。

 聞きたくは無かったが、周囲の客が陰険な笑いを堪える声が勝手に僕の耳に進入してくる。

 仕舞には通り過ぎる店員までもが口元を抑える始末。

 僕が高校生(自称)で隣りの少女は明らかに小学生にしか見えないからって、少しは遠慮というものをするべきだ。ていうか死んでください全滅してくださいお願いします。

 しかも、である。

 僕はおそらく少女の隣りで箸を持ったまま授業中毎日の様に窓から外を見ている時に見かける校舎の一点(女子更衣室)を凝視しているよぼよぼのおじいさん(不法侵入)みたいな表情をしていたに違いない。

 笑われても仕方なし、と割り切るしか他ないのだろう。

 やっとの事で僕が自分の食事に手をつけようと我に返った時には、既に少女はかき氷に手を差し伸ばしていた。

 サンマ定食(585円税込)のワカメ万歳な味噌汁の生ぬるい温もりに奇妙な親近感が自然と湧いてくる今日この頃である。

 非常に悔しいが、隣りに座る少女はさぞかし満足そうな表情であろう。

 ふと窓の外に目を向ける。  

 相変わらず太陽の光がちりちりとアスファルトを焦がしている。

 日傘持ってくれば良かったな、あと、日焼けクリームとビーチボールも、ついでにスルメ焼きてー、なんか無性に。

 ………………あ。

 そういえば僕、誰かとまともに会話したの久しぶりだな。

 まぁ、でも、全然嬉しくないな……。

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